トウヤのチームは
「と、と言うわけで、このチームに同行する形でスプニールとリヤナが加わります」
という説明を聞き、歓迎の歓声を上げるのはミイナだけだった。
ポーラの次に説明しなけてはならないチームメンバーのリリスと新しく加わったマリア、
そしてよく協力してくれるミナ、ルー、ミイナに説明した。
クルルもスプニールは知っていたがリヤナは初めて知る。
しかも……
「お二人ともお名前を許すなんて珍しいですねぇ~」
ミイナの言う通り、クルル以外で一般人に名前で呼ぶことを許す上級貴族は稀だ。
「ああ!もしかして~!」
ミイナは何かに気づいたようで大声で話す。
「お二人ともトウヤさんラブなんですね!」
ミイナは両手でハート形を作り二人を覗き込む。
全員突拍子の無い発言に頭を抱え項垂れる。
だが…‥
「ち、違うわよ!そんなんじゃないんだからね!」
リヤナは激しく否定する。
いや、この反応……
ミナ、ルー、リリスが冷たい目でトウヤを見る。
(本当に仕事で一緒になっただけで何もしていない!)
とトウヤは首を振って訴えるが、信用されないようだ。
「同行するということは仕事を共に熟すという事。
変な気遣いは仕事を失敗させるから許しているだけよ」
スプニールは冷静に説明し、リヤナはそれに慌てて頷く。
「そうなんですねぇ~」
ミイナは納得してくれたようだ。
「七剣徒を従えるなんて、まるで先代の筆頭様みたいですねぇ~」
思わぬミイナの発言に事情を知っている組は言葉に詰まる。
「先代の筆頭様?どんな人?」
事情を知らないトウヤは聞き返す。
「私の……叔父様よ」
スプニールの言葉に、トウヤは事情を察した。
「はい、たしか――」
「ミイナ、それは話すのを止めておこう」
トウヤは人差し指を口の前に出し話を止めると、ミイナは素直に黙る。
ミイナはクラリスによってトウヤの下に主従関係を設定されているため、
トウヤの言う事は常に黙って従う。
こういう時、便利だと感じてしまうのは黒い感情のようなもののせいだろうか。
「とりあえずお二人は積極的に協力してくれる認識でよろしいでしょうか?」
トウヤは同行の意味を再度確認する。
「私の役目はあなたの護衛と戦闘の研鑽。指示には従うけど、
嫌な時はしっかり断るから、そのつもりでいて」
「了解。リヤナも同じで?」
「ええ、問題ないわ」
すんなりと合意が取れて話が進む。
本当に仲が良さそうな魔導士同士のやり取りに思えた。
だがこれに違和感を感じた人がいた。
「なんか、初めと性格が違う?」
単純に思ったことをルーは口にする。
「何?どうしたの?」
ミナはルーの疑問を聞いていた。
「なんか、君影の君の性格が変わったような感じがしたの」
確かに見下した感が無く、明るめの少し人懐っこさもある可愛らしい……
ミナはハッ何かに驚きトウヤを見た。
(まさか……まさかあの野郎……)
ワナワナと震えながらトウヤをあの野郎呼ばわりしてしまった。
「何?何かわかったの?」
「い、いや……」
本人は無頓着なようで気づいていないようだが、
天然で無自覚にやってしまうあたり災害レベル。
そしてそれはついに上級貴族まで飛び火するとなると非常に厄介だ。
なぜ、なぜなんだ。
根は真面目だし、相手のありのままを受け入れ、邪険にしないあたりは好感が持てるが……
(いつか天罰が降るぞ)
ミナはトウヤがいろんな意味で厄介な人物であると再確認した。
「なんか……ものすごく視線を感じる」
食堂と呼ばれる広場に居ると、すごく見られている感じがした。
「この面々じゃ当たり前だよね」
七剣徒が局内でウロウロしている。
しかも特定の魔導士に付いている。
昔噂が広まったあの人物を中心に、どんどん摩訶不思議なチームへと変化した。
一人から始まり、下級貴族、亜人、人形、上級貴族、と増え、ついに七剣徒まで付いた。
次は麗王を連れて歩くんじゃないかと噂は絶えない。
そこにもう一人よくわからない人物も増えている。
この状況に加わる。これはただ者でないとの噂だ。
「ま、変な目で見られるだろうなとは思ってたけど」
「これは君が原因じゃないから、許してあげてくれ」
ミナ、マリアという珍しい組み合わせで話している。
「本当はポーラに聞くべきなんだろうけど、バタバタしていて聞きづらくて」
「構わないさ。ポーラはセレスの協力で忙しそうだしな」
マリアは局のルールや事情には疎いのでミナにいろいろ教わっている。
本当はポーラやトウヤに聞きたいが、ポーラはセレスの手伝い等で忙しく、
トウヤも同行する二人のお偉いさんが増えたことで対応に追われていた。
特に片方のお偉いさんはトウヤにべったりくっ付いていて悪目立ちしている。
その影響からか、新顔のマリアまで妙に目立ってしまっているのだ。
なので何とも聞きづらい状態が続いている。
そこに声をかけたのがミナというわけだ。
「キミの国での仕事と基本的に一緒。ただ、ランクがあるから勝手に引き受けて、
出来ませんでしたや、無理して大怪我しないよう気を付けてくれ」
「ええ。ランクの感覚が解らないけど、基本的に誰かのに同行する感じでやるわ」
と言っても一番と二番の同行相手が忙しく追われている。
暫くは魔法の使い方を覚えることが大事だろう。
「そういえばギルド同士って仲がいいの?」
「いや、ポーラ達が特別で基本そんなに仲が良いわけではないよ。
現に私も、ポーラ達くらいしか知ってる人はいないし」
「へぇ、じゃあこれが普通じゃないんだね」
トウヤ達を見ていると仲良くないというのが嘘のように見える。
「それがトウヤという人間なのかもしれないな」
「あーなんかわかるかも」
トウヤに誘われた身であるマリアには思い当たる節がある。
「とりあえず私にはどうにも出来ないから、やれることからやっていこうかな?」
「訓練?なら付き合うよ」
「やった、先生、お願いします」
「先生はやめなさい」
かるく冗談も言い合える仲。
ミナとマリアの相性は良さそうだ。
二人は騒ぎの元凶になってるトウヤ達をほっておき訓練場に向かった。
後で食堂の守り神である筋骨隆々なお姉さんに拳骨で咎められたのは言うまでもない。