貴族の思惑2
「報告は以上です」
自分の失敗を報告するのは嫌だが、報告しなければ後が酷い。
リヤナは嘘偽り無く報告した。
「……あれほど注意していたのに、怠ってしまったようだね」
低くしっかりした口調だが、攻めるようではなく宥めるように話してくれた。
「も、申し訳ありません」
「いや、責めているわけではない。ただ何度も同じことをやってしまうと、
君を七剣徒として置いておくわけにはいかなくなる。
そこは君も理解しているね?リヤナ」
「……はい」
義父は麗王の宰相を務めるほどの人物だ。
奥方は若くして病死。実子が一人いるが、さまざまな可能性を考慮して、
身寄りのない子供を数人、養子に迎えている。
そのうちの一人であるリヤナは、その中でも異能に優れていたため、
七剣徒になることを推薦された。
「一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「私に、少しお暇をいただけないでしょうか?」
「……理由を聞いても?」
「幾つかの戦場に赴こうと思います」
義父は驚いた顔をしたが、考えていることを察したようだ。
「実戦で弱点を克服しようと思っているんだろうけど、君は私の娘同然だ。
大事な娘をそんな所に喜んで送り出す父親はいないよ」
「決して一人で行くことはありません。同行する形で赴くつもりです」
「同行?」
「はい……しばらく彼と共に行動しようと思っています」
彼という言葉に眉がピクリと動いた気がした。
「彼……先のクエストで助けてくれた彼かな?」
「はい」
リヤナは緊張してきた。
「……確かに恩を受けた彼なら同行するのは真っ当な理由だね」
「は、はい。彼は下人ギルドのメンバー、戦場に赴く機会は多いと思います。
そこに同行して恩を返すと同時に、弱点を克服する機会を得ようと思っています」
「なるほど」
納得してくれたようだ。
「一瞬でも助ける力がある人材なら高ランククエストも機会がありそうだ。
特別にその彼と同行出来るよう、私からも手配しておこう」
「ありがとうございます」
快く承諾してくれたようで、リヤナは安堵した。
「もっとも、同行したい理由は他にもありそうだけどね」
その言葉にリヤナは体を震え上がらせた。
(バレた!?)
出来る限り平静を装い、義父の顔をゆっくりと伺う。
笑顔を見せていて、何を考えているか全くわからない。
「私は価値あるものが必要な場所、必要な時に使われていれば文句はない。
だからリヤナという価値が必要な場所が他にもあるというなら留めることはしない。
ただ、価値どうこうの前に君は大切な娘だ。娘を不幸にすることは私は許さないよ?」
なんとなくではあるが、見透かされているようだ。
そしてやはり下人に同行することは快く思っていないようだ。
リヤナは覚悟を決め、義父に答える。
「ここで行かないことは私にとっての不幸でしかありません。私の幸せの願って
いただけるのであれば、どうか少しの間だけ見守ってくださいませ。お義父様」
思わぬ言葉に義父は目を丸くした。
「ふ、ふふ、はっはっはっ!」
そして急に笑い出した。しかもとても愉快だと言わんばかりの笑いだ。
「いやすまない。不快に思ったなら謝るよ」
「いえ……」
「必要な場所が他にもあるというなら留めることはしないと話したように、
リヤナ自身が必要と感じたなら尊重するつもりだし、娘の不幸を願うことはしない。
ただ、不幸になる可能性が高いのに、それを見守るだけは出来ないということはわかっておくれ」
「……はい、お義父様に拾って頂いたご恩に報いるために一生懸命幸せになります」
「うむ、私もリヤナの成長は嬉しい限りだよ」
義父であるので、ある程度性格を把握していたつもりだが、
やはりよくわからないところが多い人だと感じてしまった。
だが許可は得られた。
これで堂々とトウヤの元へ行ける。
リヤナは一礼すると部屋を出て行った。
トウヤは申し訳なさそうに正座をして、ポーラの前にいる。
一人、気苦労をさせそうな人が付いてしまったことを詫びるつもりだった。
だがポーラに話すタイミングでもう一人増えてしまった。
トウヤも予想だにしなかった出来事だ。
なぜこうなった?いったい何をしたんだ?
トウヤも理由はわからない。
「ぜ、全部こっちで処理するので……」
「そんな簡単にいかないでしょ」
一応ギルドマスターの配下にいる身。
少人数ギルドのギルドマスターに責任がいかないようには無理な話だ。
「お義父様から許可は頂いてるのだから、そんなに気にすることではないのでは?」
「こっちも……お母様からの指示……」
貴族様たちはなぜトウヤが謝っているのか理解出来ないらしい。
「そうだとしても陰口や噂で好き勝手話が伝わってしまうのが問題なんです」
「うわ、さすが下人。陰湿で陰険な負け犬らしいわね」
最もな物言いだが、数が多い分厄介なことでもある。
「ま、トウヤくんがあなたにお世話になっているようだから、特別サービスしてあげるわよ」
「サービス?」
「負け犬を潰してあげるわ」
「もっと平穏に済ませてください!」
トウヤはこういうやり取りを見てると仲良くなれるんじゃないかと感じてしまう。
「とりあえず、同行するからクエストを探すわよ」
リヤナはポーラではなく、トウヤにクエストを探すよう指示を出す。
「そ、そこは俺が判断するのか?」
「そこは……まあそうなるわね」
クエストは基本マスターが受ける受けないを判断するが、
チームとしても受けることが出来るため、チームリーダー判断でも問題ない。
「じゃあトウヤくん、最高ランクでいいわよ」
「いきなりですか!?と、その前にスプニール、人前に出るときは
もう少し肌を隠してもらえませんか?」
「なぜ?」
スプニールにとって、布面積が少ない服はいつも通りだ。
「変なトラブルに巻き込まれない為にもお願いします」
「そう……善処するわ」
トラブルには巻き込まれないに越したことはないので、
スプニールは素直に返事したが、変なところに飛び火した。
「な!?なんで名前で呼んでるの!?」
名前で呼び合うほどの仲に進んでいたことにリヤナは驚く。
「え?そう呼んでくれと言われたので」
一瞬、リヤナがスプニールを睨んだように見えた。
「なら私もリヤナでいいわよ」
「ええ!?君影の君まで!?」
「リヤナよ、リ・ヤ・ナ」
圧が強めでリヤナが顔を寄せてくる。
これは反論を許さない感じだ。
「わ、わかったよ、リヤナ」
そう言うとリヤナは満足そうな笑みに変わる。