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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
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家族と一緒に

ポーラの計らいで個々に棺が用意され、

マリアの家族は皆、一緒に暮らした場所に埋葬された。


散り散りになった子供達の体もちゃんと集めることが出来たのは、

せめてもの救いと言えるだろう。


この国はそもそも死者を埋葬する習慣は無いが、

墓のようなものを用意され丁重に葬られることにマリアは感謝した。


そして……


マリアは近くの高台で月夜を見上げていた。


ただ、何かするわけでもなく、一人で空を見上げている。


「一人……」


まだ涙が溢れ出るということは、それだけ大切な家族となり、

それを失ったことに心の整理が追い付いていないのだろう。


マリアはそっと立ち上がり、眼下に見える家族の墓を見た。


「みんな……」


スッと歩き出すと体は落ちていった。


何もないところに身を出したのだ。


「一緒に」


落ちながらそう呟くと、腕を掴まれ止まった。


何事かと思い目を開くと、あの少女のような少年が腕を掴んでいた。


「離して」


「それは出来ない」


「離して」


「……」


「私を皆のところへ行かせて!」


マリアの叫びも聞き入れられず、ゆっくりと地面に下ろされた。


「どうして、どうして私だけ……」


一人生き残ったマリアはなぜ生き残ったのかわからずにいた。


もっと早く家の中に入れば一緒に死ねた。


もっと早く局を頼っていれば死ななかった。


どうして自分だけ、家族と違うことになったのか。


それが解らないままだった。


そして今度は魔法を使い体を切断しようとした。


空間転移は離れた二つの空間を繋ぐ出入口を作る。


そのため出入口を通過中に消せば、

離れた空間に一つの物体がある状態になり、簡単に切断されてしまう。


それを理解しているトウヤは、出入口を通る前に引き離して阻止する。


「どうして、どうして邪魔するの!」


マリアはトウヤの襟元に掴みかかり、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き出した。


「私を家族の元に行かせて!」


そして膝から崩れ落ちる。


だが今度はトウヤがマリアの襟元を掴む。


小柄でも仮にも男。


トウヤはマリアと目線が合うまで掴み上げた。


「家族は、みんなあんたに生きてほしいと願っていたんじゃないのか?」


「君に何が――」


「解るよ!!」


マリアはハッと驚くように黙った。


「俺も大切な人を失った。その人もあんたの家族と同じように俺の幸せを願ってくれた。

死ぬときも後を追ってじゃなくて、強く生きてほしいと託された。

だからこそ、あんたを瓦礫に埋もれないよう突き飛ばしたんじゃないのか?」


お互いに似ていると感じた理由は、同じような境遇にあったからだ。


普通の世界から離れた劣悪な環境。その中でも得られたかけがえのない存在。


その存在を守ろうとしたこと。そして大切な人の死。


境遇が似ているから理解出来る。


「でも……でも……」


「辛いよ。でもあんたが死んだら、あんたに託された物はどうする?

せっかく犠牲になって助けてくれたのに、それを無駄にしてどうする?」


「でも……でも、一人じゃ……」


ふと頭に過った光景。


トウヤが立ち直れたのはこうなったからだ。


そして今度はトウヤが手を差し伸べる時がきた。


「俺と一緒に来ないか?」


「え?」


「うちのギルドに入らないか?」


「え……でも……」


局に好感を持っていないマリアは迷ってしまう。


「局全部を好きにならないでいいし、俺達だけでいい。

大切な人を失った悲しみは、新しい仲間が癒してくれる。

俺がこうやって前を向けるように、マリアも向けるようになるさ」


全てを受け入れず、好きな身近なものだけ大切にすればいい。


そうすれば好感が無い場所でも過ごしやすい。


割り切った考えにマリアは好感が持てた。


「君は人を誘うのが上手だね」


「そう?」


トウヤはそんな自覚が無い。


「私は他の人よりずっと弱いよ?」


「大丈夫。俺も強いし、強いメンバー集めるよ。

それにマリアは弱くない。力の強さだけが全てじゃないよ」


相手を立てる言葉が当たり前に出てくるあたり、誘い上手だとマリアは感じた。


「うん……連れて行って」


そうマリアが答えると、淡い光が現れた。


「!?」


その淡い光が集まるところに人影らしきものが見える。


男?トウヤには見覚えが無い。


「ヨシエフ……?」


マリアは男の顔を知っていた。


「うそ!?」


トウヤは布に包まれた姿しか知らないため、驚いた。


そして淡い光から次々と子供の姿が現れる。


「お姉ちゃん」


子供はマリアが保護した子供達、つまりこの墓に眠る家族達の姿が現れたのだ。


「みんな、どうして!?」


マリアは溢れる涙を拭いながら抱きしめようとしたが、すり抜けてしまった。


「魔法の……奇跡みたいなもののようだ」


ヨシエフは冷静に説明してくれた。


なぜ起こったか解らない。


でもマリアの家族が起こしたことだけは間違いなかった。


「俺たちの想いはマリアとずっと一緒だ。マリアを託すぞ?」


真っ直ぐ見て問うヨシエフに、トウヤは姿勢を正して答える。


「ああ、後悔はさせない。安心して見守っていてほしい!」


その答えにヨシエフは頷くと、次はマリアを見る。


「みんな、私……」


少し言い淀んだマリアを止める。


「俺達は常にお前と一緒だ」


そう伝えると、ヨシエフの姿が光になってマリアを包み込む。


「しあわせに」


「いっしょ」


「ずっと」


ヨシエフを追うように子供達が光になりマリアを包み込む。


するとマリアに変化が現れた。


「これって……魔力が増えた?」


トウヤはマリアに起こった変化に気づいた。


「みんな、応援してくれるんだね。ありがとう」


増えた魔力はもちろん、彼女の家族の物だ。


小さくても集まれば立派になるし、あの彼はマリアよりもずっと大きな力を持っていた。


それらが全てマリアの力となり支えとなる。


「みんな……行くよ」


マリアはトウヤと一緒に局へ向かった。


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