黄泉津大神
「桃姫の君!そちらに参加します!」
「なら君は星歌の君と協力して。彼女一人ではギリギリなの」
一体一体が強力な天使が何体いるんだよと思えるほど現れてる。
クルルは幻獣を複数操作し、時間をかけながら破壊。
ミイナは弱点に砲撃を超近距離で撃ち込んで破壊。
スプニールは同じ場所に複数回、槍を打ち込むことで破壊。
やはり七剣徒でも攻撃向きの異能でなければ時間がかかるようだ。
「クルル!一瞬動きを止めて!」
クルルは幻獣を操作し、一瞬動きを止める。
その一瞬でトウヤは攻撃を仕掛ける。
「要!トランスフォーム!!音速の爆発剣!!」
クルルを囲んでいた天使4体の弱点、それぞれ2カ所づつ切ると、
切り口で大きな爆発が起こる。
「早っ!」
クルルでも動いた影が見えた程度、凄まじい速さでトウヤは切っていた。
だが……
天使は体制を崩した程度であまり効果が無さそうだ。
「弱点を切ってこれか……」
スプニール達が手間取っている理由がよくわかると同時に、
リヤナの能力は段違いに強力なのだと理解した。
「相手も弱点を理解しているようで、ちゃんと対策している。
何度も打ち込むか、もっと強力な一撃じゃないと倒せないわ」
「了解!」
トウヤはもっと強力なのに切り替える。
「要!トランスフォーム!!黄泉津大神!!」
トウヤのデバイスがバチバチと電気を発している。
そして……
雷が黒色に変色する。
「「!?」」
その光景にクルルとスプニール、そしてリヤナは目を疑った。
(黒い……雷!?)
黒い雷が使えないはずの人間が今使おうとしている。
「黒電」
構えたトウヤは呟くように言う。
「一閃!」
一瞬光った。そう思ったら天使達がボロボロと崩れ落ちている。
(攻撃……したの?)
目の異能の性質として、かなり目敏く動きを見切れるが、
スプニールは動いたことすら気づけずにいた。
(この子……まさか!?)
「トウヤ君!今の雷、何処で手に入れたの!?」
クルルも同じことを思ったようだ。
そう、今のはまるで――
「創ったんだよ」
「え!?」
「だから、俺の能力で創ったんだよ」
クルルとスプニールは訳が分からないという顔をしている。
「同じ雷でも色によって特定の能力を強化してるんだよ。
黄色が痺れ、紫は斬撃って感じでね。今の黒は毒の性質を持つ雷だよ」
そういえばトウヤは“創造する神”、創る力を持つ魔導士だ。
つまり見た目だけなら何でも創れる。それがどんなに危険なものでも。
「ヤバかった?」
「い、いや、すごく危険な魔法だから気を付けてね」
「あ、ああ……」
クルルとスプニールが連想したものとは別物のようだ。
いや、まがいなりにも似たものを創れるというのは脅威だろう。
クルルとスプニールはトウヤの底知れなさに恐れを感じた。
毒の性質を持つ雷は天使の再生力を相殺し、弱点を破壊することで簡単に倒すことが出来た。
いや、スプニールの“弱点看破の毒”とトウヤの雷という組み合わせ。
一人で天使を圧倒するリヤナの“不侵の毒”。
そしてミイナの相手に合わせた能力変化。
これら例外的存在が合わさっての簡単さである。
(これが平時でも出来たなら……)
貴族も一般人も隔たり無く協力し合えば、脅威と思われてえるものも簡単に打ち消せる。
クルルはそう思わずにはいられなかった。
「うにゃあ!解けたにゃ!!」
頃合いを見計らったようにリンシェンから嬉しい知らせが届く。
こっちもこっちで優秀だ。言葉遣いは変だけど。
そして一人でリンシェンやセキュリティを守り切ったリリスも賞賛出来る。
「これで天使の討伐は片付いたかな?」
トウヤが周囲を確認する。
「……まだ警戒して」
「これで終わりとは限らないでしょ?」
スプニールとリヤナが注意する。心なしか、言い方が優しい?
スプニールは元から敵意は無いが、リヤナは見下した物言いから、
友人と話すような柔らかい物言いに変わっていた気がする。
それはトウヤだから?
トウヤとリヤナの間に何があったかはわからないが……
(トウヤ君って意外と人たらしなのかな?)
クルルの中でトウヤの評価は爆上がり中だ。
帰るのも面倒だし、天使がまた来るかもしれないということで、
貴族達も事の顛末を見届けていた。
「うにゃ、やっぱり消されてるにゃ」
局の急襲は相手も理解しているはず。
なら大切なデータを何処かに移行し、痕跡を消すのは当然のやり口。
「これだけやって収穫無しとか、とんだ笑いものね」
リヤナの言い分は尤もだ。
これだけ大掛かりな作戦を実行しての結果、笑い話もいいところだ。
「にゅっふっふっ、ここはおいらの出番にゃ」
怪しく笑うリンシェンは、いい事思いついた時の顔だ。
「ま……まさか、復元出来たりしないよな?」
同じ科学の知識に強いトウヤはやることを察した。
「にゅっふっふっ、ある程度時間を貰うにゃ」
容易い話らしい。
そして全員が理解した。
(こいつに個人データを知られたら終わりだ)
たぶんハッキングもお手の物だろう。
セキュリティを突破出来たからこそ、今この状況だ。
そして得た情報を悪意ある形で使われたら成す術がない。
(こいつを敵に回したくない)
全員が同じ認識をした。
「とりあえず今はリンシェンに任せて、他にやれることと言うと……脱出経路の確保?
いや、マリアがいるから考える必要が無いか。なら他の救援?」
「いいえ、ここを手薄にするわけにはいかないわ」
クルルが訂正する。
「待機……これが最善」
スプニールはもうウトウトしている。
「ええ、また襲われてもいいように今は回復に勤しむのがいいわ」
「そうか……ならそうしよう」
トウヤは少し不満気だ。
「ふふっ、けっこう働き者なのね」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
他の人達が苦労している最中に、自分は楽してと言うのが気が引けていた