相手の目的は?
状況からして生存は絶望的。
全てを聞かなくても全員が同じことを思っていた。
「なーんだ、あのチビ死んじゃったんだ。なっさけなーい」
重い空気の中、最初に口を開いたクラリスの言葉にステラは怒りを覚え、胸倉を掴んだ。
「何?」
「お前は――」
「いつか円卓から死者が出るのは始めからわかってたことじゃない。
そぉれぇとぉもぉ~、ステラちゃんは覚悟してなかったんですかぁ~?」
ステラ達には目的がある。
そのために円卓に仲間を集めたし、
犠牲者が出るかもしれないことは仲間内で覚悟していたことだ。
しかし、いざその場面が来ると、覚悟以上のことに襲われていった。
こういう時はクラリスの冷徹な性格は羨ましい。
ステラは無理矢理切り替えて、ミナに問う。
「クエストは継続出来そうか?」
「……すみません……」
魔力的には問題ないだろう。だが案の定、精神面は既にボロボロなようだ。
「ならば局に帰還。戦闘の報告は出来る限りでいい」
「あ……ありがとう……ございます」
ミナの声も震え出した。
張りつめていた緊張の糸が切れたようだ。
「サポーター、回収してやれ」
ステラは局側に指示すると念話を切った。
「ソニアの力は本物だ。各自警戒は怠るな」
後輩が一緒にいたとはいえ、それが足を引くほどではない。
やはりそれなりの兵器がここで作られているようだ。
ステラ達は各々警戒しながら奥へ進んだ。
「ミイナはこっちにいるみたいね」
クラリスはworksの気配を感じることが出来るため、自然と案内していた。
「ああ」
クラリスはステラの返事に苛立ちを覚えた。
ふとステラ目の前にナイフが現れた。
「!?」
咄嗟に避けることが出来た。そしてナイフを出した本人に掴みかかる。
「お前!」
「良かったわねぇ~今のが敵の攻撃じゃなくて」
クエストの最中なのに心ここに有らずな状態だったステラに非はある。
「だから言ったじゃない。私が人形で埋めてあげるって」
クラリスは円卓のメンバーを自分の支配下の人形、
つまりホムンクルス達で集めるつもりだった。
しかしステラはそれに反対し、自身がスカウトした面々で埋めた。
「ステラちゃんは優しすぎるのよ」
「……」
「少しじゃなくて全部人間で出来てそうね」
「お前……」
妙な物言いだが、慰めている様にも聞こえる。
ショックは大きい。だがクエストには集中出来そうだ。
「そ・れ・よ・り・も」
人の感情をそれよりもと言うのが気に障るが、こいつはそういうやつだと割り切る。
「肝心な天使が出てないのは気になるわね」
「確かに。温存しているのか、それとも……」
状況からして温存している理由がわからない。
もしどこかに現れているのなら、戦闘中か報告が出来ない状況か。
「仮にトウヤ君のところにいるなら、七剣徒が相手しているだろうな」
「天使の強さはわからないけど、七剣徒の力は本物よ。
ただ、それなりの弱点が存在するから、それにどう対応しているかが気になるわね」
「ほう、弱点があるのか」
「ええ。どんな力でも欠点はあるのものよ」
大きな力を得るためには何か代償を支払わなければならない。
クラリスらしい考え方があるからこそ、弱点に気づけたのだろうか?
「桃姫の君は仕事熱心だから問題無いと思うけど、
君影の君は異能に自信を持っている生意気な小娘だから、
弱点をそのままにして窮地に陥っていたら面白いわね」
クラリスはクスクスと笑っているが、ステラは笑えない。
クラリスの的確な観察眼と判断能力は信頼出来るので、
笑い話ではなく、実際に起こっていそうな気かしていた。
ミナや他の面々の報告も加わり被害と地下基地の全貌が見え始める。
ここは千人近くの人間を抱える大規模研究施設だ。
と言っても研究者は半分に満たない。
大半はこの国の人間、つまり実験の被験者だ。
そして大量の機械的な兵器を作り出すロボット類や、
何処かに兵器を持ち出していたのだろう痕跡がある。
敵側の武器生産の拠点にもなっていたようだ。
そしてここの責任者と呼ばれていたのがゴラースミと呼ばれた博士。
アローニャの知る人物から手配中のS級指名手配犯と一致した。
ゴラースミ・ブルヘアン、過去に人体を使った非人道的実験や、
墓荒らしを中心に犯罪を重ねた男だ。
魔法使いとしてランクは高くないが、魔法的知識、科学的知識が非常に高く、
その手の分野では天才とまで呼ばれた、行動で危険視されているタイプだ。
そのゴラースミを中心に集められた研究チームも非常に優秀なようで、
さまざまな生体兵器を開発、運用までもっていっている。
その結果、今回クエストに参加した手練れ魔導士を返り討ちしている。
また規模からゴラースミ一人で全体を仕切るのは現実的でないため、
似た存在が数人配下にいると推察されるが、そこは既に痕跡を消されたようだ。
「少し被害が大きい気がする」
情報を見ながら探索していたポーラは不信感を呟いた。
「生体兵器がそれだけ強力ということじゃないのか?」
ファイゼンは素直な答えで問う。
「だとすると一方的すぎる。先行組は皆手練ればかり、
持ちこたえたり、上手く逃げることも出来るはずよ」
被害は広く散っていて、あまり長くない時間で起こっている。
強さはどのチームもポーラ達に近いはず。
それでも広範囲に被害が出ているということは……
「つまり危険なのがまだゴロゴロいるってことか?」
リーシャが確認する。
「複数ならそうね」
「複数ならって、そうじゃなかったらまさか……」
ティアは恐ろしいことを想像してしまう。
「出会ったら私達でも即死レベルだと思う」
ポーラの予想に全員が最悪の結末を想像してしまった。
「止めてくれよ~ついさっき詰みかけたんだから~」
ファイゼンはおどけたように言うが、内容は冗談じゃない。
SS、Sランクが揃っても時間稼ぎしか出来なかった結果は、
今回の相手の脅威をそのまま示している。
S+やそれ以上の相手を討ち取ろうとしている可能性もある。
「まさか、私達全員が実験体?」
今後、敵対する相手と対峙する前に局の魔導士で実験している。
その結果どう改善したら良いかの判断材料になる。
そうまでして対峙する相手とは?
「七剣徒?いや、それ以上?」
ポーラは考えをブツブツ言い始めた。
「おい、俺達にもわかるよう話してくれ」
ファイゼンに声を掛けられ、ポーラは考えを話す。
「今回、七剣徒を戦場に引きずり出すのが目的かもしれない。
だから、ここにいる連中を逃がしたらダメな気がするの」
ここで逃がしたら後々厄介なことが起こる。そんな予感がした。