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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
局と魔法と原石たち
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ルーとミナ

トウヤにとっての一日目を迎え訓練場に行くと、そこにはミナとルーだけしかいなかった。


「他のみんなは?」


「時間のバランスと雑務を考えてローテーションを組んだ。今日は私が担当するよ」


「ルーは手伝ってくれないんだな」


「あたしはミナの付き添いよ。あんたを手伝うつもりは無いから」


ミナと一緒に冷めた目でルーを見てしまった。


「とりあえず制限付きのポーラと互角に戦えてるから魔法としては問題ないと思う。

やはりあとは基礎を鍛えて底上げするのが賢明だろうな」


「頼む」


「と言っても教えることは少ない。これから私の言う状態を維持してくれればいい」


「そうなのか?」


意外な発言に驚いてしまった。


「やってもらうことは簡単だ。今まで目や手に集めていた魔力を全身に切り替えるんだ」


「え?それってこれとは違うのか?」


実際にやって見せる。トウヤから魔力が発せられ強い風と共に、放電が起きた。


「それは私達が(はつ)と呼んでいる状態だ。私が言ってるのは周りに留めることだ」


ミナがやって見せると風も放電も起きない。でも何か威圧感のある空気が漂う。


「目に集めて見ろ」


そうミナに言われ魔力を目に集めるとミナの周りに膜のようなものが出来ていた。


「私達はこの状態を(かい)と呼んでいる。修行中や戦闘中はその目と体の状態を維持してるんだ」


全身に魔力を巡らせると魔力を発する形になったのでそういうものだと思っていたが、どうやら違うようだ。


「ああ、やってみるよ」


言われたとおり発する形になる前に戻したが、全身ではなくなってしまった。


「意外と難しい?」


「そうだな。魔力を発しながら、発さないように留める。ある意味矛盾した状態だ。

しかしこれが出来る出来ないでは大きな差が生まれるぞ」


「へぇ、あれ?でもそれって……」


トウヤには似た魔法に心当たりがあった。


「風打ち・第八座・(そり)


目の前で起きた出来事にミナは驚く。


「ほぅ、何だその魔法は?」


「簡単に説明すると全身に空間を隔てる壁を鎧として身に纏ってるんだ」


「ほほう、触っても平気か?」


「ああ」


そういうとミナは全身をペタペタ触りながらジロジロ見回す。


基本的に無表情のミナが初めて目を輝かせながら浮付(うわつ)いた顔をしていることが可笑しかった。




「基本イメージはそれと同じだ。後はその壁を取り除いた状態で出来ればクリアだな」


ミナにそう言われ同じイメージでやってみると、すんなりと出来てしまった。しかも目も出来てる。


「さすが、じゃあそれを指示するまで維持してくれ」


「え?マジか」


この状態、(かい)は常に力を入れているようなものだ。長時間続く状態ではない。


「セレスやポーラレベルならそれを丸一日続けても平気だろうな」


「おいおい、そんなの追いつけるのかよ」


改めてホントの魔道士の凄さを知る。


「あんた魔法に名前付けてるなら詠唱も考えなさいよ」


急にルーが加わる。


「ルー、手伝わないって言ってなかったか?」


「いいじゃんいいじゃん、ダメ元だったのが可能性出てきたんだから」


「そんな都合のいいことを…」


呆れて物が言えないとはこのことだろう。


「詠唱って?」


「詠唱は詠唱よ、そんなこともわからないなんてバカなの?」


全く話にならないことでバカ呼ばわりされてしまった。


「詠唱というのは魔法を呼び出す呪文のようなものだ」


「ああ、地球のおとぎ話にもそういうのあるな」


「じゃあはにゃぐみゅうぅうぅ…」


突然ミナがルーの口を押さえ黙らせた。


「ルーは人に教えるなんて出来ないんだから黙ってて」


ルーは押さえられた口で何かを言うが、ミナは無視した。


「解けてるよ」


「あ、悪い」


二人のやり取りに思わず力が抜けてしまった。




魔法には一定の条件をつける制約というものが存在する。


最も有名なのが使用前の詠唱と命名で、詠唱という魔法を使うために呪文を唱えるという条件を満たし、

命名で魔法のイメージと名前を言うという条件を満たすことで、魔法の効果を飛躍的に高めることが出来る。


その他に天候を条件にしたり、使用場所を条件にしたり、使用者によって条件がさまざまだが、

達成する条件が厳しいほどその効果が大きくなる。




「なるほど、地球での魔法の認識は(あなが)ち間違ってないのか」


「そういうことだな」


「それってデバイスにも付けられるのか?」


「ああ、特定の条件で効果を発揮するデバイスと言うのも存在するよ」


「へぇ、いいこと思いついちゃった」


「いいこと?」


「なになに?」


プハっと口を塞いでた手を退かし、ルーが食いつく。


突然話に加わってきたルーを見て一つ思い出す。


「もしかしてルーの呪印もこの制約ってやつの一つか?」


「え?ええ、そうよ。すごい力を持ってるのよ」


ルーは自慢げに呪印を見せる。


「この呪印と同じような物を俺にも付ければ能力が跳ね上がるんじゃね?」


「それはダメだ!」


ミナは強い口調でトウヤの提案を否定する。


「確かに呪印は制約の一種だが、これは呪いだ。そう簡単に身に着けていいものじゃない。

ルーの母親がどれだけ苦しんだか知らないからそんなこと言えるんだ」


ミナの強い口調に、安易な提案をしたことをトウヤは反省した。


「ルーもそれは特別な力じゃないっていつも言ってるよね?」


「わ…わかってるわよ」


「わかってないから言ってるんだ!」


いつも無表情なミナが怒りを(あらわ)にしている。


ハッと気づきミナは「ごめん」と言って訓練場を飛び出してしまった。







ミナがいなくなった後もトウヤは基礎訓練を続けていた。


傍には座りながら(うずくま)っているルーもいる。


二人に会話は無い。


「なあ、ルーのお母さんってどんな人だ?」


不意にトウヤは話しかけた。


「……小さいころに死んだからよく知らない…」


「す、すまん、悪いことを聞いた」


「別にいいわよ」


また無言の時が過ぎる。


「とても綺麗で、凛とした人だった…ってのは覚えている」


今度はルーが話す。


「あたしの家、シフォンって家はもう存在しないの。

ママが死んで、パパが出て行って、あたしは家督が継げないから無くなって、

それからうちの家と侍従関係だったミナのとこに引き取られたの」


だから二人はいつも一緒だったのかと納得する。


「ミナは三つ上だから、あたしの知らないママも知っている。

……あたしはママが苦しんでるなんて知らなかった」


その声は震えだした。


「ミナに嫌われたら…どうしよう」


今にも泣きだしそうな声でルーは話す。


「俺は母親の記憶が無いからイメージでしか話せないけど、親ってのは子供に心配かけたくないから、

子供の前だけは辛い姿も苦しい姿も見せたくないって思うんじゃないかな?

だからルーが知らなくてもしょうがないと思う」


ルーからはズズッと鼻を啜る音しか聞こえない。


「それにミナもああいう怒り方は良くなかったって思ったから、ごめんって言ったんだと思うよ」


何とか気落ちするルーを慰めようとするが、いい言葉が見つからない。


「よし、今日は終わり」


そう言うとトウヤはルーを抱き上げ、担いで歩く。


「ば、ばか!離しなさいよ!」


突然の出来事にルーは足をバタバタさせ、トウヤを叩く。


「ミナのとこに行くよ」


「え?」


「ミナに謝りに行くんだ」


「イヤ!行きたくない!」


「じゃあ、このままでいいのか?」


「あたしは行かない!」


「ミナが謝りに来なかったら、ずっと別れてていいんだな?」


ルーは黙り込む。そうなってしまえばルーが一番恐れていたことになることは理解していた。


「俺はミナに軽はずみなことを言ったことを謝りに行く。だからついでにどうだと思ったが、必要ないか?」


トウヤはルーを降ろし、顔をしっかり見る。ルーは堪らず顔を背けてしまった。


「なら俺だけで行くよ」


そう言い行こうとすると、服の裾を軽く引っ張られた。


「あたしも…行く」


目を逸らしながらもそう言うルーに、トウヤは「わかった」と答えると、

ルーの手を引き、ミナのところへ向かった。


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