融合
時間はかけられないなら速攻で倒す。数が多くても速攻なら対応が利く。
だが相手は魔法にかなり抵抗力のある生体兵器。
並大抵の魔法では簡単にかき消されてしまう。
さてどうするか?
トウヤには考えがあった。
暴れるように仕掛けてくるトカゲ型の攻撃を躱しながら、右手を突き出し手を広げた。
空間を操作して押し潰す爆縮なら、どんなに抵抗力があろうと簡単に潰せてしまう。
そう思ったが
「やめろ!トウヤ!!」
セレスの掛け声で所作を止めると同時に、攻撃を躱し大きく下がる。
「どうして止める?」
「あんた、爆縮で仕留める気だったでしょ?」
「ああ」
「そんなもので壁に穴が空いてごらん。全員宇宙に放り出されて死ぬわよ」
通常の屋外ならすぐ外に地面や空気があるが、ここは宇宙にあるコロニーの中。
壁は多少の魔法にも負けないくらい堅牢に作られているが、万が一にも壊れてしまえば、
そこから宇宙空間に吸い込まれるように放り出されてしまう。
そうなってしまったら元も子もなかった。
「じゃあ、どうしたら・・・」
いい案が思い浮かばず、ただ時間とこちらの体力だけが消耗していく。
「みんな、私にいい考えがあるわ」
提案の主はクルルだった。
「私がこのトカゲ全部を引き受けるわ」
「え!?大丈夫なのか?」
クルルは綺貴なので強力な異能、祈り歌の毒がある。
それを使っての勝算だろうか?
「待てクルル!まさかあれを使うのか!?」
クルルの事情に詳しいミナが止める。
「時間も限られてるし、こいつらも即倒さなければならない。
奥の手を取っておく余裕も無いわ。ま、皆に後の事を任せちゃうけどね」
「何をするつもりなの?」
「私は綺貴の中でも下位で、みんなが期待するほど強くないわ。
だからこんなところで全力を使わないと皆を助けられないし、その後を全部お願いしちゃうわ」
申し訳ないと言わんばかりのセリフ、そして期待とも言えるお願い。
クルルは何かを覚悟したようだ。
「・・・わかった。全員私の元へ!巻き込まれるぞ!!」
クルルの覚悟を察したミナは全員を部屋の隅へ集まるよう指示をする。
「何をするんだ!?」
訳がわからないままに指示に従うトウヤ達。
クルルを一人残したことでトカゲ達は一斉にクルルへ向けて攻撃を仕掛ける。
「クルル!!」
攻撃が当たる寸前でクルルは赤い光に包まれ攻撃を一気に弾いた。
クルル以外が集まったことを確認し、クルルの光を見届けると何重にもシールドを張り空間を造った。
まるでシールドで自分のいる空間をクルルから断ち切るように。
「何が起きてるの!?」
「全員、生き残りたかったらシールドの外へ出ないことだ」
「状況を説明してほしい」
「祈り歌の毒の最終奥義と言ってもいい・・・融合だ」
祈り歌の毒。賛美の歌と媒体を使用して幻獣を呼び出す異能。
幻獣の中でも位があれば向き不向きも存在し、
その中でも位も高く戦闘向きな幻獣を呼び出せる者は限られている。
さらにその幻獣と特別な契りを交わした者はその身に幻獣の力を宿すことが出来る。
それが融合。
「ああ・・・あああああ!!」
もがき苦しむような叫びが響く。
赤い光に包まれたクルルの身体からどんどん炎が発せられる。
白磁器のようだった肌も赤く変色し、みるみる燃え始める。
やがて全身が炎に包まれると、歌声が聞こえ始めた。
「♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~」
身体が炎に焼かれながら、そんな苛酷な状態でも聞こえる賛美の歌は美しかった。
「祈り歌の毒は血を吐きながらでも歌わなければならない、残酷な異能なんだ」
「でも・・・それだけ残酷な条件なら、効果も大きいんだろ?」
「ああ、大きい・・・・その身がどうなろうがな」
その意味がわかると、トウヤは駆け出した。
しかしルーに体を引かれ、進めなかった。
「今行ったらあんたも焼け死ぬよ!」
部屋の隅に集まり、シールドで空間を区切り身を守る。
すなわち、その外では命の保証がないということだ。
「ぐおおおおおお!!!」
突如響き渡る雄叫び。
クルルの方を確認すると、いつの間にか人型のようなものが増えていた。
「幻獣、炎の魔人!周囲を焼き尽くす魔人だ!
ここだけは死守する!手伝ってくれ!」
全員でシールドを支え、魔力を送る。
クルルと炎の魔人の姿が一つになると、激しい光に包まれる。
そして激しい炎と共に衝撃波が襲う。
「おおおおおおお!!!」
シールドが無ければ一瞬でまる焦げになりそうな炎が周囲を襲う。
これだけ強力な炎なら・・・
しかし対魔法仕様により炎はトカゲには届いていなかった。
(このままじゃ・・・)
炎の魔人と融合し炎を発している意味が無い。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
ふとリリスの息が荒い事に気付いた。
「どうした?リリス?」
「・・・暑くて・・・」
「暑い?・・・そうか!」
クルルの狙いは直接炎で焼くことではない。
この部屋の中の温度を上げて衰弱させることだ。
いくら兵器と言えど生物である。つまり水が無ければ生きていけない。
兵器の機械部分は水を提供するかどうかはわからないが、独立しているからには要領に限界がある。
魔法が使えない干物状態なら簡単に破壊できる算段だ。
そしてこれは味方側も熱でやられる可能性もあった。
(あとをお願いね・・・か)
クルルは後先の事を全く考えず、現状を打破する事を優先した。
思い切ったやり方だが、逆にこちらを信頼してくれているのだろうか?
ならばこちらも全力で答えるべきだと思う。
トウヤはシールドから離れると大量の氷を作りだした。
そして風で仲間達に冷気を送る。
「なるほど、星歌の君はトウヤの創る魔法で熱対策も出来ると思ってたのか」
セレスはクルルの作戦を完全に理解した。
「信じられない、上級貴族が私達を信じて自己犠牲的なことをするなんて・・・」
アーニャはクルルの行動が理解出来なかった。
上級貴族は平民を常に見下している。そのため助けることをしない。
「クルルは自らクエストを熟して、私たちの事を知ろうとしている。
偏見やイメージで言う事は相手を侮辱することだと言っていた。
・・・それは貴族であろうと、平民でも、みんなやってることなんだ」
アーニャの理解出来ないはクルルをイメージで決め付けているからで、
同じ対等な仲間だと考えれば、簡単に想像がつく。
「それは・・・人形でも出来るかな?」
全員の頭にミイナの顔が思い浮かんだ。
「出来るかもしれないな・・・産まれは違っても、同じ人なんだから」