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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
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危険な影

幾つかの画面に文字が流れる。


何か処理が流れていくように文字が現れては消え現れては消える。


別の画面はある国の地図が表示され、流れるようにズレていく。


「ソニアはある程度の目星を付けていたようだな」


ステラにはどんなことをやっているのか全て把握しきれていないが、

同じ場所を重点的に調査していたということは理解した。


「はい。特にこの反応には注目していたようです」


「これは……大きいな」


「現地時間で数か月、留まったかと思うとその後、反応は完全に消えています」


「魔力を計測出来たか?」


「……最低でもS+(オーバーエス)です」


「!?」


「も、もちろん、計測のミスの可能性が高いです。

なにせ10年以上昔の記録なので……」


「あの子を見ていればミスの可能性は低いだろう。

その可能性にして進めてくれ」


「はい、承知しました」


ステラは調査員に指示を出すと、部屋を出て行った。


「ふっ、最低でもS+(オーバーエス)……か」


嫌な影がチラついている。


長であるソニアを失い、失意のどん底に居ると思い顔を出したが、

逆に何が何でもやり遂げる気合に満ちていて驚いた。


そしてそこにさっきの報告だ。


あまりにも驚きすぎて本来の目的を見失ってしまった。


まあ必要なかったがな。


件のクエストからあのお方の影を感じている。


もし、本当にあのお方なら敵としては最悪だ。


なにせ勝てるビジョンが全く見えない。


いや、必ず負ける。


ステラ自身も、誰もがそう思う。


そう、かの麗王(れいおう)でさえも負ける可能性が見える。


もっとも、歴代最強は麗王(れいおう)をも凌ぐという噂が本当ならの話だ。


だがあのお方はそれを本当と思わせるだけの事をやってみせた。


ならば本当としてステラは準備する必要がある。


そしてステラがやるべきは……


「結局は頼るしかないのか……」


自分で解決できればいいのだが、ステラにはそれだけの力は無い。


「クラリス……いや、あの子を頼るしかないか」


未だに底が知れないあの子の力。


ステラにはその力は羨ましいと思う。


ステラの目的のためには大きな力が必要とする。


そのためにクラリスは力の研究をし、ステラとティーナは力を使う場を整えている。


「力を必要としているのに、その力は他人頼みなのは笑えるな」


自分の無力さを嘆くと同時に、次にやるべき事へ切り替えた。




「ああ、あのお方からのメッセージだわ。近々会いに行きますってことかな?」


クラリスは魔法を解析しながら鼻歌を歌っている。


この魔法はクラリス自身が考えた強化魔法に似ている。


そのため簡単に解析も出来るし、見慣れない強化法も見えてくる。


独自に強化された魔法はクラリスも興味が尽きない。


「あのお方も独自に進んでいる。さすがねぇ、私でも気づけなかった部分に気づき、

綿密に構築して強化している。センスの良さはピカイチね」


表立って会うことは出来なかったが、何度も秘密裏に会いに来ては、

クラリスの魔法、“錬金術(アルケミスト)”を学んでいた。


彼ならクラリスと別の道に進もうが、結果として道を結び直すことが出来ると思っている。


錬金術(アルケミスト)”は分解・構築の魔法。


例え今、離れていても関係はまた構築され、さらに大きな変化をもたらすと信じていた。


「さて、この強化系統はメルトちゃんにも使えそうね。こっちは……メイドで試してみようかな?

あ、これで感度上げたら可愛い声で泣いてそそりそうねぇ」


「マスター」


「うひゃい!?な、なんだニイナか。居たなら居るって言いなさいよ」


「申し訳ありません、マスター」


ニイナには非は無い。むしろ脇目も振らずに邪な妄想に没頭していたクラリスに非はある。


「で?なに?」


クラリスは軽く咳払いをして用件を聞いた。


「ステラ様から言伝と、白酔馬(しろすいば)の君からの通達です」


「……」


クラリスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


ステラはたぶん予想していた内容だろう。


だが麗王(れいおう)をとりまとめている白酔馬(しろすいば)の君からとなると内容は厄介そうである。


「とりあえずステラちゃんの方から聞こうか」


「“痕跡あり、兵器準備せよ”と言伝を預かりました」


「!?」


半分は予想通り、もう半分は予想外だった。


「地球に……何をしに行ったのかしら……」


おおかた、チート級の魔法使いが多い国だから人材探しにでも行ったのだろうか?


しかし争いごとばかりの自己中心的な人種がそう簡単に配下になるとは思えない。


いや、あのお方なら簡単か?


それを試しに行ったならまだ納得出来ることだ。


考えてることは理解の範疇を超えている人だ。


クラリスは起こった事象だけを受け止め、考えを切り替えた。


「次、白酔馬(しろすいば)の君からは?」


「“危機的兵器あり、注意されたし”との通達です」


例のクエストで確認された天使に娘の報告も合わせて考え、

さらに危険な兵器があると考えたからこその通達だろう。


その通達にはクラリスも賛同出来る。


それにこの通達が信じられないなら消えてしまえばいい、なんて邪な考えが見え隠れする。


これは先代の藤躑躅(ふじつつじ)の君の一件以降の考え方だ。


過去の栄光を忘れられず、勝機を見逃した愚か者は切り捨て、

確実に逃さない人だけ守り、共に勝利を分かち合う。


クラリスもこの考えは嫌いじゃない。


「ま、白酔馬(しろすいば)の君は賢明なお方ってことね」


クラリスは感心すると同時に厄介に思えた。


(ある程度無能の方が扱い易くていいんだけどねぇ……)


無能はある程度怖がらせたり、信じさせたりさせることで、自分が望む方向に向かってくれる。


だがある程度能力があると、言葉の矛盾や出来事の違和感を感じたり、

知らないことを知ろうと新しい知識を勝手に身に着けたりして、予期せぬ方向に進む。


そこに権力が加わると厄介でしかない。


(伊達に麗王(れいおう)のトップなだけあるか)


クラリスは一人で結論を出すと、立ち上がった。


「ニイナ、ステラちゃんに“万端、新作あり”と返事しといて」


「はい、マスター」


白酔馬(しろすいば)の君は通達だから無視していいわ。

ただ、局のクエストの確認の人員増加して、確実に天使なんかの痕跡を逃さない事、

あとミイナのご主人様の監視も強化するように指示して」


「承知しました」


そう言うとニイナはふと消えた。


「さぁ~て」


クラリスは扉を開けて、大きなカプセルのような箱が並ぶ壁をじっと見つめた。


「あのお方が喜んでくれる物をたぁ~くさん作らないと」


どの箱にも、中には何かの液体と少女が入っている。


「でも、一番欲しい物って、なかなか手に入らないものよねぇ」


クラリスはそう言いながら奥へ進む。


一番奥にはひと際大きな箱がある。


そしてそこにも何かの液体と少女が入っている。


他と違うのは何かのマスクが付けられ、それに管状のものがつけられている。


「長い間苦しめちゃってごめんねぇ、ルミちゃん。

お姉ちゃんが絶対に見つけ出してあげるからね」


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