藤躑躅の君2
「ふざけんなああ!!」
トウヤは一気に魔力を発した。
さほど大きくない部屋にある大量のゴミが宙を舞う。
その魔力には背筋がゾッとするような感じがある。
この前のクエストでみせた“気当て”だろう。
「へぇ……いい魔力ね」
クラリスはニヤリと笑うと魔力を発した。
「うっ!?」
二人の魔力の衝突にクルルは吐き気を催した。
“気当て”でも吐き気は魔力差が大きくなければ起きない。
ここにいる全員がS+相当。
全員S+はランクとしては大差ないように見えるが、
局の計器で測れる限界値で、実際は天と地ほどの差が生まれることもある。
そのため、クラリスに劣るクルルが“気当て”で吐き気を催すのはわかる。
だが、トウヤはそれに対抗出来ているのだ。
そう思っていると今度は体が震え始めた。
“ここに居ては危険!今すぐ逃げろ!”
体が警告を発するように震えていた。
しかしクルルは逃げずに見届ける。
頼まれたとはいえ、ここにトウヤを連れてきた責任を通す。
ふとメイドが構えてトウヤを抑えようとするが、クラリスはそれを手で止めた。
クラリス自身がどうにかするつもりだ。
「ここで暴れられると困るからぁ、あなたの嫌がる方法で止めさせてもらう、ぞ」
茶目っ気のあるふざけた物言いで合図を送ると、入り口から大量の人間が入ってきた。
「!?」
入ってきた人間を見たトウヤは即座に魔力を発するのを止めた。
そしてその人間達に驚き、動けなくなった。
「ミイナ……!?」
クルルも入ってきた人間を見て驚いた。
入ってきたのはメイド、恰好から部屋に案内してくれたり、
研究所の雑務をしていたメイドと同じだが、全員ミイナの顔をしていた。
「さあ、その子を抑えなさぁい」
ニヤニヤと笑いながらクラリスはメイドに指示を出した。
するとメイド達は我先にとトウヤの体を抑え始めた。
「や……やめ……!!」
メイド達に壁に押さえつけられる。腕も、足も、体も、頭も口も押さえつけられ身動きが出来ない。
「特別にぃ、その子達殺してもい・い・よ」
クラリスの物言いに怒りがこみ上げたが、殺すことは出来ない。
目の前にいるメイドはみんなミイナの顔をしている。
どうしてもミイナ本人とかぶってしまうメイドを殺すことは出来なかった。
「この子達は簡単な命令しか出来ない劣化品だから、感情も考えも何もない。
ただ私の命令に死ぬまで従うだけの人形よ。そしてミイナはこの子達に改良を加えただけの存在」
クラリスは説明しながらトウヤに近づくと、耳元で囁いた。
「どお?ミイナにいっぱい囲まれて幸せ?」
「……!!……!!」
トウヤは怒り、悲しみもがいたが、メイド達を振り払うことは出来なかった。
「あーおもしろかった」
クラリスは大きく伸びをすると、椅子にドカッと座った。
「あらぁ?星歌の君まだ居たのぉ?逃げたと思っちゃったぁ、ごめんね」
「い、いえ……」
クルルはまだミイナの事で整理がついていない。まだ忘れたままでいて欲しかった。
クラリスはまた作業に戻る。
「……!?」
クラリスは急に背筋が凍るような感じがした。
「……マスター……」
「……えぇ、わかってるわ」
その原因と思われるものが、トウヤから発せられている気が……
いや、メイドのニイナも感じてるということは間違いなく発しているのだろう。
まだ大量の量産メイドに抑えられているので、気迫だけというのがよくわかる。
(……あのお方と同じことをするなんて……生意気ね)
クラリスは大きく溜息をすると、クルルに提案した。
「んー……じゃあ星歌の君のためにミイナを作ってあ・げ・る」
「……え?」
「でもタダじゃないよ?錬金術の基本は等価交換。ミイナの代わりに何か頂戴」
まるで子供の様に純真無垢な頼み方をクラリスはしていた。
「……な、何を求めているのでしょうか……?」
噂では実験体にさせられたりと良い事を聞かない。
「もっちろ~ん、あなたのか・ら・だ」
「!?」
やっぱりそうきた。
「人一人作るんだから、人の体が対等よねぇ?」
何をされるか全くわからないので、クルルは身構えた。
それを見てクラリスはニヤリと笑う。
「だぁ~いじょぉ~ぶ」
クラリスはウインクで答える。
「血や髪の毛数本といった細胞で十分よぉ?ミイナも培養して大きくしたんだからぁ」
「そ……それで十分なら……」
思っていたよりも少ない条件で驚いたが、対価がそれならとクルルは了承した。
「そ・れ・と」
クラリスは合図を送ると、トウヤを抑えていたメイドがトウヤに噛み付いた。
「!?……!?」
口を押さえられているので声は出ていないが、うめき声が響く。
メイドはブチブチと髪の毛を引っ張り、歯を針のようにして噛み付き血も一緒に採取する。
「や!やめてあげてください!!」
あまりの惨状にクルルが止めようとする。
「お仕置きよ。もう私を不快にさせないための……ね」
一通り終わると、メイドは動きを止めた。
「ちょっと多く取り過ぎちゃったかな~?……だったらサービスしてあ・げ・る」
クラリスはメイドに指示を出し、トウヤを連れて行く。
あまりのことに、ぐったりとして動けないようだ。
「星歌の君もおいで~」
声に従いクルルも後を追う。
そしてとある部屋に入った。
そこには大量のカプセルのような箱がズラリと並んでいた。
そしてその中には女の子がいる。一つの箱に一人の女の子。
まるで、培養して作られた人間が入っているかのように。
「ミイナの体、選ばせてあ・げ・る。あなた好みの女の子にしてあげるんだぞぉ、よろこべぇ~」
数百……いや数千あるほとんどの箱に女の子が入っている。
見ているだけで気がおかしくなりそうだった。
「それとぉ作ったミイナはあ・げ・る。もう縛らないからあなた達が連れて行きなさい。
さぁらぁにぃ、死んだらここに戻れるようにもしてあげる。
まあぁもっともぉ、作るならちゃぁ~んと対価は貰うわよぉ?
や・さ・し・い・クラリスちゃんのプレゼントだぞぉ、よぉろぉこぉべぇ~」
アハアハと笑うクラリスを他所に、トウヤとクルルは込み上げる思いを抑え、震えていた。