表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
黒の反逆者たち
138/305

絶対に諦めない!

「ぐああ!」


質量として何千、いや何万トンあるだろうか?


そんなとてつもない質量の物を引き寄せることに、体はすぐに悲鳴をあげた。


「諦めて……たまるかあ!!」


叫びと共に引こうとするが、何も変わらない。


元の位置から引っ張られ、一緒に流されてもリーシャは離さなかった。


そして、その小さな体を数人の仲間が一緒に引いてくれている。


「次引くタイミングを合図するにゃ、それまで待つにゃ!」


一人だけ別行動をとっていたリンシェンから念話が入る。


「何か手があるの!?」


「こんにゃデカいやつ引くにゃんて無理にゃ。この星の重力に任せる方が安心にゃ!」


「重力……そうか!」


リンシェンの狙いは千切れたチューブラインを全て地上に落とすということだろう。


大気圏の突入で燃えてしまう部分は破壊されたArk(アーク)部分側。


つまりトウヤ達がいない箇所だから問題ないだろう。


なら少しでも脱出地点が地上にある方が望ましい。


「準備するにゃ!」


いつの間にか目の前に戻ってきたリンシェンが合図する。


「せ~の!」


掛け声と共に全員で引っ張る。


それと同時にリンシェンが仕掛けたジェット噴射が発動する。


地上に向けた噴射に微力ながら引く力。これで少しでも地上に近づけるつもりだった。


バキバキ


噴射部分を境にチューブラインの下部が壊れる。


勢いがついたのも合わさって、引いてた全員が振り落とされてしまった。


「ちくしょう!もう一回……うっ!」


デバイスの魔力も自身の魔力もほとんど無い。


そんな状態では満足に浮上することも出来なかった。


「ちくしょう、まだ……まだ諦めて……」


リーシャはまだ諦めようとしなかったが、何も手が出せない。


「え!?……あ!落ちる!!」


急なルーの叫びに反応し、ミナは慌ててルーを抱えた。


「ルーはもう限界だ。すまないが地上に降りさせてもらう」


ルーは飛行魔法を使う魔力も無くなってきたようだ。


このまま空中で待機しているということは、常に飛行魔法を使う。


すなわち魔力が空になった途端、地上に真っ逆さまになる。


「ああ、わかった。リリス、お前も少ないんだから降りておけ」


「で、でも……」


「これはうちの我儘だ。危険な可能性は潰しておきたいんだ」


冷たい物言いだが、総魔力量が少ないのは事実であることを理解しているリリスは、

黙ってリーシャの意見に頷いた。


「捕捉!捕えました!残り21000m!かなりのスピードよ!」


急な連絡に全員がチューブラインを確認する。


重力が弱く上下左右に蛇行しながら流れている。


「地上方向を破壊し脱出出来るようにするんだ!急げ!!」


全員で脆くなったチューブラインを破壊する。


「トウヤ!もうすぐ出口だ!チューブラインはもう脆くなっている!

お前の砲撃でも破壊して脱出できる!出口に私達がいるから助けられるぞ!」


念話で状況を伝えると返事がすぐに返ってくる。


「よし、だったら砲撃で穴を空ける!」


そう答えるとトウヤはデバイスを取り出した。


(かなめ)!トランスフォーム!!光の剣(ライトブレード)!」


刀身の形が見づらい剣が光り出す。


光粒子の切断刃(フォトンスライサー)!」


眩い光の砲撃が崩れたチューブラインを貫く。


「あそこだ!」


セレスは砲撃が放たれるのを確認する。


幸か不幸か上空に放たれたということは、その方向にトウヤが飛び出すということ。


誰もいない方向に放たれたのは良いが、上空に生身で飛び出すことになってしまう。


「抜けた!!」


飛び出す姿を確認。まだ数千mはある。


「トウヤ!そのまま(そり)は維持しろ!!」


トウヤの魔法に詳しいリーシャは的確に指示を出す。


人数はトウヤ、ポーラ、それにクレアとバーネットまでいる。


ほぼ三人を抱えて来たトウヤはほぼ魔力を使い切って来たようで、

ゆっくりと重力に身を任せて降りてきているようだ。


それに合わせて、リーシャとリンシェンがバーネットを、セレスとティアがクレアを、

そしてファイゼンがポーラを引き取った。


「トウヤ!」


残ったトウヤをリリスが飛びつくように捕まえた。


「お疲れさん」


ミナがトウヤの手を掴む。


「お、おかえり……」


ルーから出た言葉に驚いたが、トウヤは笑顔で答えた。


「ただいま」


そして全員で地上に降り立った。




(ブラック)ギルドに所属していた四名確保。他は死亡。うち、賞金首の

バーネット・ティーユーは確保、テルシオ・バイパー、マンバ・エラピディは死亡です」


「確認しました。なお、テルシオ、マンバ両名は局の機器でない為、お時間を頂戴します」


「問題ありません」


「以上で完了とします。お疲れ様でした。……ってことでお仕事お疲れ~」


ポーラから報告を受けたウィンリーは仕事が終わるといつもの口調に戻った。


形式上ではあるが、クレア、バーネット、フウ、ライを拘束し局へ帰る支度をする。


「アーク、無くなっても問題視されないんだな」


「ま、やったのは私達じゃないし」


トウヤの問いにポーラは簡単に答えた。


いいのか?それで?


「クレア……」


ファイゼンはクレアに声をかける。


「来ないで!」


クレアはファイゼンを拒絶する。


「聞いてくれ、伝えたいことがあるって言っただろ?」


「……」


「俺は……お前に誘われても断るつもりだった」


クレアの表情が一瞬変わる。


「お前と会う前から、ポーラと行くと決めていた。変えられない事だ」


「……」


クレアは目を逸らす。目元が潤んでいるように見えた。


「でもお前のことは結構好きだったぜ。人付き合いとか苦手みたいだったけど、

困難に立ち向かう姿勢。諦めない姿。そして……ポーラに負けじと頑張っていたのは知っている。

だから……一緒にギルドをってのは無理だけど、良き仲間として一緒にいたいとは思ってたんだ」


「……」


クレアは俯いてしまう。


「だから……戻れないとか言わずに帰ってきてくれよ。

そしてポーラの良き理解者で好敵手(ライバル)でいてくれ」


ファイゼンは頭を下げる。


「やっぱり……ポーラのためなのね」


「……すまない」


「……知ってた」


長い沈黙が続いた。


「……ポーラ」


「え!?」


突如名前を呼ばれて驚いた。


「……はあ、相変わらず間の抜けた返事するわね」


「……ごめん」


「……あまりファイゼン君に苦労させないでよ……じゃないと取るわよ」


「く、苦労は……させないよ」


常識外れな仲間が既にいるので自信が無い。


「あと……次は勝たせないわよ」


それはまた帰ってもいいという意味だった。


「うん!」


満面の笑みで答えるポーラに釣られ、ファイゼンも笑ってしまった。


「バーネット……私待ってるから……帰ってきてね」


「俺はお前ほど早くは無いぞ」


「それでも待ってる」


「……ああ、わかった」


クレアのすっきりしたような顔を見てバーネットは「ようやく……」と呟き、笑った。


そして、その和解を遮るように鐘が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ