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幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
黒の反逆者たち
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実験体

「うまく離されちまったな、お前らのチームプレーはなかなかだ」


リーシャは近づいてくる影を褒める。


「へぇ~、僕たちが二人だとよくわかったね」


影が段々とブヨブヨした動きに変わる。


「一応、格闘技に詳しい人間なんでね。攻撃の仕方で予想が出来た。

その体、何かの実験でされたのか?」


ブヨブヨが次第に人のような形になる。


「そうだよ。僕たちは人間じゃなくなったんだ」

「強い魔道士を作るって言って人体実験にされたんだ。酷いでしょ?」


人のような形は二つ。しかし臀部から背中にかけて太い水の塊で繋がっている。


「まさか……体が水なのか?」


リーシャはその実験の(おぞ)ましさを理解した。


「そう……」「僕たちは体が水になったんだ」

「ある魔道士の実験結果さ」「そして人じゃなくなった」


顔らしき場所に目が出てくる。


目は四つ。確かに二人分だ。


「ハイヤ兄弟と言えば理解するかな」「むりむり、二十年近く前の話だよ」


ハイヤ兄弟は子供の様にケタケタ笑っている。


「……ハイヤ兄弟、イカレた薬売りか!?」


アカデミーで聞いたことがあった。


「へぇ?知ってるんだ?」「いがい~」


だがリーシャの知っている情報と違う。


「あんたら、討伐されたんじゃ……」


「表向きはそうなってるんだ~」「人体実験の名文句だねぇ~」




ハイヤ兄弟はスラム街の薬売りで、麻薬で街を一つ滅ぼしたと記録されている。


街で食料を売っている店に潜み、無断で商品に薬を混ぜる。


そして客に薬の味を覚えさせ、苦しむときに付け込んで薬を売り金を得ると同時に、

実験と称して数多の人体実験を繰り返し、街全体を支配していた。


異変を感じた局が調査し、犯行が発覚。


ハイヤ兄弟は賞金首となり討伐されたとされている。


その手順の狡猾さと残虐性から、アカデミーでもよく紹介されていた過去の事件として有名だ。




「陰でそんなことが起こっていたことはよくわかった。

で、その実験の首謀者は誰だ?その実験体がなぜここにいる?」


「君は実験動物に名を名乗るのかい?」「ここにいるのは僕たちの趣味さ」

「局の魔道士だってことだけはわかってるんだ」「ここにいれば薬が作り放題だからねぇ?」

「だから局の魔道士は全員欲しいんだ」「僕たちの薬を楽しませてあげるよ」

「全員飼い殺してあげるよ」「いっぱい気持ちよくしてあげるよ」


復讐、支配、憎悪、快楽、興味、さまざまな感情が見え隠れしてリーシャは気持ち悪くなった。


「もういい、うちらを殺そうって言うのがよくわかった。

ならてめぇらは敵だ!ここで殺さなきゃ仲間が犠牲になるほどのな!」


リーシャは構える。


「無駄だよ」「君は接近戦闘、格闘系の魔道士だ」

「この水の体に拳は当たらない」「つまり君の攻撃は効かないのさ」


口は見えないがニヤッと笑った気がした。


「ははっ、ならお前らはどうやって攻撃したんだろうな?」


リーシャもニヤッと笑った。


「それに殴るだけが拳じゃない」


物理的な攻撃だげが攻撃手段じゃない。


そしてリーシャには新しいデバイスもある。


(なんだろうな。負ける気がしねぇ)


今までは苦戦しそうな相手だが、今は対処のしようがあるからか?




頭を狙った上段の攻撃。足を狙った下段の攻撃。


そして上下に集中していると狙われる中段の攻撃。


二人で見事な連携攻撃を仕掛けられている。


防戦、だがリーシャにはまだ余裕があった。


思った通り、水の体であろうと攻撃のタイミングで個体となる為防げる。


つまり逆を言うと……


「はあ!」


「「ぐっ!」」


攻撃を仕掛けられるタイミングで反撃することでこちらの攻撃は防御と同時に攻撃になる。


リンシェンのやり方だが、何度も一緒に修行したおかげで真似することが出来た。


「聞いてたよりずっと強いね」「まさか当てられちゃうなんてね」


「クレアの情報は一年以上前のものだ。そこから強くなったと考えなかったか?」


「いや、思ってた以上だよ」「すごいすごい」


リーシャの二倍は生きている人物だが、まるで子供の様だった。


(実験で体が成長しなくなったから、子供の様なままなのか?

これが実験で得られた結果なのか?)


あれこれ考えるのはあまり得意ではないが、相手は今までの常識から外れた存在。


得体のしれない何かを持つ相手には、わずかな情報でも可能性を広げなければ危険だった。


「格闘戦じゃ勝てないか」「じゃあ今度は打ち殺す?」

「ダメダメ、さっき砲撃を防いでたじゃん」「じゃあ閉じ込めちゃおう」

「いいね、そうしよう!」


ハイヤ兄弟はそう言うと、体を霧に変化さえた。


「いい!?そんなことも出来んのか!?」


霧は広がり、リーシャを包む。


「こんなの、的がデカくなっただけじゃねえか!鋼鉄の公爵(スティルダッチェス)!」


リーシャは拳を突き出すとデバイスに炎が現れる。


そしてロケットのように噴射されると拳を突き出したまま突進していった。


しかしいくら進んでも当たる気配が無い。


「どうなっている!?」


立ち止まり周りを見渡す。霧で周りは何も見えない。


おそらく広範囲を霧で包んだんだろう。


ドクンッ!


急に鼓動が早くなった。


(なんだ?急に暑くなってきやがった)


ドクンッ!


「ひっ!」


下腹部が熱くなると同時に、妙な気分に襲われた。


(まさか、これって!)


体が熱くなり、頭がフワフワし始めた。


「僕たちは薬使い」「いろんなお薬持ってるんだよ?」


どこからか声が聞こえる。


「局の魔道士は大半が女」「なら女にだけ効果があるお薬を用意するでしょ?」

「それを霧に混ぜたらどうなると思う?」「君は息をするたびにお薬飲んじゃう」

「あはは!嬉しいでしょ?幸せでしょ?」「気持ちいいのがいっぱいだよ?」


体が痺れ、足が震え、立ってられなくなったリーシャはその場で倒れた。


「どんなに強い魔道士でも、これには勝てないよね?」「しかもこの下は~?」


リーシャの頭に何かが乗り上げられない。


段々と頭だけが沈んでいく。


「!?」


鼻と口が浸かる。立てたので下は地面だと思ったが水だったようだ。


「どんなに強くても所詮は人」「息が出来ないと死んじゃうよね」


体に力が入らない。頭を持ち上げることが出来ない。


やばい!死ぬ!


そう思った瞬間、頭を掴まれ、持ち上げられる。


「ねえ?気持ちいい?」「嬉しいでしょ?」


ハイヤ兄弟が聞く。


咳と呼吸で上手く喋れない。


呼吸が整い始めるとまた頭を沈められた。


まだ体が動かない。


そして苦しくなったらまた頭を持ち上げられた。


「ねえ?気持ちいい?」「嬉しいでしょ?」


苦しさで頭のフワフワが飛んで行った。


だが呼吸をするたびに霧の薬が体に入り、フワフワ感が戻ってくる。


(まさか、こいつらの狙いって……)


呼吸が整うとまた頭を沈められた。


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