招待
「というわけでマリア・ウィンタード、推定18歳です。よろしく~」
歓迎ムードのファイゼンとリンシェン、それにつられるリリス。
リーシャは歓迎半分呆れ半分で、ポーラはお腹を擦っていた。
「なんでこう、問題が起きそうな人ばかり……」
「お前が言えたことじゃねぇだろ」
リーシャはポーラの腹痛の原因を察したが、それは自分の蒔いた種である。
「とりあえず入局試験はしばらく出来ないから、うちの預かりで歓迎するわ」
「しばらくって、何かあるのか?」
トウヤの問いに空気が重く変わる。
「ソニアさんよ」
「あ……」
ソニアの隊葬、そしてアルフォートの遺体が戻ったことで、もう一度隊葬が行われる。
「なんか、私って歓迎されていいの?って思っちゃう」
「そこは関係ないだろ」
マリアの気遣いを全員で吹っ飛ばす。
「両ギルド共、重要な人物を失ったことで荒れるでしょうね」
貴族はこういう時だけ動きが軽いようで、空いた席に我先にと群がっているようだ。
そしてもう一つのところは……
「なんかアローニャさん、これを機に新しい体制に作り替えようとしてるみたいよ」
「どういうこと?」
パースレールはメンバーも多く、主要メンバーの消失もあり立て直しには時間がかかる。
そこである程度の切り分けを行い、新しい体制を組むようだ。
その目玉の一つが傘下ギルドの立ち上げだ。
今まではペアやチーム単位の少人数で動いていて、
マスターであるアローニャが一括で管理していたが、
今度は同等の権限を持つマスターを作り、それをアローニャが管理するようになる。
つまり肥大化した組織をギルドと言う形で切り分け、管理するようにするらしい。
そして戦闘特化、支援特化など特色を持たせることで、その手の質を高めようというのだ。
今までの気に入った仲間内で完結させていたものを一度切り離し、
質を高めた後再度組み合わせることで、全体の底上げが狙えるが、
これを人が減ったこのタイミングでとは大胆な判断である。
そしてトウヤ達の身近で変わる変化と言えば、
セレスがその傘下のマスターになることが決定した。
もちろんセレスを支えるサブマスターはティアである。
ティアも柄じゃないと断ったがセレスとアローニャの説得で引き受けたようだ。
ってかアローニャの説得は凄く圧を感じる……
「今回のクエストで注目しなければならないのは、主要メンバーでも歯が立たない。
局の想定より敵がはるかに強かったという点よ」
今回、アルフォート、ソニアを始め、数人の主要メンバーを失い、
末端でも犠牲者では出ているのに、相手側はまだ余力を残している。
そして上級貴族でもクルルのような末端では厳しい相手が存在する。
これは攻めてこられたら守れない可能性が非常に高い。
数百年続く局の歴史の中でも指折りの危機的状況だ。
これに早急に対策を用意しなければならないことを示している。
「戦力の強化はもちろん、どのギルドも有事の時は連携しないといけないわね」
もちろん貴族、平民に囚われすに協力すべきなんだが、
問題は互いに関係の改善を望まない人間が多いことだろう。
もちろん例外はいるので、今はそこから繋げていくしかない。
「あとは、数の問題だな」
力が拮抗している場合、やはり数の差は大きく影響する。
元々人手不足だった局も、今回の件でさらに減ったのは厳しいだろう。
ただ、強大な力を持つ人間が協力してくれれば……
ふとある人達が協力してくれることを考えたが、はるかに難しいので考えを追い出し、
着実に力をつけ、少しでも人手が増えるようにする方向に切り替えた。
「これ、繋がってるのかしら?」
ふと声が響く。
と言うか周りの反応を見ると、トウヤ以外聞こえていない。
つまり個人に対する念話だ。
そしてこの声に聞き覚えがある。
気だるげで抑揚のない声、最近知った人の声だ。
「もしかして桃姫の君ですか?」
「ああ、繋がっていたのね。クエスト以来だけど、覚えててくれて嬉しいわ」
嬉しいという割には声のトーンは変わっていないので、営業トークに聞こえる。
「少しお話があるから、君のマスターさんにも繋いでくれる?
もしギルド内にいるなら他の人に聞かせても問題ないわ」
「はい、じゃあギルド内なんでみんなに聞こえるようにしますね。
みんな、桃姫の君から話があるって言うから聞こえるようにするよ」
「は?え!?ちょっと待って!」
メンバーの了解よりも早くトウヤが繋いだので声がダダ洩れだった。
「ごきげんよう、エルメント・ジュエルの皆さん。
少し頼みごとをするだけだから、そんなに畏まらなくてもいいわ」
と言われても畏まるのが身分の差である。
「マスターさん」
「はいっ!」
まるで軍隊の挨拶のようにポーラは返事する。
「トウヤ君を少し貸していただけないかしら?」
「え!?」
前にも似たようなことがあった気がする。
「今この場で話すことは出来ないんですか?」
当のトウヤは緊張感が無い。
「あなたに会わせてほしいという人がいるの」
「俺に、ですか?」
思わぬ話だが、これも前にあった気がする。
その時は散々な目に合った。
「ちなみにどなたか聞いてもよろしいですか?」
「……お母様よ」
「!?」
スプニールは桃竹の君のご令嬢。
つまり麗王の一花が会いたいと言っているのだ。
魔法世界でも指折りの権力者直々の話を断ったら……
「それ、俺に断る権利無いですよね?」
「断る断らないはあなたの自由よ」
見えない圧力を感じる。
権力者はあくまでも協力してもらっている風を装いたい。
「わかりました。お伺いしたいのでどちらへ向かえばよろしいでしょうか?」
「ありがとう。星歌の君を向かわせるから合流して。
その後は彼女の案内に従ってもらえれば大丈夫よ」
完全に仲介役にされているクルルも気の毒だ。
「わかりました。すぐにお伺いします」
「ん、よろしくね」
そう言うと念話は途切れた。
「あああああんた何やったのよ!?」
「今回は何もやった覚えないよ!?」
メンバーの責任はマスターやギルドの責任になる。
ポーラが心配するのも当然だ。
「お前麗王に目を付けられてるんじゃないか?」
「七剣徒と行動したりと目立ってたからなあ」
事の行き先を心配するリーシャ、ファイゼン達の考えはトウヤも理解出来る。
「なんかずいぶんと偉そうで嫌な感じだったね」
「私も嫌い」
権力に疎いマリアとリリスは率直な感想を話している。
この二人は今後こういうのを学んどいてほしい。
「にゃあにゃあ、おみゃあにゃんか高そうにゃにょ貰ってこいにゃ」
論点がズレてるリンシェンに拳骨を入れて黙らせる。
「ま、とりあえず行ってくるよ」
当人であるトウヤは一番冷静だった。