外伝:目覚めの時
少年は震えていた。
季節は冬。雪こそ降っていないが降ってもおかしくない夜である。
そんな中、少年は短パンとジャンパーといういかにも子供らしい格好でで屋外にいる。
周りの家の灯りも消えみな寝静まるなか、少年は外で震えていた。
家は目の前。しかし入ることは出来ない。
少年は母親と約束した帰宅時間を一秒遅れてしまったため閉め出されてしまった。
少年が泣いて謝ろうとも何も変わらなかった。
途中父親が帰宅し、父親はこの状況を目撃したが事態は変わらない。
それからどれくらいの時間が経っただろう?
家のリビングの小窓から部屋を覗き見て、たまたま日付が変わったことを知った。
それがどれくらい前だろう。
もう起きているのも限界だ。
家を区切る塀の隅、L字になっているところに、
庭にある大きな植木鉢で風避けを作り蹲る。
ここで寝よう。
明日の朝になったらどうしようか?
家を出るか?
まだ両手の指で数えられるほどの年齢の子供が、家を出て生きていけるだろうか?
子供だけは無理だろう。誰か知らない大人に助けを求めるか?
いや、そんなことしたら家に戻され今と同じ目に合うだろう。
子供とはいえその程度の知識はある。出て行っても戻される。
たとえ大人に見つからなくても生きていくことは出来ない。
家を出て行ってもすぐに死んでしまうだろう。
家に残るか?
仕事ばかりで家庭に無関心の父親と、殴る蹴るは当たり前で、妹ばかり可愛がる母親。
この両親のもとで生きていけるか?
そういえば、先日学校のテストで99点をとった時は包丁を突き付けられたっけ?
いつかその包丁が自分に刺さるかもしれない。
家に残ってもすぐに死んでしまうだろう。
どちらを選んでも死ぬ。
そのことを知った時、少年は死に対して強い恐怖を覚え、そして悲しみを覚えた。
自分は親との約束を守れなかった。親の思いに応えられなかった。
母親の言う勉強していい大学に入り、いい会社に入れるような人間になれなかった。
だから殴られる。だから蹴られる。だから無視される。
だから生きてちゃいけないんだ。
もっと生きたかった。死にたくない。怖い。
ザッ!
庭に敷き詰められた砂利を踏む音で現実に戻る。
足音?
ザッザッ!
砂利を踏む音は近づいていた。
誰?と思った瞬間ひとりの顔が浮かんだ。
母親だ!
そう思った瞬間、一気に恐怖は押し寄せてきた。
殺される!
殺される!死にたくない!
頭の中がパニックになり、体が恐怖に震え動けなくなる。
ザッザッ!
足音が近くまで来た瞬間、何かが弾けた。
そしてあたりを白い光が包み消えていった。