表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
189/303

貴族の思惑

トウヤはオリエンを狙うがスプニールがそれを邪魔する。


間に割って入ったスプニールは冷静に異能“弱点看破の毒(バイタルサイト)”で見極める。


(ただ怒りに任せて殴るだけ。単純ね)


力任せに殴る弱点は幾つかあるが、彼の場合、弱点は体格。


小柄な体格なので腕はさほど長くない。


つまり、肩を抑えてしまえば簡単に届かなくなる。


そしてここには長物が幾つかあるが自分の槍で十分だと判断する。


刃は腕を切ってしまう可能性があるので直接使えない。


なので逆さに持ち、柄で肩を突いて抑えた。


(他愛のない)


これでトウヤの動きは止まる。


スプニールには簡単な作業に思えた。


だが抑えたはずのトウヤの腕から衝撃波が放たれ、スプニールの顔面に直撃する。


トウヤは殴ると同時に“(ふるえ)”が放たれるようにしていたため、

暴発するようにスプニール当たり、そのまま倒れてしまった。


事故だがトウヤには好都合。


また狙いをオリエンに切り替え、再度立ち向かう。


だがそれを阻むようにクルルが立ちふさがる。


「なんで!?」


トウヤは即座に攻撃を止めたが、その瞬間クルルがトウヤの首を掴み締め上げる。


「あっ――!?」


かなり強い力で締め上げられる。


「違う!私の意志じゃない!体が、体が言う事を聞かないの!」


涙ぐみながら叫ぶ姿は、本当にクルルの意志でない事が伺える。


ふと締め上げる力が弱まると、トウヤもクルルも解放された。


「トウヤ君!ごめん!大丈夫?」


締め上げられた首を抑え咳き込むトウヤに、クルルは謝りながら心配した。


「げほっ!けほっ!……大丈夫……」


トウヤは何とか答えるが、狙われたのは首だ。


そう簡単に安心することは出来ない。


「その気になれば、あなた方を無理矢理従わせることは簡単よ。

でも、それをしないのは譲歩しているということを忘れないでちょうだい」


今のはオリエンの仕業ということだ。


トウヤとクルルは互いに仲間同士という認識。


そこにオリエンはどちらでも簡単に操り、人質にして従わせることも可能であること。


そして互いに殺し合いをさせ、心を砕くことも容易い話であることを意味する。


「ただ、あなたはなぜか破ることが出来たのなら、狙いは一つになるでしょうね」


オリエンは目線を鋭く目をクルルに向ける。


それと同時にトウヤは間に立ちふさがり、クルルは身を小さくした。


恐ろしい。


麗王(れいおう)がこんなにも恐ろしく感じたのは初めてだ。


「スプニール」


オリエンは倒れている娘に声をかける。


「う……はい」


どうやら本気で気を失い、今しがた気が付いたようだ。


「予想外の動きがあったとはいえ無様ね」


「……申し訳ありません」


親子というよりは仕事のパートナーとしてのやり取りに見える。


「ではスプニールには罰として、そしてあなたには褒美として、

スプニールを護衛として使わせてあげるわ」


「わかりました」


「「え!?」」


何も反論せず従うスプニールにも驚いたが、オリエンの提案にも驚いた。


「いや、麗王(れいおう)を守る七剣徒(セプトレア)が離れてていいんですか!?」


「問題ありません。私の力だけでも十分です」


確かに相手の意志を無視して操るのは強力だが……


七剣徒(セプトレア)が一般人の護衛って他が黙っていないのでは?」


「親が子をどう使おうが勝手では?それに一般人の攻撃に一瞬とはいえ

気を失うなんて力が劣っていると判断するしかありません」


そこはどうなんだ?と思ったが、こちらの常識が通じない相手だ。


「なので実際に戦いの現場に赴き、経験を積むこと。

そしてあなたを守ることで我が一族の情報の流出を防ぐ目的もあります」


守護者の門出(ガーディアンゲート)で監視するのではなく、スプニール自身で監視するということもある。


「スプニールは監視と護衛のみ、空気みたいなものと思っていただければ結構です。

なので勝手に射程に入って切り殺されても知りませんよ?」


行動を共にするということは、乱戦時に標的にされる可能性があるということだ。


スプニールが実力で劣る相手はそうそういないので、一方的に打ち倒すことになるが、

この時に巻き添えになっても知らねえ、ということだ。


星歌(ほしうた)の君の件も特別に保留にしましょう」


オリエンはさらに追加の褒美を用意した。


「え!?……よろしいのですか?」


「ええ、彼にとって星歌(ほしうた)の君は大切な人のようですからね。褒美としては

妥当と言えるのでしょう。ただ、星歌(ほしうた)の君自身が拒んだという事実は残ります。

彼がただの下人だと証明された場合、あなたの立場は大変でしょうね」


麗王(れいおう)の要求を拒んだということは、麗王(れいおう)に逆らったと同等。


そんな人間を配下に置きたい麗王(れいおう)はいないだろう。


それは同貴族内で非常に肩身の狭い立場になる。


トウヤがスプニールの仮説通りの出自なら話は別だが、可能性はかなり低い。


「何か質問があれば受け付けますが、何かありますか?」


トウヤは恐る恐る手をあげた。


「どうぞ」


「この監視はいつまで続くものなのでしょうか?」


いつまで監視されるか、される側には気がかりな話だが。


「さあ?」


あっけらかんと答えられ、茫然としてしまう。


「さすがにスプニールをいつまでも置いておくことは出来ませんが、

監視はあなたの出自がハッキリするまで続くものと思ってください」


スプニールが離れる時はまた守護者の門出(ガーディアンゲート)でとなるだろう。


今度は今回のように運良く拒めるとは限らない。


トウヤ達としては、出自をハッキリさせるしかないだろう。


「他にありますか?」


と問いかけられたが、今は聞きたいことはない。


トウヤもクルルも首を横に振る。


「では、もし質問が出来たらスプニールを通していただき、

答えられる内容であれば、お答えします」


こうして妙な形でスプニールが同行することになった。


これを知った時のポーラの顔が頭に浮かんだ。


「クルル、大丈夫?」


「う……うん」


守護者の門出(ガーディアンゲート)を付けずに済んだ安堵と、これからの不安が入り交じり、

こちらも何とも言えない顔になっていた。


「ということで暫くの間よろしくね、トウヤ」


当の元凶はやはり無関心というか、何とも思っていない様子だ。


「よ、よろしくお願いします、桃姫(ももひめ)の君」


「スプニール」


「え?」


「呼びづらいでしょ?特別に名前で呼ぶことを許すわ」


「あ、ありがとうございます、もも――」


軽く小突かれ睨まれた。


「スプニール」


そう言うと一瞬、満足そうに見えたのは気のせいだろう。


ってか今さら名前とか呼びづらい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ