復活のミイナ
「ごめん!!」
クラリスの研究所からの帰り道、クルルは必死に謝ってばかりだった。
「クルルのせいじゃないよ。それに……
あんなマスターからミイナを救い出せたと考えればいいよ」
クルルはせめてと、傷の治療をしてくれていた。
「……他の貴族もあんな感じなの?」
「……あそこまで酷くないよ。中には話の通じる人もいる」
「そう……」
(もしかして私の心配をしてくれた?)
表情が読みづらかったのでどう思っていたのかはわからない。
でも心から心配しているのであれば嬉しかった。
「ミイナは二日ほどで復活できるそうよ。何も無ければ一日も必要ないらしいけど、
使っていた錬成陣の選別や書き換えに時間がかかるらしいわ」
「そう……」
上の空のような返事だった。
「もう!いつまでも下向いてるとミイナが泣いちゃうわよ?」
クルルはトウヤの両頬を抑え、無理矢理前を向かせる。
「今回はミイナの犠牲で無事に終わった。その代償も今知った。
だったら次!同じようなことが起こった場合、ミイナを犠牲にしなくてもいいようにしないと。
今度はトウヤくんがミイナを守れるくらいになれば、二度とこんなことは起きないでしょ?」
呆けたような目だが真っ直ぐクルルを見つめている。
「今度は私も協力する……うんん、貴族だから平民だからじゃない。
同じ人間として手を取り合っていけるんだから、頼りにして」
「……ふふっ」
不意にトウヤは笑い出した。
「クルルって貴族らしくないなんて言われない?」
「うっ……いろんな人に言われる。やっぱり変かな?」
「うん、変わってる。でもいいなって思えるよ」
トウヤは大きく息を吸い、吐き出した。
「前にも言われたな~もう起こった事にあれやこれや言っても仕方ない。
大切なことは起こった事から何を知り、どう進んで行くかってね」
トウヤの表情が晴れやかなものに変わっていく。
「……ありがと、クルル」
クルルも気分が明るくなってくる。
「うん!」
満面の笑顔で返事をすると、二人で局へ向かった。
「トウヤさ~ん!!」
部屋の扉が開かれると、人影がトウヤを押し倒した。
「ご無事でなによりです~」
「ミ、ミイナなの?」
「はい!会いたかったです~」
ギュッと抱きついて離れないミイナをリリスと共に引き剥がすと、
入り口でげんなりしているクルルもいた。
「クルルが連れてきてくれたんだ」
トウヤの言葉でポーラ達に緊張が走る。
「う、うん。あ、みんな楽にしていいから、そんなピシッと立たないでいいから」
トウヤ達はあまり意識していないが、ポーラ達からすれば上級貴族のご令嬢が目の前にいる。
楽にと言われても楽に出来ないのが普通である。
「うにゃ?ミイナの体が大きくにゃってる?」
「と言うより……別人」
ミイナの変化にいち早く気付いたのはリンシェンとリリスだ。
「はい!マスターから、戦闘の他に身の回りのお世話も申し付かりました~
新しい体になったので、少しだけご奉仕しやすいように改造されました~」
そういえば、リンシェンと同じくらいだった身長も少し低くなっている気がする。
好きな体を選んでいいと言われたがトウヤもクルルも前と同じでとしか言わなかったので、
この辺りはクラリスの計らいだろうか?
「トウヤさん、どうですか~?お気に召しましたか~?」
「何でそんなの聞くの?」
「マスターからトウヤさんの所有物になれと言われましたので……」
やや恥らいながらミイナが言う。
「……」
明かに誤解を生むような物言いだ。
どういうこと?という思いでクルルを見ると言伝を伝えてくれた。
「ミイナはあなた達二人の所有物になるようにしたから、好きに使っていいわよ。
も・ち・ろ・ん、性格面をそう言うのを好むように改造したから、
あ~んなことやこ~んなことに使っても問題な・い・ぞ☆
P.S.好みを知らないから一般的に好まれる体型にしたけど、
細かい要望があればサービスしてあ・げ・る☆」
部屋の空気が一気に凍りついた気がした。
クラリスへの忠誠心と言う性格を無くす改造の他に、余計な性格の改造もしてくれたようだ。
そしてその性格に合わせて体の起伏をしっかりとしたものに変えたようだ。
「トウヤさん、クルルさん、不束者ですが末永くよろしくお願いします」
場の空気を読めないミイナは幸せそうな笑顔で言う。
「……あの糞ババアをぶっ飛ばしたい」
込み上げる怒りがあるが、冷静に抑える。
「トウヤ君、その時が来たら私も誘ってくれる?」
トウヤとクルルで人知れずに深い絆が結ばれた。
ギルドマスターであるポーラがいるということで、クルルは予てより考えていた提案を出した。
「チーム分け……ですか。確かに大きくなれば必然と生まれてきますが、よろしいのですか?」
「ええ。私とミイナは知っての通りギルドに入りづらい立場にあるでしょ?
でもさすがに一人だと限界があるし、私も局の帰還システムが使えればすごくありがたいわ」
クルルの提案はギルド外との協力体制を作ることだ。
同一ギルド内は既に存在している。
しかし他ギルドとなると、元々ある軋轢などで実現されることはなかった。
「奇しくも前のクエストで三つのギルドと私、ミイナという協力で成功した事例が生まれた。
あのクエストは誰かが欠けてたら成功しなかったと言えるわ。
この協力体制を今後も続けていきたいというのがこの提案よ」
確かに協力の相手が増えればクエストの成功率も上がるし、
適任者が揃えば生存率まで大きく上げることが出来る。
ありがたい申し出だが……
「報酬はどのように分けるつもりなんでしょうか?」
ギルドは組織である以上、経費が必要になる。
魔道士個人の装備や部屋といったものは必要ないが、
共有スペース、訓練場の利用はもちろん何かと物入りである。
そのため、ギルドによってはルールが違うのは当たり前である。
と言っても元々二つしかなかったギルドが三つに増え、増えたギルドは古巣のルールに合わせている。
問題は貴族側の魔道士達になる。
「とりあえず私とミイナは生活に困ることは無いし、そちらのルールに従うことで問題ないわ。
大きくとらえるのではなく、目の前の問題から順に取り除いていきましょ」
問題を一気に解決する方法より、小さな問題を徐々に潰していく。
これも成功への近道だろう。
「わかりました。既にトウヤ達と仲良くしていただいているので、
そこから徐々に私達との仲も深めていきましょう」
ポーラは貴綺の力が借りれるという打算もあったが、
純粋にクルルという人物に好感が持てたので快諾した。
「よかった~断られたらどうしようって思ってたよ~」
満面の笑みを見せるクルルに裏表のない純粋な思いで仲良くしたいと考えているのだと感じた。
「じゃ、みんなも私の事クルルって呼んでね?」
「え!?」
「仲間として仲良くしようって言うんだから、互いに愛称で呼ぶべきじゃない?」
「え!?いきなりですか!?」
「あ、その敬語も徐々に無くしていくようにね」
「ええ!?」
キラーパスとも言えるクルルの言葉に戸惑ってしまった。
貴族同士では友達と呼べるような仲の人はいなかったクルルは、
距離の詰め方が独特過ぎて逆に近寄りがたい存在だった。