神速
「もう持ちません!」
細かな破片が降りしきる中、セレス達は待っていた。
「うちが掴んで止める!」
力自慢のリーシャが駆け出そうとするが、セレスは止める。
「バカ!いくら力自慢でも限度がある!それに生身の人間には命に関わる場所だ!」
地上63000mは魔道士でも簡単に死ぬかもしれない場所だ。
バキバキ!ボン!ミシミシ!
10000m以上離れているのに凄まじい破裂音が聞こえる。
ズドン!
一際大きく鈍い音が響いた。
「完全崩壊を確認!みんな!逃げて!!」
今まで引っ張られていた物が切れた。
その衝撃は地上部に残る部分でも危険な衝撃だ。
「限界だ!うちは助けに行く!!」
痺れを切らしたリーシャはまた無茶を言う。
「うにゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
リンシェンが猫娘の姿に変身する。
「おいらも行く!空気の塊があれば生き延びれるにゃ!」
確かに、もう流されるだけになったArkを追うように助けに行った方が確率は上がるか。
「わかった!三人で行くよ!!」
セレスは即座に判断し一緒に助けに向かった。
チューブラインが壊れ始め、波を打っている。
「これじゃあ真っ直ぐ落ちれないじゃん!」
もう中間地点は過ぎたと思われるところで、思わぬ障害が起きた。
「もう完全に切れてる可能性が高い。飛び出たら宇宙空間なんてことも考えられるわ」
かなり絶望的である。
それに加えて……
「駆で飛んだとしても……足りるかな……?」
正直、真っ直ぐ落ちるだけなら問題なかったが、ここで上下左右に動かなければならない。
駆はかなり魔力を消費するので足りるかどうか怪しくなってきた。
「はは、私達を見捨てなかったから全員助からない、お子様が欲を出し過ぎたのよ」
確かに。空間としては一つだが、四人分の大きさを確保している。なかなかの量だ。
「……ふふ、面白い時に目覚めたものだ」
「バーネット、気が付いたのか?」
「今……な。だが状況は把握した。おそらくチューブラインが切れたのだろう。
誰もかも助けようとして全員助からない。そして……」
何かを確認するように天を仰いだ。
「!?Arkで爆発が発生!チューブラインは完全に独立する模様!
トウヤ君!急がないとどう流れるか予想できない!最悪惑星外に流れるわ!」
セレス経由でウィンリーから最悪な情報が届いた。
「ってみんな!何を!?」
ウィンリーから困惑の声が聞こえる。
「うがっ!!」
リーシャのうめき声が聞こえた。
「無理よ!いくらリーシャでも体が千切れるわ!」
まさか、体の何万倍の大きさのチューブラインを掴んでいるのか!?
「うるせぇ!少しでも!少しでもトウヤ達が帰れる可能性を上げるんだ!諦めるんじゃねぇ!!」
その言葉に何人もの魔道士が動き、リーシャを手伝い始めた。
「這いつくばっても帰ってきなさいよ!バカ!」
「飛べなくても走れ!みんな信じてるぞ!」
「トウヤ君のためにみんな頑張ってるのよ!」
セレスから少し離れてるからだろうか?少し小さいがみんなの声が聞こえる。
「いい?トウヤ!ポーラ!私達はこれから出来る限りチューブラインを繋ぎ止める。
みんな諦めてない!だからそっちも諦めるんじゃないわよ!」
みんなの叫びから地上の様子が伝わってきた。
「まさか……みんなでチューブラインを引っ張ってるのか!?」
Arkという重しが無くなったとはいえ、チューブラインだけでもかなりの重量である。
それを魔道士と言う人間の手で必死に繋ぎ止めているのだ。
「駆けつけた魔道士も一緒だ」
「ファイゼン!?気が付いたのか?」
「さっきな。クレアに伝えてくれ!お前に伝えたいことがあるってな!」
セレスの念話経由で大勢の人の声が聞こえる。
「クレア、これがお前とポーラの差だ」
呟くように、そして何かを説くようにセレスは言った。
「そうね……これが無きゃ私は勝てなかったわ」
ポーラもセレスの言葉に同意する。
「……」
沈黙で答えるクレアもその答えに気付いているかもしれない。
「だが、ここで死んだら元も子もないぞ」
バーネットの指摘は尤もだ。
地上で必死につなぎ止めようにも、肝心のポーラ達が帰らなければ意味が無い。
時間にして数分繋ぎ止められれば良い方だろう。
そして崩壊が始まり波打つチューブラインを真っ直ぐ降りることはもう出来ない。
どうする?
(せめて局の緊急脱出が使えれば……)
ポーラには策が浮かばない。
ポーラには……
「あれを使う!クレア、バーネット、あんた達もしっかり地上に降りてもらうぞ」
トウヤには策があった。
「あんた……こんな魔法いつ!?」
「試したことが無かっただけだ」
トウヤはポーラ達を引きつれ走っていた。
しかも空中を蹴っていた。
トウヤの魔法、“風打ち・第一座・跳”は空中に瞬間的な空間の壁、つまり足場を作る魔法だ。
だが効果は一瞬。足場として乗り上がれるほど長く現れる物ではなかった。
そこでトウヤは体を動かす電気信号を外から流し、足を動かす力を極限まで上げ、
跳が現れる一瞬でも乗り上がれるように足を動かす方法を思いついた。
外部の電気信号で身体能力を上げることで、魔法とは違う強化方法にしたのだ。
そしてポーラ達を駆と同じ要領で一まとめにし、それを引っ張ることで全員での移動を可能にした。
「速い……飛んでた時と変わらない速さだな」
ふとクレアから感心したような声がする。
「ねぇバーネット……一緒にやり直さない?」
「……お前がそうしたいなら……協力しよう」
二人の中で何かが変わり、互いに確かな絆が生まれていた。
「今度は、私も協力するから」
ポーラは力強く宣言した。
「ああ……ごめん」
最後は声が小さく聞こえなかったが、いい返事だったと思いたい。
チューブラインの波に合わせて上下左右に進路を変える。
一応“反”を使っているので当たっても怪我はしないが、
ちょっとでも速さを維持するために当たらないに越したことはない。
「うっ……」
極限まで動かせるようにした、すなわち壊れないように加減することを止めた足に痛みが走った。
「トウヤ!」
「まだいける!“雷帝の衣”は“駆”よりも長く走れる。それに……」
遠くに光が見えた。
出口だ!
ようやく……崩壊前にゴールにたどり着けた。だが出口の高さはどのあたりだ?
最後の念話から数分以上経っている。繋ぎ止める限界の時間は過ぎていると考えた方がいい。
「トウヤ!出たらすぐに地上に向かうのよ!」
「わかってる!」
出口を抜けた瞬間の行動が賭けだった。