突入作戦
作戦はこうだ。
まず少数で王宮内に潜入し王の間へ。
そこから隠し通路を進み敵陣へ突入する。
前情報から王宮内の魔法陣は被験者の魔法を管理するもの。
つまり突入者には影響が無い。
王の間は昔は護衛がいたが今はいないようだ。
なので隠し通路までは素早く行けるだろう。
ちなみに王は毎日引きこもっているので出会う確率は低い予想。
出会っても戦力と数えられない存在なので影響は無いだろう。
問題は隠し通路だ。
そこから先は情報が無く、その先で敵が待っている可能性が高い。
潜入組は危険が高いが、そこはポーラ達が引き受けた。
というより王宮内の情報を持つマリアと連絡が取れるトウヤが適任。
そして戦力としても申し分ないポーラ達が同行すれば問題ないだろう。
そして敵が待ち構えた場所に空間転移で下位ランク組をぶつける。
下位ランク組、つまり今回のクエストに参加するには実力不足だが、
アルフォートの弔い合戦に参加したい有志の集まりだ。
下位ランク組は周囲の一般兵を抑えてもらう。
この先、強力な敵が待っている中、後ろを気にせずにいたい。
力不足だが一方的に負けないよう個人ランクが高い魔導士もいる。
またある程度数でも押せるようにしている。
さらに通常なら参加出来ないが、特別に参加出来るのでやる気に満ちている。
確証は無いが、通常以上の力を発揮してくれると期待出来る。
ポーラ達も大物を中心に狩ってから奥へ進むので問題ないと予想。
そして肝心なのはここからだ。
トウヤにはいち早く奥へ進んでもらい、この研究の主を探してもらう。
途中、幾つかの邪魔が入る且つその邪魔はかなり強力な存在になる。
ここからは上位ランク組みの仕事だ。
トウヤが探し物に集中出来るよう、抑えなければならない。
どれくらいあるか不明だが、その中に確実に天使や同等の生物兵器が存在する。
最も脅威となる存在を抑えるため、上級貴族もここに参加してもらう。
「となるとリンシェンは俺と一緒に、見張りと護衛をリリスって感じでいい?」
「ええ、問題ないわ。あとソニアさんも向かえるように手配するわ」
情報通のソニアなら目的の探し物も見つけやすいだろう。
ただソニアは戦闘面でも優秀なため、戦力として数えたい。
極力呼ばないことが被害を抑えることにもつながるだろう。
そして……
「……あなたの護衛はついでに引き受けて構わない……安心して……」
なぜか桃姫の君、スプニールがトウヤと一緒にいる。
「も、桃姫の君、そんなに見られると緊張するんですが……」
「……気にしないで……」
「無理です。せめて理由だけでも教えてください」
半裸の女性に理由もなく見つめられるのは非常に困る。
ポーラ達もまるで腫れ物に触るような感じだ。
「理由?……あなたが気になるの」
「!?」
非常に誤解されるような言い方だ。
「き、気になるって……なぜ?」
まだ初対面で会って以来である。気になる理由がわからない。
「ある人に似てる……ただそれだけよ」
「ある人?」
「それ以上は……言えない」
すっきりしないが一応、変な誤解は無いようだ。
「で、では、頼りにさせていただきます」
「ん……」
異質ではあるが、君影の君ほど害のある行為はしない。
興味がある無いで行動しているだけと思いたい。
「じゃ、じゃあトウヤは潜入の作戦をお願いね。
あと転移のポイント作成も手早く出来るようにね」
ポーラ達は要件を伝えるとそそくさと退出した。
(逃げたな……)
桃姫の君がいるので早く退出したかったようだ。
「あの~桃姫の君、質問してもよろしいでしょうか?」
「……内容による」
「桃姫の君の異能について教えていただけませんか?」
「どういう……こと?」
一瞬、空気がピリついた。
感情に乏しい桃姫の君も、さすがに怒る話だ。
異能を教えることは手の内を晒すことになる。
つまり命を狙われても、対処されて無防備になることになる。
もちろんそう簡単に狙われないようにしているが、
異能を聞くことはあまり好ましいことではない。
そこはトウヤも理解している。
「無礼を承知でお願いします。今回、天使討伐と同時にお願いすることになります。
討伐を頼ったり、俺達の護衛に頼ったりと、あちらこちらで呼ばれると困るはずです。
ですので桃姫の君の力を理解することで、余計な手間をかけさせないようにしたいのです」
苦労を掛けさせないための目的だと理解すると、スプニールはいつも通りに戻った。
「そう……悪くない心掛け……」
ふと笑ったように見えたが、見間違えだろうか?
「正直者……喜ばれる……」
誰に?と思ったがここは流しておく。
「私の異能は“弱点看破の毒”……脆弱な場所を見抜く力……」
「脆弱な場所?それは物や生き物のということですか?」
「……?ええ、魔法にも有効よ」
「にゃは!?」
トウヤとスプニールの会話を聞いていたリンシェンが何かひらめいた。
「にゅっふっふっ、もしかしたら使えるにゃ」
怪しい笑みは何か企みがありそうだ。
だが今回はトウヤと同じことを考えたのかもしれない。
「いや待てリンシェン、確証が無いんだぞ?」
「やってみてにょお楽しみ、実験はいつもトライアンドエラーにゃ」
「そうだけど……」
二人だけで話が進むことに苛立ちを覚えたリリスが立ち入る。
「どういうことか解るように教えて」
「ああ、これはこのチーム全員に話さないといけないし」
「おいら達は手がかりを探すだけで済みそうにゃ」
「桃姫の君にも詳しくお話しします」
「……ええ」
なぜかスプニールが指示に従う形になってしまったが、
己のプライドよりも実務実績を大切にする方なので大人しく従った。
「研究者っていうにょは大量にょデータを大切に扱うにゃ、どうしてだと思う?」
リンシェンがリリスに問いかける。
「え?……壊れると困るから?」
「壊れたら直せばいいにゃ」
「え?あ、そう……」
リリスは研究者じゃないので気持ちは理解出来ない。
「……同じように直せるの?」
「そうにゃ!」
ポツリと言ったスプニールの言葉をリンシェンは聞き逃さなかった。
「データは条件が変われば変化する。実験で得られたデータなら尚更、
条件を気にしなければならない。全く同じ条件にするのは難しいからね。
だから得られたデータは常に厳重に保管しているはずだよ」
「なるほど……」
似たものを扱ったことのあるスプニールは理解した。
「その厳重に保管しているものが今回の目的の情報の可能性が高い。
そしてそれを取り出すには厳重なセキュリティに阻まれるだろう」
「……そこで“弱点看破の毒”……」
「はい。そのセキュリティの脆弱性を見抜き破壊すれば情報は簡単に取れる」
「な、なるほど……」
リリスまで納得出来た。
スプニールの説明を聞いただけで最も効果的に運用し、作戦を立てる。
変な集団と思っていたスプニールは考えを改めた。