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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
黒の反逆者たち
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藤躑躅の君

クルルと合流し到着したのはどこかの研究室のようだった。


藤躑躅(ふじつつじ)の君はまだ管理する国を持っていないから、

ここは藤躑躅(ふじつつじ)の君が所有する建物の中よ」


「へぇ……」


リンシェンに近い印象を受ける。


「体の取り換えて疑似的な不老不死を手に入れたから、見た目は変わるから顔で判断しないでね。

たしか改名前の家の先代……実父が若返りを使って数百年生きてたから、それなりの年齢のはずよ」


この世界には長寿な種族も存在するが、人種(ひとしゅ)の平均寿命は56歳であるため、

人種(ひとしゅ)でこれだけ長く生きているのは稀な人物らしい。


「お待ちしておりました」


声を掛けられると、そこにはメイドさんがいた。


星歌(ほしうた)の君、クルーエル・アマリリス様と、ホシノトウヤ様ですね?

マスターからお話は伺っております。こちらへどうぞ」


案内されるままに通路を進む。


道中、よく似た顔のメイドさんが掃除をしていたので、これがあのホムンクルスかと感心した。


そしてある扉の前に立った。


「マスター、お客様をお連れしました」


「はぁい、どぉぞ~」


声と共に扉が開き、なかへ案内される。


(うっ……)


部屋の中の様子にトウヤとクルルは顔が引きつった。


汚部屋と言っていいほどごちゃごちゃとしていた。


リンシェンの部屋とどっこいどっこいだ。


ゴミのような山から藤色の髪をした少女が現れた。


(子供?)


と思ったが身長はトウヤと変わらないし、リーシャという例があるから見た目で判断するのは厳禁だ。


見た目は少女、トウヤと同じかやや下くらいか?


ブカブカの白衣を着ているので体型が全く分からないが、大きな丸眼鏡をして研究者っぽい。


髪の毛に何か付いているが本人は気にしていないようだ。


そしてとぼけたような顔をしているので、本当に貴族なのかと疑ってしまいそうだった。


「あなたがホシノトウヤさんですねぇ?」


少女が近づき確認する。


「はい」


バチンッ!!


トウヤが答えた瞬間頬を平手で殴られた。


予想だにしなかった出来事に怒りを覚えたが、

殴った本人が痛そうに右手を抑え蹲っていたので呆気にとられてしまった。


藤躑躅(ふじつつじ)の君ですか?前にお会いした時と姿が違いましたので気付きませんでした」


「ええ、この前体を取り換えたの。……この体弱すぎ!」


クルルは会ったことあるようだった。


痛みを堪え、魔法で治療する姿に貴族の威厳とやらを全く感じないが、

この人が藤躑躅(ふじつつじ)の君、クラリス・ローデンドロンだと理解した。




「あなたぁ、どうやってあの子を(たぶら)かしたのかしらぁ?」


クラリスは作業机と思われるところの椅子に座ると、何かを紙に書き始めた。


「あの子……ってミイナのことですか?」


「ええ。あなた、あの子に随分と肩入れしてるようだけど、惚れちゃったかしらぁ?」


「なぜ?」


クラリスはチラリとトウヤを見て肩をすくめたが、気にせず進めた。


「あの子に肩入れする人はぁ……あなたと……そこの星歌(ほしうた)の君くらいよぉ?」


クルルは急に名前を言われビクッとしたが、話をふられているわけではないと理解すると、

またトウヤとクラリスの様子を伺うことにした。


「どうしてあの子にそこまで肩入れするのかぁ教えて欲しいのぉ」


「……仲間だからです」


「……?それだけなのぉ?」


「それ以外に何があるんですか?」


「……そう」


クラリスは作業を止め、トウヤを見た。


クラリスが笑っているように見えたのは気のせいだろうか?


「ミイナはねぇ、廃棄する予定だったのよぉ?」


「は!?……廃棄ですか?」


思わぬ発言に声を発したのはクルルだった。


トウヤは驚いているが言葉が出ないようだ。


「な……なぜですか?大切な……作品だったんじゃないんですか?」


「ええ、大切な作品よぉ?……私の為に死んでくれるならね」


急にクラリスの口調が変わる。


「あの子たちはね、私の可愛い可愛い作品なの。いろんな錬成陣を入れて効果を試したり、

私を護ったりするね。ついでに死んでも錬成陣の結果を持ってきてくれる可愛い可愛い作品なのよ」


クラリスの物言いにトウヤは怒りが湧き始めた。


「それなのにミイナったら他の子を助けたり、今回だって誰かさんの為に自爆までするんだもん。

頭の制御が全然出来ていないのね。何度も書き換えたけど直らなかった、だから廃棄するのよ。

完全な失敗作に用は無い。さっさと廃棄して次に……!?」


机を叩こうとしたトウヤを、どこからか現れたメイドが止めた。


「マスターに危害を加えるつもりなら排除させていただきます」


今までのメイドとは明らかに恰好が違った。


顔も下着のようなメイド服も……まるで特別な物であるように。


「……離せ」


「マスターに危害を加えないのであれば離します」


「……ああ、危害は加えない……」


メイドが離すと、トウヤは机に手を置き、頭を下げた。


「ミイナを……蘇らせてください」


頭を下げてでも蘇らせたい。


トウヤはミイナを大切に思っているんだとクルルは感じていた。


「……」


「……」


暫く沈黙が続くと、口を切ったのはクラリスだった。


「何で?」


思いがけぬ一言にトウヤもクルルも呆けてしまった。


「何で蘇らせるの?さっき廃棄するって言ったじゃん」


「……仲間……」


「だから何?」


トウヤの言う事を予想していたのだろうか?


食い気味にクラリスが聞き返した。


「あなたの仲間がどうなろうが、私に関係あるの?」


トウヤは反論が出来なかった。


確かにミイナを蘇らせるのは完全なトウヤの我儘だ。


むしろミイナが言っていた通り、また蘇ることが出来るものだと思っていた。


なぜ気付かなかった?むしろなぜマスターが蘇らせてくれると思っていた?


安直な考えをしていた自分への怒りとミイナを失った喪失感で体が震え始めた。


そこにクラリスから悪魔のような囁きが出る。


「じゃあ……いくら払う?」


「!?」


お金の話だろう。


「いくら!?いくら必要なの!?」


クラリスは何かを我慢した。


「さぁ?いくらだと思う?」


「高額でもしっかり返すよ!」


「じゃあ、水35リットル、炭素20キログラム、アンモニア4リットル、石灰1.5キロ……」


「ちょ、ちょっと待って!何それ!?」


「何それって人間を作るレシピよ。子供でも変えるような金額よ?」


「……」


「それが人間を作る金額、安いでしょ?」


「……そ、そんなの……」


「だからぁ、ミイナに執着しない方がいいよ?その程度の価値しかないんだからぁ」


ケタケタと笑うクラリスの顔は悪魔のようだった。


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