分断
気付くと真っ白な空間に移っていた。
「俺の見立てだとお前たちが一番危険だ」
何処からか声が聞こえる。
「チューブラインを音速で昇ったお前、その後の気当て、
そしてまだ戦う余力がありそうで今後の脅威になりそうだ。
さらにトカゲを石化させてたお前、使い方を選べば十分脅威になりそうだ」
トウヤとリリスの能力をしっかり分析し、評価をしている。
「それで、俺たちを閉じ込めて脅威を取り除こうってわけか?」
「無粋な真似ですまないな。たぶん俺の力では勝て無さそうなんでな」
男が姿を現した。バーネットと言われていた男だ。
「本当に俺たちがあんた達の脅威になるんかね?」
「ああ、俺の予想だがな」
「・・・目がいいし、冷静に判断できるタイプなんだね。
こいつは魔法がすごく便利、俺は地球人と言えば通じるかな?」
「なるほど、予想通りで嬉しいよ」
白くて見えづらいが、椅子があったのだろうか?バーネットは座って本を読みだした。
「閉じ込めるだけ?」
「ああ、俺の役目は一番危険なやつをこの空間から出さないようにすることだ」
「だったら!」
リリスが魔法でバーネットを石化させようとしたが、姿が消えて不発に終わる。
「危険な相手なのに姿を晒すわけないだろ」
その通りだ。かなり警戒しているようだ。
「リリス、周りの空間に向けてくれ」
「え?なんで?」
「空間を断ち切って閉じ込めているなら、魔法の力が働いているはずだ」
「わかった」
リリスはトウヤを避けて全体に魔法を使った。
「・・・何も起こらない。広い空間なのか、魔法以外の力か・・・」
「大人しくしていろ。次の手を打たなければならなくなる」
バーネットから敵意を感じない。本当に閉じ込めておくだけなのか?
「リリス、しばらく待機だ」
「わかった」
この閉じ込められている時間は少しありがたい。移動で失った魔力を少しでも回復出来る。
トウヤは周りを探りつつも、回復に努めた。
「!?」「な!?」「ひぃ!?」
目の前が真っ暗になったと思うと床が消え落ちていった。
咄嗟にトウヤから貰ったデバイスを起動し、宙に浮く。
「いきなり床が消えるとかビビるだろ」
「場所が場所だけに・・・ってここ地上なの!?」
明るくなった眼前を確認したティアは目を疑った。
山と湖がある空中に場所が変わっていた。
「おそらく、転移したんだろう。他の連中は?」
冷静さをいち早く取り戻し、セレスは現状を確認する。
「うちらだけどこかの国に転移した感じだな」
「罠かな?」
「向こうは私達が相手になることがわかっていた。たぶん戦いやすいように分断したんだろう」
「その通りだよ」
突如現れた声にデバイスを構える。
しかしそこにあったのは何かの機械だった。
(プロペラで宙に浮かぶ・・・たしかラジコンって言う科学の玩具か?)
一般的に知られているラジコンと違い、小さいプロペラが複数個、機体の周りに配置されている。
機体にはカメラと思われる物のみ。
科学の玩具に詳しくないセレスだが、知っている物よりかなり安定したホバリングをしている。
「本当はそこの小っちゃいのも分けたかったんだけど、一緒に動いていたからしょうがないよね」
狙いはセレスとティアでリーシャは予定外だったのだろう。
「まあ呼んじゃえばいいんじゃない?」
声は二人。二人とも少し幼く感じる声。女の子か、男の子か。そこは判断が難しかった。
「じゃあ、来るまで僕たちが遊んであげよう」
「うん、そうしよう」
すると離れた場所から機械的な音が聞こえた。
「え!?あれって!?」
「戦艦ってやつだ!」
「まさか遊ぶって!?」
巨大な戦艦から大量の戦闘機が飛び出す。
「じゃあ、ゲームスタート!」
合図と共に一斉に砲撃が放たれた。
「はにゃ!?他の連中が消えたにゃ!」
「なに!?」
ミナは周りを確認するが、リンシェンの言う通り、さっきまで一緒だった仲間の姿が消えていた。
「みんな!?何処へ行ったの?トウヤ!」
ルーが大声で所在を確認する。念話でも話しているが、返事は無い。
「何処かへ隔離、または転送されたと判断すべきだろう」
念話でも返事がないということは、その可能性が高かった。
「へぇ、リストに無いハズレだと思ってたが、結構な上玉じゃねぇか」
急に男が現れた。
「上玉でも殺しますよ。捕獲は難易度が高いんですから、合理的じゃありません」
そしてその後ろからさらにもう一人男が現れた。
「焦るなよ。まずは話し合いだ」
最初の男はその場にドカッと座った。
「姉ちゃん、俺の元に来い。そしたら殺さずに可愛がってやるよ」
誰に向けて言った?
「うにゃ?おいらはお断りするにゃ」
「てめぇみたいなアホはお呼びじゃねぇ!」
「うにゃ!?」
アホと言われてショックを受け、両手を地に付け頭を垂らすリンシェン。
(いや、あんた気にしてんの?)
ルーは心の中で突っ込んだ。
「おまえだよ、ショートの姉ちゃん」
ショートが当てはまるのはショートヘアーのミナだ。
「初対面で“はい”と言うほど軽くないつもりなんだけど、あなたにはそう見えたのかい?」
「いや、だが力の差は感じているはずだ」
バレていた。ミナは相手が出てきた瞬間からジリジリと後退していた。
あいつから放たれるプレッシャーは尋常じゃない。
後から現れた男の刺すような目つきのプレッシャーもそうだが、
最初に現れた大柄な男のプレッシャーも、まるで重りのように圧し掛かってくる。
「だとしても、局の魔道士だ。無抵抗に黒ギルドに従う訳ないだろ?」
「・・・だよなぁ。いい女を潰さねぇといけねぇのは黒の辛いとこだな」
「理解出来ませんね。あなたの言ういい女には無能も入っている」
後ろで立っていた男がメガネをクイッと直す。
「愛嬌を楽しむんだよ。てめぇは堅すぎるっていつも言ってんだろ」
「こちらも楽しむためと言いつつ、いい加減に仕事する所を直してくださいと再三注意してますよね?
無能は足手まといにしかなりません。気分や好みで仕事の質を変えられると困るんですよ」
性格は真反対。でもペアとしては相性がいいようだ。
「ま、それでも仕事の相棒としては優秀だ。あの姉ちゃんは俺がやる」
「ふう、わかりました。小娘とアホは引き受けましょう」
話し合いが終わると男たちは構えた。
「ルー逃げろ。あいつらは危険だ」
「ミナを置いて行けるわけないじゃない!私だって戦うわ!」
「いいから逃げろ!!」
一瞬ルーの方へ目を向けたのがまずかった。
目を離した一瞬で大柄の男の姿が目の前まで来ていた。
相手の攻撃への対処が遅れてしまったのだ。