人魚2
ドン!!
大きな爆発と共にソニア達は大きく飛ばされ、壁に叩きつけられる。
厄介、そう言っても過言ではない相手に苦戦していた。
「あぐっ……!!」
肌がヒリヒリと痛む。
そして乾燥で目も渇き、開けづらくなってきた。
「ゲホッ!……ケホッ!」
咳き込むルーは乾燥に喉がやられてしまったようだ。
(急がないと、次が来る!)
痛む体を無理矢理動かそうとするが、思うように動かない。
爆発した場所から水煙の塊が迫ってくる。
(急げ!)
手を伸ばすのがまだ動けない。
すると、ふと何かに手を引かれ動き出した。
(アグリッター!)
ソニア達とは別に飛ばされたようで、彼女は動けたようだ。
ミナはソニアとルーを担ぎ飛んで逃げることで、水煙からの強襲は逃れられた。
相手の人魚の特徴は水の形態変化を繰り返すことだ。
気体となった水を周囲から奪い液体を生成。
そして急激に加熱することで蒸気を作り膨張させる。
その後蒸気が溜まると爆発を起こし、周囲を破壊。
そして蒸気という気体になった水を、また周囲から奪い液体を生成する。
爆発と乾燥という二重の攻めと、生物に必要な水を奪う性質に苦戦を強いられている。
さらに巨大な体は蒸気爆発でも液体部分を残しており、
水を奪わなくても数発は撃てるという鬼仕様である。
兵器の仕組みはわかった。でもそれに対応するだけの戦力がここに無い。
「ここでは戦力が足りない!来た道を戻って応援要請するのよ!」
ソニアは念話で指示をする。
ミナもルーも頷ぎ指示に従う。
だが……
人魚の大きな体が退路を塞いでいた。
どうにかして体を動かして退路に向かわねば。
いや、他の退路を探すべきか?
周りを確認したが、つくづく変わった空間である。
高く、深い筒状の空間で、まるで何か大きな建物を収納するような巨大空間だ。
人魚も推定数十mと巨大だが、同じのが数十体は縦に並べそうだ。
それに通路用の階段と思われる場所に極端に扉が少ない。
それは元々通路として活用していない、または扉があると不都合である場所と言える。
逃げるなら上、確実に地上に近づけるだろう。
ただ外へ出られるかはわからない。
なら下か?だがこちらも何があるかわからない。
やはり人魚の不意をついて来た道を戻る方が安全だ。
「上へ逃げるわよ!逃げながら作戦を話すわ」
ソニアは二人に指示をだす。
逃げると言っても全力では逃げない。
上へおびき寄せ、退路から離れたところで不意を突いて来た道へ逃げる。
それが今出来る最善の策だった。
三人の戦闘結果から人魚の性質を仮定。そして弱点らしき欠点がわかった。
これで不意を突くくらいの勝機が見えてきた。
退路からも十分離れてくれた。
後は人魚の攻撃をやり過ごし逃れるだけだ。
作戦開始と共にソニアが氷を作り出す。
だが人魚も何かを察してたのか、初手からいつでも爆発出来る状態だった。
「察しがいいとか兵器のくせに生意気よ!ルーちゃん、ミナちゃん、お願い!」
ミナの“爆滅浄化”とルーの“弾む弾幕砲”が放たれる。
人魚の爆発は蒸気を溜めることから、風船と同じような性質だと仮定した。
蒸気を逃がせば爆発を遅らせることが出来る、もしかしたら爆発しない、
または小規模の爆破に抑えることが出来るかもしれないと考えた。
そのため、二人の砲撃で穴を開けてもらったが、どうやら当たりのようだ。
金切声のような叫びが響くが、爆発はしないで小さくなっているように見える。
今が攻め時だ。
「凍てつけ!“フリーレン・キス”」
今度はしっかり魔力を込め、大きく作った氷の礫を放った。
動きがあまり早くないのも欠点と言えよう。
砲撃が簡単に命中してくれた。
今度は初めと違い魔力を込めているので沸騰よりも先に凍結が勝ったようだ。
「――――!!」
鼓膜が破れそうなほど大きな叫びをあげた人魚は、突進してくる。
やはり動きは速くないので簡単に避ける。
「今よ!急いで来た道まで降りるのよ!」
上までおびき寄せたので脱出通路まで十分距離がある。
あの速さなら十分逃げきれるし、通路内まで追われても余裕がありそうだ。
人魚の凍っていない体部分から水が触手のように伸びるが、
魔法が使えれば大したことない。
ルーもミナもソニアも触手を破壊しながら降っていく。
ふと何か風のようなものが吹いた。
「え!?魔法が!?」
「AMZ!?」
突然、AMZにより魔法を打ち消された。
空中でコントロールを失った三人は真っ逆さまに落ちていく。
だがソニアの最初の助言通り階段の近くを飛んでいたため、すぐに手すりを掴んだ。
「あぐっ!」
魔法も無く、生身で落ちている最中に手すりを掴み止まる。
三人は助かったが、それは強い体の痛みとの引き換えだった。
「今AMZを使ったらあの兵器まで――!!」
崩れる人魚を見てソニアは真の狙いを理解した。
「急いで通路に逃げて!!」
人魚は魔法の制御を失ったことでただの水の塊と化した。
そしてその水の塊は重力に逆らえずそのまま落ちてくる。
水は見た目以上に重く密集している。
推定数十mの巨体を構成していた人魚の水量は滝のように流れ、
足場となっていた階段を押しつぶしながら落ちてくる。
魔法が使えない魔導士が巻き込まれたら……
三人は大急ぎで階段を降ったが、先に階段が限界に達した。
バキバキと音を立てながら全体が壁から離れるように歪んでいく。
「もうすぐだ!」
一足先にミナが通路へ到達する。
だがそれと同時に通路前の階段が崩れ、離れ始める。
「あっ!」
その歪みにバランスを崩したルーが手すりに寄りかかるように倒れる。
「ルー!掴まれ!」
咄嗟に手を伸ばすミナ。
ルーも手を伸ばすがわずかに届かなかった。
ふとルーの手が引っ張られ体が浮く。
「もう、世話が焼けるわね」
ソニアがルーの手を引き、階段から通路へ飛び移ろうとしていた。
「ソニア――」
「まかせた!」
「「え!?」」
ソニアは飛ばずにルーを投げた。
「――!?」
投げられたルーは助けようと身を乗り出したミナを押し込むように通路へ飛んだ。
そして二人が通路に入ると同時に大量の水と階段の瓦礫が落ちていく。