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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
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違和感

「むむむむ」


クラリスは悩んでいた。


「ふみゅ?おししょ~さまはなにになやんれいるのれすか?」


「あらルミちゃん、いいところに」


ルミを見るなり、クラリスは抱き寄せ、大きく息を吸った。


「ああ!いい匂い。くんかくんか。癒されるぅ~」


「は、はずかしいれす」


「ぺろぺろしたい。くんかくんか」


しばらくクラリスが暴走した後、本題に入る。


「今、汚い豚の人形を作っているのよ」


「ぶたのにんぎょうれすか?ろうしてそんなものをつくっているのれすか?」


「もちろん好き好んでじゃないわ。必要になるから作っているのよ」


「ひつようれすか?……これえんたくのひとれすよね?」


「ええ。少しの間だけ働いてもらうのよ。でも作るだけで不快な気分になって、

ぜ~んぜん作業が進まなくて困っているのよ」


「そうらったんれすね~」


ルミは納得したようだ。


「あ、そうそう。近々この施設封印するから、荷物をまとめて動ける準備しといてね」


「ふういん?ということはろこかにいろうするのれすね?」


「ええ、環境が大きく変わるわ。そしてそこに長居することになるから、

ルミちゃんがやりたがっていた実験をやってもいいわよ」


「ほんとうれすか!?わ~い、ありがとうございます~」


そう言うとルミは小走りで自室に戻った。


「ああ、癒されるぅ~」


へらへらした顔でクラリスも自分の作業に移る。


「ああ、もうすぐね。可愛い家族と愛する人と一緒になれる。

ステラちゃんとティーナちゃんには悪いけど、私は愛を選ぶわ」


なんだか不穏な独り言である。


「愛する人と一緒になりたい気持ちは、あの二人も理解してくれるよね」


二人にあって、自分に無い物。それは周りには不要と思われている。


あのお方の為に地位も手に入れた。


あのお方が必要とする兵器も手に入れた。


「手土産でもあった方が喜んでくれるかしら?」


ある魔導士の顔を思い浮かべた。


能力は十分。面白いおまけもある。


そして最近はおまけを充実させている。


おまけの一つは、喜ばないだろうけど、もう一つは喜びそうだ。


「おバカは簡単に操れるから簡単そうね」


クラリスは作った人形を動かしてみる。


「うん、問題なさそう」


醜く不快だが、あの子豚ちゃんみたいに動けている。


「まずは一つ。それから徐々に混ぜて行けば準備完了っと」


クラリスは身支度を整えると外出の準備に取り掛かった。


「マスター、どちらへ?」


何処で気付いたのか、ニイナが現れる。


「ちょっと豚小屋に行ってくるわ」


「お供します」


「いらないわ、あんなのに襲われても平気だし」


「ですが……」


他のworksに比べて忠誠心の強いニイナはクラリスの身に少しの危険も許さない傾向がある。


「そんなゾロゾロと……いや、プラン変更。掃除が得意なworksを十人ほど集めてちょうだい」


「承知しました」


そう言うとニイナは消えた。


「そうね、何事も無かったようにした方がお得よね」


クラリスは不敵な笑みを浮かべながら、作戦を練り直した。




「本日の定例は以上だ」


ぞろぞろと席をたつ面々に違和感がある。


だがその違和感が何なのか確信が持てずモヤモヤしていた。


「のお、ステラ殿」


ふと声をかけられ、驚く。


円卓のメンバーでステラと対立している男だ。


声をかけられるのは珍しい。


「何か?」


「我々も狙われるのだろうか?」


「今はまだ、可能性がある程度です」


今回の報告を聞いて自分の身を案じているようだ。


権力に溺れ、その地位を守ることしかしてこなかった男は、

今回、貴族が狙われている状況に危機感を感じているようだ。


それでこんな珍しい行動をと納得した。


「そんな弱腰では出来る物も出来ません。

我々は誇り高き円卓の十三士、そう簡単に負けるはずないのでは?」


いつも口癖のように言っている言葉を発破をかけるように言う。


「そうだ……そうだな。私としたことが臆病風に吹かれてしまったようだ。

この程度の問題など簡単に解決してみせよう」


「ええ、期待しています」


そう言うと男は気合を入れ直したように前を向き退出した。


対立する彼等とて無能ではない。


今、この状況をみて責任を問い、立場を奪おうとせず、

問題解決のために協力するよう動いてくれたのはありがたい。


「さて、どうするか」


予想と違う協力が得られたのはありがたい。


ただ、具体的な解決方法が見当たらない。


「ステラ、今いい?」


急な念話が入ってきた。


「どうした?ティーナ」


「さっきの定例なんだけど、違和感が無かった?」


「おまえもか!?」


違和感を感じたのはステラだけではなかった。


「やっぱりあなたと私だけは感じたのでしょうね」


ステラとティーナだけの共通点、それは……


「違和感の正体がわからない。だから何もしようがないんだ」


「ええ、私もよ。スッキリしなくて気持ち悪いわね~」


違和感を感じたのは二人の個人的な事情と関連するかもしれない。


ならば他の面々にはわからないだろう。


「こんな時、ソニアが居てくれれば……」


二人の事情を知っていて、調べるのが得意なソニアなら答えを出せたかもしれない。


「……それは言わない約束でしょ?」


「ああ、そうだった。すまない」


こんな状態ではソニアに笑われる。


「とりあえず違和感は保留だ。なんとなくで調べている時間は無い。

目下は天使を始めとする生体兵器への対応だ」


「ええ。やることがあり過ぎて大変ね~」


「そこは何処も一緒だ。いや、うちの方が多いか?」


「そうね。それにアローニャさんのところは大きく変化しようとしているわ」


そういえばあっちのギルドは幾つか配下のギルドを作り、作業の分散化を図っている。


「うちも配下を作るか?」


「まあ!」


「……冗談だ」


「冗談が言えるほど余裕が出てきたのね~」


「いや、そういうわけでは……」


「ならさっさと働いて下さ~い、マスターさん」


「ぐぐ……」


ステラはティーナに冗談を言ってしまったことを後悔した。


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