優しい家族
「――――!!」
目に飛び込んできたものに悲鳴を上げた。
落ちていたのは幼子の頭部のみ。
体が見当たらない。
「いや、いや、誰か!誰か!!」
頭部を抱えて、奥へ進む。
今度は別の子が倒れている。
「大丈夫!?い――!?」
近づいて初めて気づいた。
腹部から下が無い。
爆発の衝撃で吹っ飛ばされ、体の弱い子供達は身を引き裂かれたようだ。
「なんで、何でこんなことに!?」
なぜ子供達が、このような無残な姿にならなければならなかったのか。
マリアは気が動転して考えることも出来なかった。
「おね……ちゃん……」
かすかに声が聞こえた。
「どこ?どこにいるの!?」
声の主を探す。
「おねえ……ちゃん」
声を頼りに見つけ出すと、瓦礫に埋まった子供がいた。
「今助けるから!」
自分の空間魔法で助けようとしたが、体が埋まっていて、
どのように空間を開けば子供だけを助けられるかわからない。
下に大きく作っても、瓦礫と一緒になってしまい、さらに潰されかねない。
仕方なく、体を引きずり出そうとするが、体が埋まっているせいで、
子供に痛い思いをさせるだけで動かす事も出来なかった。
「これを動かせたら……」
瓦礫の一番上は大きな板状のものに、土砂が乗っていた。
これを動かし、乗っている瓦礫を取り除ければ助けられる。
そう思いマリアは瓦礫を動かそうとするが、全く動かない。
「もう少し……もう少しで助かるから!」
マリアが力一杯押しても、瓦礫は全く動かなかった。
ふと何かが転がる音がした。
「お姉ちゃん、もういい!巻き添えになっちゃう!逃げて!」
何かを察した子供が必死に叫ぶ。
「逃げられるわけないでしょ!私が守る、守るって決めたのよ!」
そう言うことはわかってた。
姉は口癖のように守ると言って、
自身も酷い目に合いながらも大人から守ってくれていた。
そんな姉だからみんな一緒に暮らしていた。
いつか、自分たちが姉を守れるようになるために……
ドン
子供は最後の力を振り絞り姉を突き飛ばした。
「え?」
マリアが離れると同時に瓦礫は崩れていった。
「いや、いや!」
瓦礫の隙間から赤い液体が流れ出る。
「ああ……ああああ!」
マリアは頭を抱え、その場で泣き叫ぶことしか出来なかった。
「マリア!」
遅れて入ってきたトウヤが駆け寄る。
泣き崩れ動かないマリアを見て状態を察した。
中の惨事は覚悟していた通り全滅。
そして家族を失ったマリアが生きる気力を失ってしまうことも考えてた。
「マリア、ここは危険だ。外へ出て、ヨシエフを止めるのに協力してくれ」
「ヨシエフ……」
彼の名を聞いたマリアは曇った瞳に光を取り戻した。
「ねえ、これは、彼がやってしまったことなの?」
「……たぶん、抑えられなくなってしまったんだろう」
「彼は、この事を覚えてるかな?」
「この事?」
「子供達を死なせてしまったこと」
「!?」
マリアの話では、根が優しい性格らしい。
だから子供達を保護することに協力していた人だ。
子供を大切に思う気持ちがあったと思う。
それなのに自分が原因で死なせてしまった。
それを知った時、彼はどう思うだろう?
後悔に苛まれ自ら死を選んでしまうかもしれない。
優しい、だからこそ必要以上に自分を責め苦しむ可能性がある。
「わからない」
濁しているように聞こえるが、本心で話す。
「やってしまったことは変わらないよね?」
「ああ、そうだな」
隠し通す選択肢もあるが、子供達がいない時点で必ずバレてしまう。
「……お願い、死なせてあげて」
マリアの口から意外な頼みが出た。
「何言ってるんだよ、出来るわけない」
「ならデバイスを貸して。私が彼を殺すわ」
「そんなことの為に貸せるか!」
マリアの為にもヨシエフには生きていてほしい。
トウヤはそう思っている。
「お願い……彼を楽にしてあげて……」
「!?」
ヨシエフにとって、魔法による暴走とはいえ、
自らの手で子供達を死なせてしまったことは苦痛だろう。
さらに今まで魔法を抑えるために戦い続けた。
トウヤは聞いた事までしか知らないが、
マリアとヨシエフには語り尽くせないほどのものがあるのだろう。
「いいのか?」
マリアは黙って頷く。
それを確認してマリアと共にヨシエフの元に向かう。
「……!中は?」
外で待機していたポーラの問いに黙って首を振り中の惨状を伝える。
「そう……今急いで解析を進めてるし、捕縛の用意をしている。
もう少ししたらみんな駆けつけてくれるわ」
「殺してほしいと頼まれた」
「!?何で!?」
ポーラはマリアを見て確認するが、俯いたまま何も反応が無い。
「事故とはいえ子供達を手にかけてしまったんだ。
それに今まで十分苦しんできた。そこに重い十字架を背負わせたくないそうだ」
捕縛してもいつ解析できるかの目途が立たない状況で、
いかにこの長期戦を乗り越えるかポーラも考えていたが、
これと言う良い案は全く出てこなかった。
そこに討伐の許可。
最も楽な手段だが、それは気持ちが良くないやり方だった。
「いいの?」
ポーラの確認にマリアが頷く。
「……そう」
トウヤとポーラはデバイスを取り出す。
「マリア、俺を恨んでくれてもかまわない」
「ううん……お願いしたんだから恨まないよ」
マリアは精一杯の笑顔で答える。
「ごめん、助けられなくて」
二人は頭と心臓を討ち取り、ヨシエフの暴走を止めた。