結成!エルメント・ジュエル!
「おつかれさま」
試験を終えた二人をポーラは出迎える。
「リンシェン、今後は遅刻に気を付けてよ」
「ごめんにゃ」
自分の手で頭をこつんと叩き、舌を出しウインクをするリンシェン。
本当に反省してるのだろうか?
「おつかれ、君はホントに新人かって思うほどすごい魔法使うな」
「まあリンシェンが攻略方法教えてくれたお陰かな?」
トウヤとミナは笑いながら仲良く話す。
「初めまして」
そんな中、見知らぬ女性が挨拶してきた。
「私はアローニャ・E・ハーディ。パースレールでマスターをやらせてもらっているわ。
あなたが噂の地球人ね?」
トウヤは地球人と言う言葉に思わず警戒してしまう。
「大丈夫だ」とミナに小声で言われたが簡単に警戒心は解けなかった。
「ふふっ、その警戒心は大事にしなさい。まだあなたを認めてない人間も多いから」
少し背筋がゾッとするような鋭い感じがした。
「こちらから敵意を見せなきゃ大丈夫そうね。ギルドのみんなには私から話しておくわ。
人数が多いから全員に届かないかもしれないけど、何かあったら注意するわ」
アローニャは好意的な目を見せるが、トウヤは好意的になれない。
なんだか地球にいた頃の、何もしない大人と同じような感じがしたのだ。
「じゃ、とりあえず合格だろうからギルド結成ね。みんなに新メンバー紹介するわよ」
全員がポーラに注目する。
「うちの新メンバー、まずはリンシェン」
「うにゃ、リンシェンにゃ、よろしくにゃ~ん」
「え?ってか普段からその喋りなの?」
皆の疑問を代表してティアが聞く。
「うにゃ?変かにゃ?」
真顔で返されティア、ルー、ミナは固まってしまった。
「ま、まぁ喋り方は人それぞれね」
ティアは困りながらも良いと返し、ルーとミナは固まったままだった。
部屋にいる全員の前に画面が浮かび上がる。そこにはリンシェンのことが書かれた資料が映し出された。
「哇高出身…ってことは科学と魔法が混じる世界の人間ってことか」
ミナ達は理解できるが、トウヤは理解できなかった。
「どんなとこなの?」
「科学世界でも希少な魔法の概念が理解されてる世界よ」
トウヤの問いにポーラが答える。
「それってどっちもありのいい世界じゃないか」
「いや、確かどっちも中途半端って聞くぞ」
トウヤの返しに今度はミナが答えた。
「にゃっはっはっ、それはおみゃー達がすごさを知らにゃいだけにゃ」
「あんたを見てたらすごくなさそうなのよ」
リンシェンの物言いにルーが毒突くが、
「もうちょっと大きくにゃったら理解できるにゃ~」
と言いながらリンシェンはルーの頭を撫でた。
リンシェンはルーより頭一つ以上背が高いので、まるで子供を撫でる様だった。
ルーは撫でる手を勢いよく叩き「この子供むかつく!」と怒鳴り出し不機嫌に椅子に座る。
「君と一個しか変わらないだろ」
ミナの呆れながら言った指摘で、リンシェンの年齢を確認すると13と書いてあった。
「同い年だったんだ」
とトウヤが呟くと「上よ!!」と怒鳴られた。
「次にトウヤよ」
「改めてよろしく」
リンシェンとアローニャ以外は前があったので簡単に挨拶した。
「あら、あなたまだタイプとジンが解かってないのね」
アローニャの指摘で資料を確認すると、タイプと属性のところに(暫定)と書いてあった。
「え!?あれで放出系じゃないの!?」
ルーの驚く声に反応し、皆で資料に目を移すと何かの通達が届いた。
通達が届いたのは3人。ポーラ、アローニャ、そしてなぜかトウヤだった。
「な!?」
「どういうこと!?」
通達の中身を確認したポーラとアローニャは困惑した。
何事かと通達の中身を確認する。
何かいろいろ書いてたが要は「二日後にセレス・ハーディとホシノトウヤの模擬戦を実施する」と書かれていた。
「は?何でセレスとトウヤで模擬戦やるんだ?しかも二日後って急だな」
一緒に確認したファイゼンまでも困惑する。
「何?どういう状況?」
この状況を理解出来ないトウヤとリンシェンは蚊帳の外である。
「模擬戦ってのは魔道士同士の戦闘訓練だ」
状況を説明してくれたのはリーシャだった。
「模擬戦は定期的に開催されるが、二日前というのは急すぎる話だ」
続けてミナが説明する。
「しかも相手はセレス。上はトウヤを殺す気か?」
「誰?」
リーシャはセレスってのを知っているようだ。
「うちと、ポーラ、ファイゼン、ティアの友人でアローニャさんの娘のマスター候補だ」
相当強い相手だと言うことはよくわかった。
アローニャは突然の模擬戦、しかも相手がセレスであることに抗議しているようだ。
その抗議にはポーラも賛同している。
通信相手の画面は変なマークが出ていたので顔はわからないが、
声からして複数の男女でそれなりに年齢を重ねてることはわかった。
「いくらマスターと言えど君たちに決定権は無い。我々にも局を守る義務があるんだ」
どうやらいくら抗議しようとも変えるつもりは無いそうだ。
埒が明かないのでアローニャとポーラは渋々了承するしかなかった。
通信が切れるとポーラが「しょうがない、切り替えましょ」と自分の頬を叩き気持ちを切り替えた。
「ふふっ、そうね。私達は私達に出来ることをやりましょ。セレスには私から注意するわ」
「お願いします。私はトウヤに修行させます」
「例外的とはいえ、お互い全力を尽くしましょ」
「はい!」
そう言うとアローニャは部屋を出ていった。
「さっそくだけどトウヤ、修行するわよ」
「は?今から?」
「そうよ。時間が惜しいわ」
「そんな必死にならなくても…」
トウヤは突然の事態に困惑する。
「模擬戦ってのはギルドの威信をかけて戦うんだ。手抜きは許されないぞ」
手を抜こうとしたのがバレたのか、リーシャが釘を刺す。
「急で尚且つヤバい相手だが、これはギルドの名前を売るにはもってこいとも言えるな」
急にファイゼンもやる気になる。
「あたしはどっちを応援すればいいの?」
セレスの相棒であるティアは相棒か友人かで迷っていた。
「君が思う方を応援すればいい。私は…面白そうだからトウヤを応援するかな」
ミナはこれからのことを想い楽しそうに笑っている。
「ばっかみたい」
ルーは呆れながらもミナに付いて行くようだ。
「にゃあ、ギルド名はどうにゃったんだ?」
リンシェンの指摘に全員「あ」と言いポーラを見る。
「決めてあるわよ」
ポーラは手を前に出し、宣言する。
「ギルド名は“エルメント・ジュエル”、宝石の原石と言う意味よ」
「パースレールが登竜門、アルカナフォートが毅然とした魔道士、と言うことはその宝石は魔道士を指してるのか?」
ファイゼンはギルドの意味を確認し、ポーラの手に自分の手を重ねる。
「それはどっちにも負けねぇって意味か?面白れぇじゃん」
さらにリーシャも手を重ねる。
「にゃらおいらが科学の力を見せてやるにゃ」
さらにリンシェンが手を重ねトウヤを待つ。
「俺にはそんな大層な目標は無いよ」
と手を重ねることを躊躇うと、パンとルーが背中を叩いて顎で重なった手を指す。
空気読めってことだろう。ティアに背中を押され、ミナに無理やり手を重ねさせられる。
諦めると同時に大きく息を吐き、「俺は助けると約束したんだ。ついて行くよ」と宣言する。
「エルメント・ジュエル、行くわよ」
そうポーラが大声で宣言すると全員で「オー」と声をあげ、重ねた手を高らかに上げた。