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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
炎と氷の鎮魂歌
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父の支え

「お父……さん?」


セレスは光の正体を知った。


するとさっきまで止まらなかった震えが止まっていた。


「ずっと、一緒にいてやる」


そう聞こえると、スッと前に動けた。


そして突き出したデバイスは簡単に天使に当たった。


デバイスの効果を十分に発揮させていないため、天使に大したダメージは無いようだが、

警戒させるには十分な効果があり、足を止めさせることが出来た。


体が急に軽くなり支えてもらっているような感覚がある。


今なら天使を倒せる、そんな力強さまである気がする。


「今だ!」


セレスは再度構え直すと、デバイスをしっかり起動させた。


炎の棘(フルンド)!カートリッジロード!!」


デバイスから大量の魔力が放たれると同時に、左に回し熱砂を放出すると、

天使を倒すために練習していた魔法をイメージする。


そして……


「熱砂、“波貫突(はかんとつ)”!」


勢いよく突き出したデバイスから熱砂が放たれる。


打ち出された熱砂は、細かな振動を伴いながら渦を描き流れている。


砲撃は天使を簡単に打ち抜き、大きな穴を体に開けた。


力無く倒れる天使を確認すると、セレスはアローニャの方を向き、二撃目を放つ。


アローニャを襲っていた天使達は密集していたこともあり、

その二撃目で一掃させることが出来た。




「倒せた……の?」


アローニャはまだ目の前の光景が信じられなかった。


あんなに苦労した天使、アルフォートの命を奪った天使を、セレスが倒した。


「ああ、俺達の娘が大きな壁を乗り越えたんだ」


そしてもう一つの重大な出来事を思い出した。


「アル!あなた生きて――!?」


アルフォートに触れようとしたがすり抜けていった。


「俺はここまでだ。苦労をかけてすまなかったな」


その言葉にアローニャは堪えていたものが溢れ出し、泣き崩れた。


「お父さん……」


セレスはアローニャとアルフォートの元に歩み寄る。


「セレス、立派に果たしてくれて、ありがとう。さすが俺の自慢の娘だ」


セレスも堪えていたものが溢れ出す。


「……お父さんの、支えがあったから……」


「それでもお前の力だ」


震えが止まったのは、アルフォートの存在を感じたから。


だからこそ天使に立ち向かうことが出来た。


「これからは、お前の心の支えになれるといいな」


「うん」


これで、トラウマを乗り越えられたことを願うばかりだ。


「アローニャ、先に逝ってしまうことになって、すまないな」


「ごめんなさい、私がこんなクエストを依頼したばかりに……」


「違う。いつかは向かわなければならなかったクエストだ。

お前が自分を責めていると、俺は安心出来ない」


アローニャも表には出さなかったが、自分を責めていた。


自分が天使の手掛かりを掴まなければ、クエストを依頼しなければ、

アルフォートを向かわせなければ、死なずに済んだかもしれない。


「これは俺が選んだ道の末路だ。不本意な結果だが、お前らが責任を感じることではない」


理屈では理解出来るが、感情が追い付かない。


ふとアルフォートを包む光が強くなる。


終わりが近いようだ。


「野蛮な俺を愛してくれてありがとう。俺の元に生まれてきてくれてありがとう」


アルフォートは急いて感謝の言葉を伝える。


「アル!私も、愛してくれてありがとう!」


「お父さんの元に来れて、幸せだよ!」


眩しい光に包まれると、アルフォートは光の粒となって消えていった。


「うっ……」


溢れ出るものはまだ止まらない。


「……お父さん、ありがとう」


そう呟くと、セレスはアローニャの背中にそっと手を添えた。


「うん……わかってる……でも、今だけは……」


アローニャはまだ動けない。


その姿に、セレスもまた溢れ出てしまった。


静かな空間に二人がすすり泣く声だけがしばらく続いた。







「ありえないありえないありえない」


ゴラースミは想定外の結果に頭を悩ませていた。


「なんだあれは?」


何かの光に包まれたと思うと“鬼”の元の人間の姿が現れ、

エクセル博士とその娘を包んだ。


そして娘の力が跳ね上がったかのように小型天使を貫いた。


ありえない。小型とはいえ、あんな小娘に倒される性能はしていない。


何かが……自分の知らない何かがあったのか?


いや、小型は通常の天使の試作機。どこか異常があったのかもしれない。


でなければ敗北はありえない。


脱出の準備が整ったので今回は引いたが、追加を使えば負けはしなかった。


いや、異常があったなら変わらないか?


なら、課題があったことを知れたので良しとすべきだろう。


だが、この課題の多さは問題視すべきだ。


報告によると天使はほぼ全滅。試作機“人魚”は一時離脱。“海月”は全滅。


無人遠隔兵器の“類猿人”と“双頭竜”も全滅している。


さらに天使の上位種になる予定の“鬼”まで失っている。


“類猿人”はともかく、その他はそれなりの兵器に仕上げている。


「局の魔導士ごときにこの(てい)たらく?あのお方になんといえばいいのか……」


と言ってもあのお方は、我が身を守るための嘘や言い訳を嫌う。


正直に起きたことをそのまま報告しなければ消されてしまうだけ。


これを寛大な心で見てくれることを願うばかりだ。


「ゴラースミ様、到着しました」


「ああ」


輸送機の扉が開き、南国風の豪邸が見える。


だが日差しは強すぎず、むしろ心地よい。


一時的な避難場所としてあのお方の現在の居住地の一部を貸し出された。


しばらくはここでデータを整理し、次の実験を行える場所へ移動する。


だがその前に……


ゴラースミは緊張した面持ちで向かった。


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