新メンバー
「あーあ、もうちょっとゆっくり味わいたかったな~」
「だから先に武器屋へ行こうと言ったんだ」
「しょーがないでしょ、リーシャが先に飯だって言うんだし」
「だからって付き合わなくてもいいじゃん」
「まぁこれから同じギルドのメンバーとして同じ時間を過ごすってのも大事じゃん?」
「今までと変わんないでしょ」
試験的に新しいギルドを作る話が出てもうすぐ三カ月がくる。
その新しいギルドのマスターとして白羽の矢が立ったのはポーラだった。
彼女はギルド内でもリーダーとして人望があり指揮官としてメキメキ頭角を現してきたうえに、
少し珍しい魔法を使う実力者で時期マスター候補としてセレスと共に有名だった。
「あの人形たちの脅威は局としても問題視しているのはわかってんだから、
直接対峙した人間の報告を急がせるのは当然。
それもわからなかったあんたのミスなんだから当然の報いでしょ」
セレスが手を挙げて振りながら去っていく。あの肉と交換出来るチケットを振りながら。
先に武器屋へ立ち寄り、品定めしてる最中に呼ばれたセレスは、
この後報酬の肉をじっくり味わい、再度武器の品定めに行くようだ。
ぐぬぬぬと湧き上がる気持ちを溜息に変えると共に気持ちを切り替える。
あの男は別の用事からまだ帰ってないかな?となるとリーシャのとこかな?
「ポーーーラァァァ!!!」
強い怒りを含んだ叫びに驚いたが、すぐに声の主を理解した。
「テメェ!これどういうことだ!?説明しろ!!」
宙に浮かんだ画面で見せられたのは新規ギルドの資料だった。
後ろで手を合わせながら謝るティアもいる。
あ、話したんだと理解すると額に手を当て項垂れた。
「説明も何も新メンバーよ、し・ん・メ・ン・バー」
頭を上げ説明する。ここは強気で攻めねば期限がやばくなる。
「うちが言ってんのはそこじゃねぇ!これだ!!」
宙に浮かんだ画面を叩く。
案の定、見つけた地球人の資料だった。
「ちゃんと能力はあるよ」
「そういう問題じゃねぇ!」
顔が怒りで真っ赤になってる。髪の色と重なってどこが顔かわからないくらいだ。
「おい騒がしいぞ?どうしたんだ?」
一仕事終えたファイゼンが帰ってきたようだ。
「あ、ファイゼン」
ティアはチラッとポーラの顔を見る。
ポーラが頷いたので宙に浮いた画面をファイゼンに移す。
「お?決まったのか?どれどれ?」
画面を操作し、映る二人の写真を見る。
「ふーん、まあまあいい女じゃね?ってこっち男かよ!?ダメだダメだこんなやつ」
「あんた男ってだけで判断してんじゃないわよ」
「え?男?どっちが?」
「こっち」
「え?この地球人、男なの?見た目結構可愛いのに?よくわかったわね」
「可愛い女の子に声をかけなきゃ気が済まない俺だからさ!」
明らかに汚物を見るような目を向ける。
軽く咳払いをして受け流すとファイゼンは真面目に話し始めた。
「と・に・か・く、サブマスターである俺にも納得できるよう説明してもらおうか?ポーラさんよ」
怒りで睨み付けてるリーシャを宥めながら部屋へ向かうように促す。
部屋に入ると椅子を引き、ティアとリーシャに座るように促した。
着席を確認すると向かいの椅子を引き、そちらにポーラが座るように促した。
軟派者で有名な彼なだけあって、女性に対する気遣いはさすがだ。
当の本人は最後にポーラの隣に座った。
「あの、勝手に喋っといて何だけど、よそ者のあたしがいていいの?」
新規ギルドはポーラ、ファイゼン、リーシャ、そして新メンバー二人で発足される。
ティアは旧友ということでポーラからいろいろ相談されてたが部外者である。
「リーシャは怒りで冷静な判断が出来ない。代わりにティアがリーシャの立場で聞いてくれ」
リーシャの顔を見る。
怒っているのは変わらないがファイゼンの指摘はご尤もなようで、少々苦虫を噛んだような顔をしている。
「長い付き合いのティアなら聞いてても問題ないだろ?」
「そうね。私からもお願いするわ」
このリーシャがあの地球人とどう上手く接するのか気になっていたこともあり、ティアも話し合いに参加するのだった。
「前にも話したと思うけど、今の局の長年の悩みを解決するため、
新規ギルド発足という名の実験に私たちは協力することになったわ。
そんなことやっても無駄だという声も多かったけど、いろいろと実践して検証していくことで、
新しいギルドを作る条件などクリアすべき問題を局に提示していく。
私たちのギルドに課せられた名目上の目的ね」
「上の人は弱いのが集まってもすぐに潰れるだの何だ言ってたわね」
「そうね。魔道士の弱体化は随分と前から囁かれてた局の悩みの一つね」
「だから今までの枠に捕らわれずにいろんなとこから強いやつを集めようってことだよな」
「そう、そうやって見つけたのがこの二人よ」
「確かに科学の知識はあたしたち魔道士には無い知識よね?」
「そうだな。水はよく通すから電気に弱いなんて言われてるけど、
科学のやつらは電気が通った水を起爆剤にして爆発させるなんて知識があるもんな」
昔アカデミーで見た科学実験を思い出す。
「あれはビックリしたねー。リーシャもそういうのは認めていたよね?」
「ああ」
だいぶ冷静になり、本来の彼女の姿に思える。
普段の彼女はちゃんと良いものは良いと認められる。ただ、地球人が関わることだけはこれが出来ない。
「だからこそ局も科学世界から魔道士を探すことに力を入れているのよね?」
「数が圧倒的に少ないから苦労してるみたいだけどね」
「で、この女はその苦労から見つけたんだな?」
ファイゼンは新メンバー候補の女を指す。
「ええ、その国では天才と呼ばれると同時に変人とも呼ばれてるらしいけど、
調べた限りは科学大好きで発明好きの子みたいよ」
「…でもなんか弱そうね」
ティアがボソリと言ってしまう。たしかにインドア派に強さのイメージは無い。
「カンフーという体術の使い手で師範級、つまり先生と同じくらいの強さはあるみたいよ」
「魔法は?」
「風使いで、そのカンフーに魔法を組み合わせた独特のものを使うみたい。強さもAAはありそうよ」
ほぅと三人は感心した。
魔法世界ではギルドに入った魔法使いを魔道士と呼び、その強さをDからAAAで示している。
また特に強力な魔法を使うなど、一部の魔道士に対してはAAAより上のSでランク付けしている。
もちろんこのランクはただの目安に過ぎないが、
これがクエストのランク付けにも使用されていることから強さの判断材料として使う者も多い。
ここにいる四人は全員AA以上であるため、強さは自分たちとさほど変わらないという判断だ。
また過去に彼女と同じ出身の魔道士もいたことから彼女の国の民族性などはよく知られている。
彼女を仲間に迎える分にはさほど大きな問題はないだろう。
問題なのは男の方だった。