金剛装炎
ガン!!
衝撃波と共に爆風が吹きすさぶ。
アローニャは一瞬目を守ると、セレスの姿を確認した。
そしてその目に飛び込んだ光景に驚いた。
「なん……だと!?」
ゴラースミも信じられない光景に思わずつぶやいてしまった。
今までぶっ飛ばされるだけだったセレスがアルフォートの攻撃を初めて止めた。
その身には大きな鎧のような炎が纏われている。
「金剛装炎!?」
セレスの魔法を知るアローニャは理由を理解した。
セレスが使う最も強力な防御魔法、火纏・金剛装炎。
あまりにも重すぎて、セレスの力では身動きが出来ないが、数多の攻撃を防いだ防御魔法だ。
(何を!?)
動けない。それはただの的にしかならないはずだった。
アルフォートが追撃し始めた瞬間、セレスの足元から大量の砂が沸き上がった。
カウンターの要領で放たれた砂はアルフォートの片足を捕らえると同時に、
バランスを崩させ、身動きをとれないように纏わりつく。
「何だその砂は!?」
ゴラースミは何が何だかわからない状態に陥っていた。
アルフォートはもがき、逃れようとするが、
砂が次々と纏わりつき、次第に動きが鈍くなる。
身動きが取れなくなったアルフォートに追い打ちをかけるよう大波のような砂が襲い掛かる。
「鬼ぃぃ!!さっさと止めろぉ!!」
ゴラースミは命令するが拘束されたアルフォートには何も出来なかった。
砂の大波はアルフォートを飲み込むと一面を砂漠のように変えた。
そしてセレスは地面を踏み締めて叫ぶ。
「熱砂!送葬!!」
鈍い地響きと同時に地面が揺れ、
大量の砂が魔法による力で踏み固められたようになる。
「ちぃぃぃ!!」
ゴラースミがまた強化しようとしたが気づいた。
アルフォートは砂に埋められ、圧力をかけられ地中で身動きが取れない。
砂、つまり土に雷の信号による強化は阻まれている。
よってこれ以上の強化、回復は見込めない。
「まさか……負けた?私の傑作が……」
ゴラースミは放心し、力なくへたり込んだような音がした。
「アルに……勝ったの?」
アローニャにも信じられない結果だ。
計算上、勝率は良くて五分より下回ると予想していた。
だが動けない魔法と砂を操作する魔法を組み合わせ、
攻撃を受けつつ捕縛して確実に当てていくのは今までのセレスに無いやり方だ。
(アル、見てる?いつも素早く動き、攻め立ててたあの子が……)
拘り続けたやり方に加え、新しいやり方を加えた姿に大きな成長を感じた。
「ありえないありえないありえない!こんな小娘に負けるはずがない!」
ゴラースミは叫び不服を唱えた。
「これが、人を見下し続けたあなたの結果よ、ゴラースミ博士」
「あれはまだ未完成!そう偶然、たまたま起きた不具合の結果だ!」
「現実を認めなさい!」
アローニャが一喝する。
「黙れ!天使!天使を出せ!!」
「ほとんどあちらに出してしまい、残りは子供しか……」
「かまわねぇ!使え!!」
ゴラースミの傍に人がいたようで、その人物に指示を出す。
あちらに……つまり別の相手に使ってしまったのか?
アローニャは一瞬不安がよぎったが、七剣徒が対処したと信じよう。
そして残り少ない、小型の天使が数体現れた。
「セレス」
アローニャはセレスを守るように天使との間に入る。
「大丈夫……やらなきゃ乗り越えられない……」
デバイスがガタガタ震えている。
先ほどの大技で魔力を大きく消費し、トラウマの元凶を目の前にしている。
無理もない。
だが気持ちの整理をつけることも理解出来る。
どちらを尊重するか悩んだが、アローニャは決断する。
「セレス、引きなさい。ここは私一人で引き受けるわ」
「!?」
相手は小型とは言え複数、かつ戦闘面で上回るアルフォートが勝てなかった相手と同種。
それは自らの命を犠牲にする選択だ。
「いや!そんなことしたら――!」
小型の天使は待ってくれなかった。
アローニャは石で盾を作り受け止める。
「子を守るのは親の責務!そしてもしもの時がきても復讐を考えないで!」
アローニャは最後のつもりで伝える。
「嫌だ!私だけ逃げるなんて出来ない!」
「言う事を聞いて!」
受け止めたアローニャを天使が畳み掛けようとする。
天使を抑えるだけで精一杯のアローニャにセレスを逃がす余裕はない。
(私がやらなきゃ……)
逃げることは母親を犠牲にすることになる。
なのでセレスが仕留めるしか母親を救い出す方法がない。
だが過去のトラウマで天使に向かうことが出来ない。
(やらなきゃ……やらなきゃ……)
震える手を必死に抑えて構えるが、まだガタガタ震えている。
(今やらなきゃお母さんが……)
必死に向かおうとするが踏み出せない。
アローニャを抑えていた天使の中の一体が、セレスに狙いを変えた。
「セレス!」
アローニャの叫びに何かが切れた。
「ああ……あああ!」
ヤケクソになったかのように、狙いの定まらない突きを繰り返してる。
天使も躱すが訳も分からないようで様子を見ているようだ。
「あああ!」
無暗に大きく振りかぶりデバイスを突きだそうとし始めた。
それは隙だらけで簡単に躱されてしまいそうだ。
それを見たアローニャは無理にでも止めようと藻掻くが、
天使たちに抑えられて思うように動けない。
(ならば!)
怪我をする恐れがあるが、至近距離で石を爆発させて天使から逃れようとした。
「待て!」
どこからか声がした。
周りには誰もいない。
だがこの声はよく知っている。
不意に風のようなものが吹いたと思うと、キラキラと光り出しセレスの元へ流れる。
そしてセレスを包み込むように集まると、セレスの動きを止めた。
セレスも動きを止められ、気づく。
温かく、優しい感じ。
そして力強さを感じる。
(この感じ……まさか!?)
光はアローニャも包みだした。
「まさか、アル!?」