セキュリティを突破せよ
ギン!
槍で壁を削ると、隠れていた保護魔法が消えていく。
「うにゃ~、探す必要が無いにゃんて便利にゃ~」
ほぼスプニールだけで事足りていることにリンシェンは喜んでいる。
“弱点看破の毒”でのみ確認出来た保護魔法の網を順に破壊していく。
「なんかすみません、任せっぱなしになってしまって……」
「仕事は……効率的な方がいい……」
効率を目指すなら上級貴族は協力的になるべきでは?
と思ったが、これは言わないでおこう。
まあ、スプニールみたいな存在自体が稀なんだろう。
「ここが集中している……」
ある部屋にて、ようやく目的の場所に到着したようだ。
「ここに天使のデータがあるかもしれないのか」
「ええ、ただ……」
スプニールが言い淀む。
「ただ?」
「かなり複雑に作られていて……私の力でも弱点が見えづらい……」
ここにきて困ったことになった。
今まではスプニール一人で十分だったが、ここで手出ししづらくなった。
「桃姫の君にしか見えないから俺達は手伝えないし……」
「魔法なら私が石にすれば……」
「そしたら開けられなくなるだろうな」
セキュリティを無理に破壊すれば全てが無になる。
それくらいはしていると思った方がいい。
そうなると順に弱点を突いて破壊するしか無いが……
「にゃあ、トウヤの魔法で目にょ情報を共有出来にゃいか?」
「あ、そうか、その手があった」
最近使う魔法を限定していたので忘れていたが、
トウヤの魔法は“創造する神”、つまり創る力。
スプニールが見たものを見たいなら、それを共有する魔法を創ればいい。
何でも出来るのはありがたいが、ありすぎて覚えきれないのが現状だ。
「すみません、桃姫の君。目で見たものを共有させてください」
顔が微妙な感じに歪んでいる。
「……きょ、局でも同じような魔法があるから……許すわ」
本心は嫌だが、仕事を全うするにはこれが良いと判断している。
実際、魔導士の目とリンクさせて目で見たものを記録する魔法は存在する。
局はそれを使い戦闘の記録を残している。
と言ってもこれはギルドに所属する魔導士のみで上級貴族は対象外である。
創るのはそのスプニール、トウヤ達版と考えればいい。
「……セット……」
トウヤがスプニールの目に手を近づけて何かを唱える。
「これでどうでしょうか?」
既に存在する魔法を真似するだけなので簡単だった。
目を閉じ、再度開くとさっきまで見えなかった光景が飛び込んできた。
そして映像から写真のように切り抜き、見えたセキュリティを確認する。
だが見てみてよくわかる。複雑で何が何だかさっぱりわからない。
「これは……ソニアさんにお願いしたいな……」
切れ者で知られる彼女なら解けるかもしれない。
「お手上げね……」
スプーニルは無理だと判断、リリスの顔を見るがやはり首を横に振るだけだ。
「うにゃ?これ……」
リンシェンが何かを見つけた。
「どうした?」
「この文字、数字に変えられるんじゃにゃいか?」
よく見ると列が増える度に文字が徐々に増えている。
「……!?SEND MORE MONEYと一緒か!」
トウヤも何かに気づいた。
「センド……何それ?」
リリスが訳が分からないと聞く。
「SEND MORE MONEY、
地球で見た本にあった暗号みたいなものさ」
「どういうこと?」
スプニールも問う。
「文字で書くとこうなっていて、それぞれの文字に数字が当てはまるんですよ」
トウヤは空中に文字を書くと線が描かれる。
「地球ではこれでセンドモアマネーと読むんですが、
SENDとMOREを足すとMONEYになるように数字を入れるんですよ」
「これが数字に?」
リリスは不思議そうだ。
「それぞれの文字が0~9を表してるんだから……」
「Mは1ね」
スプニールはもう解き方が分かったようだ。
「はい。一桁の数字を合計した時の最大は9+9の18、
つまり桁が増えた場合、その値は最大でも1なのでMは1となる」
リリスにも解りやすく説明する。
「そうするとMOREのMも1だから……」
「桁を増やすには9だけだからSが9になる」
「半分正解」
正解の自信があったリリスは驚いた。
「隣のEとOの合計で1がくる可能性があるから8か9が正解ね」
「はい、その通りです」
計算に慣れているスプニールはちゃんと可能性を考慮している。
リリスも計算を知ってまだ日が浅いのにある程度使いこなせてるあたり、
恐ろしい早さで学習しているのも凄いと思うが。
「まあ、答えを言うとSは9なんだけどね……」
意地悪なやり方にリリスは頬を膨らませトウヤを叩く。
「と、とりあえず計算を進めていくと、SENDは9567、
MOREは1085、MONEYは10652となる。
これで数字を文字にして表しているんだ」
「これはそれに複数の言葉を混ぜて作られた暗号にゃ。
だから時間があればおいらでも……」
リンシェンが幾つかのボタンを押すと最初のセキュリティが解かれた。
「よし!」
喜びもつかの間、リンシェンは次を解き始める。
「時間かかりそうか?」
「あとどれだけ続くかも、これで解き続けられるかもわからないにゃ」
確かに解読パターンが一つだと突破難易度が下がりセキュリティの意味が無い。
ふとスプニールの視線が鋭くなった。
「何か……来た」
何かを察知したようで警戒している。
サポーターに連絡しようとしたが、今回のクエストは大人数が参加しており、
低ランクもいることからそちらに集中していて頼れないことを思い出した。
「リンシェンはそのまま解析を、リリスはセキュリティに触れないようリンシェンを護衛。
相手は俺が対処します。桃姫の君は天使のみの予定でお願いします」
スプーニルは構えは解かないが頷いた。
相手は天使なら戦闘、そうでないなら動かないということだ。
まあ、仲間の可能性もあるがな。
始めは離れていた気配も、部屋の外に近づいている。
ドン!
叩いて壊すつもりだろう。乱暴なやり方だ。
ドン!
また叩いている。意外と頑丈な扉のようだ。
ボン!
大きな爆発と共に扉が壊れる。
そしてその姿を見せる。
「――天使!!」
そこには複数の天使がいた。