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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
黒の反逆者たち
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重砂装甲

「はあ、はあ!」


テルシオの息はだいぶ上がっていた。


いや、息が上がるまで戦わされている。


「はあ!はあ!うにゃああ!疲れる~!」


「お前もだいぶ息が上がってるな。そろそろ限界か?」


リンシェンの動きはかなり多い。その分体力を消耗するはずだ。


しかしテルシオの息が上がるまで食らいついているのは称賛に値する。


「リンシェン、ランクは幾つだ?」


AA(ダブルエー)にゃ」


「はあ?なんだそりゃ?間違ってるんじゃねぇか?」


「おいらは入局して半年程度の新人にゃ」


「それでも低すぎるぞ!SS(ダブルエス)の俺と張り合えてるんだ。お前はもっと上だ!」


「そんなにょどうだっていいにゃ!」


リンシェンは重い身体を奮い立たせ構える。


「ふふ……ははははっ!そうだな!リンシェン!お前は俺が今まで戦った女の中で一番強いぜ!」


テルシオも体を奮い立たせ構える。


お互いに全力で戦えることに喜びを感じ始めている。


この時間がもっと続けばいいと。


しかし無情にも終わりの時は刻一刻と近づいていた。


実に惜しい。とても悔やまれる。


そんな気持ちが溢れると思わぬことを口にしてしまう。


「リンシェン、俺と共に来い!局なんかじゃお前の力は埋もれちまう。勿体ない!

俺と共に更なる強さを手に入れよう。お前の力を十分に発揮する場所はこっちにある!

邪魔な(しがらみ)を取って、どこまでも高みを目指そうじゃないか!」


勧誘とでも言える言葉でテルシオの本心が出ていた。


それくらいリンシェンを認めているのだろう。


だが……


「断る!おみゃ~がこっちに来い!」


勧誘を断ると、今度はリンシェンが勧誘した。


(ブラック)ギルドと局のギルド。


光と闇のような対極にある立場は相いれることはなかった。


「お前がこっちに来れないように、俺にもそっちに行けない理由がある。

残念だ、リンシェン!お前を殺さなきゃならないことをな!!」


テルシオは上着を破り捨てる。筋骨隆々の体には幾つもの傷がついていた。


今日まで幾つもの、命を懸けた殺し合いの賜物だろう。


「ふんっ!」


テルシオは構え力を込めると、筋肉が膨れ上がった。


「はあ!!」


そして(はつ)を行うと同時に黒い何かを身に纏った。


ビリビリと空気が震える。


(まだ隠してたのか!!)


リンシェンは驚きのあまり普段の言葉遣いが元に戻ってしまった。


重砂装甲(ヘビーメタル)、俺の最終兵器だ!」


漆黒のダイヤのような斑紋がある。鎧のようだが体に密着していて、体格はそのままだ。


重金属を意味するその名の通り、重く硬いものかもしれない。


ドン!


テルシオが踏み込んだ足から重く鈍い音が出る。


(思った通り……だが!)


スピードは変わらない。さっきと同じ速さで拳が突き出される。


受け流すことは危険と判断し、大きく躱す。


ドォン!!


床に当たり、その衝撃波と破壊された床の一部が飛び、リンシェンの頬を掠める。


(なんて一撃だ!)


アーク全体が揺れた気がする。かなり重い一撃のようだ。


続けて蹴りが来たがこちらも大きく躱す。


バキベキッ!


鈍い音を立てながら、部屋の壁が蹴った部分だけ抉れている。


あの貴綺(きき)のクルルの魔法でも無事だった壁が簡単に抉れている。


いや、クルルは離れた位置から壁全体に対する当て方、

対してテルシオは足部分のみという当たる範囲が限定された結果だろう。


一点に集中された力は、魔法の盾でも簡単に破壊してしまいそうだ。


「これで終いか!リンシェン!」


「んなわけない!」


突きを躱すとリンシェンはテルシオの体に手を伸ばす。


反撃と思われたリンシェンの手はテルシオの体を撫でるだけだった。


「触っただけでわかる、硬すぎるぞ!」


「同ランクの強化系でも手こずる硬さだ。この硬さは攻撃力にもなる!」


テルシオはリンシェンに攻撃を仕掛けるが全て躱される。


「硬くても当たらなければ意味が無い。もっと早くないと当たらないぞ」


「悪いな、重すぎて早く動けないんだ!でも十分だろ?」


重金属の鎧は普通なら持ち運べないのだろう。


だが鍛え上げられたテルシオの体と魔法は、それでも元の早さで動けるほどである。


そして強化系でないリンシェンにこの鎧の突破方法が無いのも事実。


十分な脅威だった。


「お前の欠点は破壊力の無さ、すなわち力の無さだ!俺の元に来なければ死ぬことになるぞ!」


「死んでもお断りだ!お前がこっちに来い!」


「こっちも死んでもお断りだ!」


テルシオがどんなに殴ろかかろうと、リンシェンは全て躱して見せる。


攻防も意見も平行線だった。


お互いに息が上がっている。


もう勝負の時だろう。


「お前が最終兵器を見せてくれたのに、おいらが見せないのは不公平だにゃ」


ニヤっと笑うリンシェンの顔は悪戯っ子のようだった。


「ありがてえな!殺す前に見せてくれ!」


そう言うとテルシオは飛びかかった。


ボシュ!


何かが破裂、いや噴き出る音がしたと思うと、テルシオの腕が床に叩きつけられた。


(なんだ!?)


何かが当たった感覚は無い。だが腕は何かに押され床にある。


ふと人影が上を通る。リンシェンだ。


(しまっ!?)


攻撃に備えようと守ったが、リンシェンはまた体に触れるだけだった。


(そういえば、さっきから攻撃の威力が無い)


重砂装甲(ヘビーメタル)で鉄壁とも言える防御力を手に入れたが、

相手の攻撃を受ければ受けた感覚はあるし、ある程度の衝撃は感じる。


今回も破壊しようと攻撃した感じは無い。


反撃に出ようと体を動かす。


ボシュ!


また何かが噴き出る音がすると、今度は体が回り、ひっくり返ってしまった。


「ぐっ、何をした!?」


体を起こすと、目の前にはリンシェンがいた。


気配が無かった場所に現れ、一瞬体が止まる。


「おいらは風属性、操作・放出系魔道士にゃ」


リンシェンは軽くデコピンを決める。


ボシュ!


また噴き出る音がすると頭が後ろに吹っ飛んだ。


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