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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
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良好関係

高ランククエスト漬けの毎日に少し疲労感がある。


いや、積極的に強敵をなぎ倒してくれる強者がいるから楽なんだけど、

精神的な疲労感はなかなか拭えずにいる。


「お疲れ様でした」


トウヤはその強者二人に労いの言葉をかける。


「今のは七剣徒(セプトレア)にもいない動きをする相手で、

なかなか面白い相手だったと思うわ」


リヤナは満足した様子で相手を称える。


少し前まで格下を見下していた彼女だが、何かのきっかけでその行為を改めたようだ。


動きも異能に緩急をつけ、自分の力が最も強く発揮出来るよう動き、

敵の動きを観察して対処している様に見える。


同行すると言ったときは驚いたが、どうやら七剣徒(セプトレア)としての

戦闘能力高めるための訓練として、同行してくれているようだ。


弱点を克服した彼女はかなり高い戦力になるが、異能の性質上、

魔法を使うための穴を用意しなければならないのは重大な欠点だろう。


なので如何に全身を覆うような窮地に立たないかが重要な課題だ。


そしてもう一人、スプニールはやはり黙々とクエストを熟している。


頼んでいたマイクロビキニ風の服装は改めてくれたが、

相変わらず布面積が少ない服装ばかりである。


本人曰く、服も動きの邪魔になるので極力無い方がいいらしい。


そういう彼女も戦闘能力高めるための訓練として積極的に参加してくれている。


彼女の異能も弱点が見破れるだけで、その弱点に必ず攻撃出来るわけではない。


それは本人も重々承知しているようで、相手に合わせて戦闘スタイルを変え、

確実に弱点を突く攻撃が出来るよう動いている。


その動きの邪魔になる服が無い方がいいとは、戦闘狂なのか仕事人なのか……


「しかしこう見てると、魔法も異能も相性がしっかり存在するんですね」


「ええ。異能も所詮は魔法から分かれた物だから、使い方も性質も似ているわね」


「だったら、せっかくチームなんだし協力し合えればいいのに」


「それは出来ないわ。チームと言っても所詮は権力を奪い合う者同士の集まり。

内部事情を簡単に共有するなんて自殺行為もいいとこだわ」


「そういうもんなんですかね?」


スプニールをちらりと見るが、彼女もその通りだと頷いている。


「でもここはあなたのチーム。提案を出して互いに及第点を探るのはいいと思うわ」


スプニールの提案にリヤナは驚いていたが、否定的ではない様子。


二人はあくまでも同行。トウヤのチームを支配したいわけじゃないので、

基本的にはリーダーであるトウヤの意見を尊重する姿勢のようだ。


「例えばスプニールの“弱点看破の毒(バイタルサイト)”は弱点を見極めることが出来る強力な異能だ。

しかしその弱点を突くための手段が無いので、そこは自力で何とかするしかない。

そしてリヤナの“不侵の毒(コルドン)”は全ての侵入を許さない壁を身に纏う。

この状態で相手に突っ込めば、全てを受け付けない壁の攻撃になる」


「つまり、私が君影(きみかげ)の君に指示を出して攻撃させれば、相手は簡単に倒れるわね」


「それって私が桃姫(ももひめ)の君にいいように使われるだけよね?」


不平等な話にリヤナは不満を突きつけた。


「そしてここからはリリスとマリアにも協力してもらう」


トウヤはそう言うと二人を呼んだ。


簡単に説明し直すと、トウヤは続きを話し始める。


「リリスの“崩れる石像(ストーンアッシェ)”はリリスを中心に広範囲で魔法を石や砂にする。

欠点としてはリリスを中心とした範囲でしか使えないことと、敵味方問わない事かな?」


リリスは欠点の克服で薄い膜状に変形させて使っている。


そうすることで仲間を巻き添えにせず、魔法だけを石にさせている。


また“崩れる石像(ストーンアッシェ)”はリリス自身と繋がっていなければ制御出来ないので、

膜の他に自身と繋ぐ細い糸を作り出している。


「だけど、リヤナは“崩れる石像(ストーンアッシェ)”の範囲内だとどうなるかな?」


「「!?」」


全員が気づいた。


魔法を石にする“崩れる石像(ストーンアッシェ)”、異能とは言え魔法の一部である“不侵の毒(コルドン)”。


侵入を拒む力は石にされるのか、それとも石にする力が拒まれるのか、

どちらになるか誰も分からない問いかけだった。


「まあそこはさて置き」


「いや、そこ重要じゃない!?」


マリアは正しく突っ込んだ。


「俺も気になるけど、俺が言いたいのはそこじゃない。その使い方の組み合わせだ」


「話を進めてちょうだい」


世間話より組み合わせが気になるスプニールは話を進めさせた。


「もし仮に敵とリヤナの間にこの膜があったら、リヤナは安全に敵に近づけるでしょ?」


崩れる石像(ストーンアッシェ)”によって相手の魔法や動きを制限させリヤナが近づく。


そしてタイミングを見計らって“崩れる石像(ストーンアッシェ)”を取り除き、

弱点看破の毒(バイタルサイト)”で見極めた弱点に、リヤナが普段やっている攻撃方法でやれば、

簡単に殲滅させることが可能になる。


「た、確かにそのやり方ならかなり効率的に敵を殲滅出来そうね。

でも彼女に私の速さに追いつくよう操作出来るのかしら?」


そう、この方法は常に敵とリヤナの間に膜を置くよう操作しなくてはならない。


七剣徒(セプトレア)の動きに格下のリリスが追い付けるかは怪しい。


「逆です。敵の周りにその膜を張るんです」


七剣徒(セプトレア)の敵がそう簡単に捕まるかしら?」


「そこでマリアです」


急に名前を呼ばれたマリアは驚いたが、黙って話を聞く。


「マリアの空間操作で移動を制限させるんです」


マリアには移動しても同じ空間に戻るよう空間を繋ぐ。


そうすることで敵は移動すら敵わなくなる。


「でもそれって境目を――」


「そこでも彼女の魔法ね」


リヤナよりもスプニールの方が狙いを理解していたようだ。


「はい、空間操作の弱点は境目。力の干渉部分をリリスの魔法で守れます」


「そしてタイミングを見計らって空間を繋げて攻撃したら完了ね」


「な、なるほど」


思わずリヤナを始め、リリスもマリアも納得してしまった。


「まあこれだけ手の込んだ方法を使わなければいけない相手はそうそう現れないと思いますが」


「だけど、部分部分で使えそうなものはあると思うわ」


確かにマリアの空間操作で敵との距離を一気に詰めることも、

リリスの“崩れる石像(ストーンアッシェ)”で身を守ることも十分実用的だ。


「あとはスプニールの目をまた共有出来れば……」


スプニールは嫌そうな顔をしている。


弱点だけを集中的に狙うことが出来る。


卑怯と言う人もいるが、戦力差が大きければ大きいほど有効的な手段になる。


「ま、まぁ人数が少ない間でなら……」


「よし!」


トウヤは大きくガッツポーズをして喜んだ。




桃姫(ももひめ)の君ってずいぶんとお人好しだったのね」


リヤナがスプニールに話しかける。


仲が悪いというわけではないが、あまり話す事が無いので珍しい行動だ。


君影(きみかげ)の君もずいぶんとあの子にお優しいのね。

まるで私はいい人で魅力的よと言ってるみたい」


思わぬ物言いにリヤナはムッとした。


「でも気持ちはわからなくないわ。あの子には人を集める力があるようだから」


続けて出たスプニールの言葉に今度は何かに焦るような表情に変わった。


スプニールには理由はわからないが、そっちの方が年相応の女の子に思えた。


スプニールとしてもリヤナが協力的になったのが予想外の出来事だ。


(そういうところも似ているのよね……)


幼い頃に会った叔父の様子と、トウヤを合わせてみる。


(叔父様と違うのは、まだ裏表の無い純粋な目で見てくれることかな?)


幼過ぎてうろ覚えだが、優しそうな表情の裏に何か得体のしれないものを隠している、

そんな感じの印象があったのを未だに覚えている。


(あなたは何者なの?本当に無関係なの?)


もし関係者なら、今の彼はまだ手加減している状態と同じだ。


それが何かの拍子に敵側に回ったら?


叔父と同じ道を進んでしまったら?


(どうか無関係であって……いえ、関係あっても今のままの君でいてほしい)


スプニールはトウヤに秘めた願いを込めた。


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