水の生体兵器
ポーラ達と合流したティアはアルフォートの死、そしてその遺体を使った魔法の話をした。
「アルフォートさん……」
元上司が生きている可能性が1%でもあるならそちらを願っていたが、
ティアの話はその望みも完全に打ち砕いた。
「セレスとアローニャさん……大丈夫かな?加勢した方が――」
「ばかやろう!任せてくれくれと言われただろうが!
それにうちらが尊敬する人がそんなんで――」
「ストップ!」
不安を口にしたティアを叱咤するようにリーシャが反論したが、
それすらもポーラは止めた。
「どっちの言い分も正しいが、今はそれをやるべきじゃねぇ。
俺達は俺達にしか出来ない仕事をキッチリやるべきだ」
「ファイゼンの言う通り、私達は天使の対処を……
いや、今の話を聞いてやるべきことが変わったわ」
全員がポーラの判断を聞く。
「そのゴラースミという人を捕まえるのよ」
「!!」
意外な答えだった。
「そのゴラースミって人が天使を作る中心人物、
つまりどのような魔法を使って作ってるかわかってるはずよ」
「なるほど、そうすると解除方法が分かってあの人も助かるかもしれないのか」
「ついでにアルフォートさんにかかってる魔法も解けるな」
「うん、仕組みは近そうだから一緒に出来るかもしれないね」
死体を使った魔法であるので生きている可能性は全員捨てた。
だが、ちゃんと埋葬し弔いたいというのが全員の本音。
ならば兵器状態を解き、弔えるようにするのが最優先。
さらに解くことが出来れば死闘を繰り広げている二人の助けになる。
そう理解した一行はまた主犯格を探し始める。
探索を続けていると物陰に誰かいることに気がついた。
手で他のメンバーに警戒の合図を送る。
警戒しながら進み、姿を確認すると、局の魔導士であることがわかった。
確か主力メンバーの一人で五人でチームを組んでいるリーダー格の人だ。
「よかった、大丈夫ですか?」
ポーラは警戒を解き、話しかける。
他の面々も見知った顔に安堵した。
だが俯き座っていて返事が無い。
(聞こえなかったか?)
もう一度、声をかける。
「エルメント・ジュエル、ポーラ・テ――!?」
近づいた瞬間、水の塊が飛んできたが、間一髪避けることが出来た。
「なんだ、こいつは!?」
座っていた人からプクプクと水が溢れ出る。
「まさか、死んでるのか!?」
水が出ていくと同時に、座っている人の体が干物のようになっていく。
その人は確かSランクだったはず。そんな人が既に殺されている。
他のメンバーの生存も絶望的だろう。
水の生体兵器。目の前に浮かぶ水の塊を見て全員構えた。
だが生体兵器は一体だけではなかった。
後ろからプクプクと現れる。
「何体いるの?」
見た感じ十は超えている。
「まずいな」
ここは通路。戦闘には狭すぎる。
そして相手は水分を奪い取る。つまり触れてはいけないと思われる。
「撤退!」
ポーラの声に合わせて全員が即座に逃げた。
そしてそれを追うように水の生体兵器が追ってくる。
「ポーラ!前へ!」
ファイゼンが最後尾を代わり、魔法を使う。
「へへっ、要塞の金属に感謝しないとな」
鉄の生成が得意なファイゼンは壁の金属を操作して通路を塞ぐ。
この戦場はファイゼンにとっては都合がいい。
全員が大丈夫だと安堵する。
だが……
ジュウ!
みるみるうちに鉄が溶け始める。
「まさか……強酸性!?」
穴が開いた鉄の壁から水の生体兵器が出てくる。
「あ、あんなのヤバすぎだろ!」
再び逃げるしかなくなる。
「水なら雷の砲撃で!」
今度は属性で有利なポーラが砲撃を放つ。
だが……
「効果が……ない!?」
水は電気をよく通すが、水自体を破壊することは出来ていない。
「あれ、兵器だよな?どうやって動いてるの?」
確かにそうだ。
兵器であればそれを動かす核があるはずだ。
しかしポーラの雷を受けても影響が無いように見える。
目に見えない何かがあるのかと、魔法で目を凝らすが何も無いように見える。
「リーシャ!あれってアークで見たやつと一緒じゃない!?」
「ああ!人が動かしてるかもしれないな!」
つまり司令塔となる人がどこかに潜んでいて、目の前に見える塊を操作している。
だとしても、通路はかなり分が悪い。
「なら、これならどうだ!」
ファイゼンは大きな壁を作り水の生体兵器を押しつぶす。
「多少壁は溶けるが、押しつぶしてしまえは操作出来ないだろ」
水の操作は塊単位。つまり弾けた水滴は操作対象外になるのが欠点だ。
さっきの壁よりも長い時間、様子を見守ったが出てくる気配が無い。
倒したと思ったが……
シュー
水が霧状になり鉄を溶かして現れた。
「霧とかありかよ!」
「たぶん範囲での操作だ!」
前に水の塊を霧に変えて操作していたやつがいた。
そのやり方に近いのだろう。
さらに霧の塊と水の塊が増えて漂っている。
「範囲なら物理的に切ってしまえば!」
ファイゼンは鉄の刃を作り塊を切断。
範囲であれば操作対象外の物で断ち切れば、一部分を削ることが出来る。
だが漂う数がだけで減る様子が無い。
むしろ別々の方向に漂い始めた。
「まさか……分裂じゃないよな?」
信じたくない光景に顔が引きつる。
「そのまさかだよ!」
個数を増やした水の生体兵器はまたファイゼン達に向かっていく。
「退け!」
また全員で逃げる。
「部屋は!?」
「広い場所が無い!」
「くっ!ならここで迎え撃つか?」
「迎え撃つにしても場所が狭すぎる!霧状になるなら広い空間がいい!
最悪入り口まで戻るしかないわ!」
だが入り口はあくまで最後の手段。
上位ランクを倒した兵器を、入り口でまだ戦ってる可能性のある
下位ランクにどうこうするのは難しい。
むしろ下位ランクに大量の犠牲者を出してしまう。
かと言って何処に戦闘が出来るほど広い部屋があるかわからない。
時間を稼いで探すしかない。
「ポーラ!俺が時間を稼ぐ!早く探せ!!」
ファイゼンがまた魔法で壁を作る。
今わかっているのは強酸性でも鉄の壁を溶かすのに、わずかな時間がかかることだ。
つまりファイゼンの壁を何重にもすることでわずかに時間が稼げる。
「――っ!!」
ファイゼンが必死に作った時間、無駄に出来ない。
「リーシャとティアは片っ端から探して!」
リーシャ、ティアで扉という扉を全て壊し部屋を確認する。
(急げ!急げ急げ!!)
このままでは全滅してしまう。
焦る気持ちを抑えながら、ポーラは連絡した。