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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
黒の反逆者たち
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外伝:アルフォートの憂鬱

煙草に火をつけ、大きく吸いこみ、一気に吐き出した。


仕事の合間のしばしの一服。


ただ監視する。


いつ何が起こるかわからないので常に緊張状態が続いていた。


仲間内でローテーションを組み定期的に休憩をとる。


ここで初めて緊張がとかれる。


相手は長年密かに追っていたやつら。


天使は実験体だったかもしれない。


そう想定して調査を進めるとしっかり後を追うことが出来た。


案の定、報告を上げられなかったやつらもいた。


知らない所でこんなにも犠牲者がいたことに腹を立てた。


相手にじゃない。自分にだ。


自分があの時確実に仕留めていれば、あいつらは犠牲にならなかった。


だが今さら悔やんでもあいつらは帰ってこない。


ならせめてそいつと親玉を仕留めることで、あいつらも多少うかばれるだろう。


そう信じたい。


「アルフォートさん、どうぞ」


部下の一人が飲み物を持ってきた。


「おお、すまねぇな」


蒸し暑い中で飲む冷たい飲み物は、とても体に染みた感じがする。


「暑いんだ、みんなにも届けてやれ」


「はい。あと休憩後で大丈夫ですが、

新しい情報が入ってきましたので、後でご報告させてください。」


「……いや、すまない。今聞かせてくれ」


「承知しました。報告によると、実験体はどうやら複数体いたようです。

天使型のものに加えて、原型を留めない流動型の実験体。

さらには見た目に変化のない完全人型もいたようです」


「……」


アルフォートの眉間の皺が深くなる。


「……厄介なことになりそうだな。アローニャに増員の要請……

いや、局にクエストとして発行してもらう方がいいかもしれないな」


「局に……ですか?」


「ああ。セレスにバレちまうのは問題かもしれねぇが、事態は思っているより危険かもしれねぇ」


「わ、わかりました。早急にクエストの申請をします」


「いや、先に飲み物を持って行ってやれ。この暑さでやられる前に……な?」


アルフォートはニカッと笑った。


「はい!失礼します」


みんな落着けない監視で思うように回復出来ずにいる。


少しでも気が休める時間が増えればいい。それだけで仕事の効率は格段に上がる。


「部下のために……か」


昔は自分のために常に限界に挑んでいた。


昔から魔法は得意じゃなかったので化学銃器と組み合わせたスタイルを選んだがこれが大当たり。


そこらの魔道士に引けを取らない強さが手に入り、警護部隊にまで選抜された。


魔法が強くなくても戦える。多くの敵を討ち倒せることに喜びを感じていた。


今とだいぶ毛並みが違うが、部隊長まで登りつめることが出来たことに喜んでいた。


俺は強い。そんな驕りもあったかもしれないが、それがわからないくらいの敵を討ち倒していた。


そしてあの日、魔力と左足を失った。


なんとか娘は一命を取り留めたが、多くの犠牲者を出した。


悔やんだよ。


何やってんだって思ったよ。


娘の命を危険に会わせ、娘の友人も、部下も犠牲にするような状態だったのに、

何が強いだ。何が部隊長だ。笑わせてくれる。


自分の強さに酔って周りが見えなくなっていた、ただの阿呆じゃねぇか。


そういえばこの頃はアローニャに迷惑を掛けちまったな。


荒れてたクズを見捨てずに支えてくれた。


……ふっ……惚気か?


そこからは無理に前線に立たずに、後身の育成を引き受けた。


魔法に頼らないやり方は斬新だったようで、多くの若者が教えを乞いに来た。


皆戦術の幅が広がり、クエストの成功率が上がったと言っていた。


模擬戦も貴族たちに圧倒されることが無くなり、中には勝ちを掴み続けるやつもいた。


そしてその中に自分の娘もいた。


ちょっと気が荒いところは俺に似たのだろうか?


だがアローニャに似て強力な魔法を使っている。


マスター候補と言われるほど力をつけ、立派に魔道士をやっている。


成長を見守ること、喜びを分かち合う姿、そして感謝の言葉たち。


あの日力を失わなければ手に入らなかったかもしれないのが癪だが、

今もまんざらではない自分がいることはわかっている。


そしてこうやってあの時の決着を果たせる機会が出来るかもしれない。


人間、何処で何が起こり、どう繋がっているかわからないものだな。


「さて、そろそろ戻るか」


さっきクエストの申請を頼んだし、皆に今の状況は危険かもしれないと説明しなければならない。


この先起こり得る可能性を知っておくことで、起こった時に冷静に対処出来るようにする。


予め用意しておくだけで不測の事態にも対応出来る。


敵は天使だけじゃない。流動型のやつやら完全人型もいる。


警戒範囲が広がってしまうが、それを知っておくだけでも対応が変わる。


そしてクエストで増員も来る。


その時、今ある情報を速やかに共有出来るようにしなければならない。


監視をしつつ情報の精査、そして共有のためのとりまとめ。


また少し忙しくなってしまう。


これが終わったら労いの飲み会でも開くか。


そう考えていると、少し日に陰りが出始めた。


雨が降るのだろうか?


雨が降って空気が冷えてくれれば仕事のしやすさが変わるが、

監視に雨はあまり嬉しくない。


ま、雨程度で困るような連中は集めていないがな。


何気なく空を見上げた。


そしてアルフォートは目を疑った。


「な……!?」


目が四つ。


いや、二つは既に生きていない。


「……に!?」


大きな顔からはみ出るように肥大化した口を持つ生物と目が合った。


その生物の口には、さっき飲み物を持ってきた仲間の顔があった。


そして生物は口の物を咀嚼すると、アルフォートに飛びかかった。


「ちっ!!」


即座に敵と認識し、銃を取り出し撃つ。


(こんなに接近されるまで気付かないなんて監視は何をやっている!)


そう思ったが、これは間違いだと気付く。


(こいつ、気配が感じられない)


こんなに間近にいるのに、存在するように感じられない。


存在を認識しづらい実験体だからこそ、目の前まで接近を許した。


こんなのを使ったということは監視がバレていたのか?


そして銃で大きな音を出しても周りに反応が無いということは向こうも全滅か。


(引くしかねぇ)


思いがけない敵にアルフォートは撤退を余儀なくされた。


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