表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想冒険譚:科学世界の魔法使い  作者: 猫フクロウ
風塵遮視-サンドアウト-
100/302

わたしは人形ですから

「ミイナ、これを持って行ってくれ」


いち早く仕事を終えたトウヤはミイナの元へ向かい、創ったデバイスを渡した。


「これは何ですかー?」


指輪型の見慣れないデバイスにミイナは首を傾げながら聞く。


「転移の魔法が使えるデバイスだ。転移先は俺の傍に行けるようにしている」


「どうしてこんなものをわたしにー?」


「そりゃ死にそうになったら逃げれるようにするためだよ」


「ふふっ、気遣ってくれてるんですね、トウヤさんは」


「一応、同じチームを組んだ仲間なんだから当たり前だろ?」


「そうなんですかー?でもわたしは人形ですから心配いりませんよー?」


「それってどういう意味?」


「わたしは死んだら精神だけマスターのラボに転移できるように出来てるんですよー」


「え!?それって…」


「はいー。死んでもまた新しい身体で蘇りますよー。なのでその心配は無用ですー」


「そんなの…」


「??」


「それでも死なないでほしいんだ!」


「え!?…えーっと…」


「今、俺の目の前にいるミイナは生きているだろ?」


「えーっと…意味がわからなくなってしまったんですがー…」


「人形だから、死んでも蘇るから、だから今生きているミイナが死んでもいいはずがないだろ?」


「…わたしを一人の人間として心配してくれてるんですか?」


「……」


泣きそうな顔になっている顔が問いに答えている。


「優しいですね」


「仲間…だと思ってる」


「はい、わたし何度か繰り返してますが、今回が一番いいです。これが幸せなんですね」


「何度も…?」


「はい、何度も死んで何度も蘇ってます。わたしは人形ですから、マスターの意のままです」


「……」


「でも今回初めてマスター以外の人の為に頑張ります。そう思わせてくれたのはトウヤさん達ですよ?」


「ならちゃんと生きて帰って」


「それはわかりません」


「……」


何となく察していた。


能力の全開放。それは後の事を、帰りを考えていないのだ。


「さあ、時間が限られています。起動の準備を進めましょ」


「ミイナ…」


「あ、デバイスありがとうございます。お守りにしますね」


「あ…ああ」


トウヤは名残惜しそうに離れ、起動準備に向かう。


「絶対に帰ってくるんだぞ」


「はい!おまかせあれ!」


ミイナは両手でガッツポーズをして答える。


トウヤの姿が見えなくなるとまた頬を伝う物が出てきた。


「ああ、これが幸せですね。誰かに優しくされるなんて、今まで一度も無かった。

この幸せがあれば、あんな生体兵器も一瞬で吹っ飛ばせそうですね」


チューブライン上を押し返すシステムに押されながらギアで走り抜ける。


そうすることで移動の魔力を抑え、その分を戦闘に使える。


そして能力を全開放して、生体兵器共々一瞬で爆発して消滅。


それで…それでいいんだ。そうすることで犠牲者を自分だけにすることが出来る。


自分が生きて帰れるかは賭けだった。


「ありがとうございます、トウヤさん」


ミイナはそう呟くと、背中に魔方陣を練成し、翼を出した。


Homunculus(ホムンクルス)works317(ワークスサンイチナナ)、戦闘モード開始。目標を瞬殺します!」


キーンという音と共にミイナの足に装着したギアが起動する。


「ミイナ、準備は出来たわ。いつでも起動の合図を出せるわ」


クルルから念話で連絡が来る。


「はい…起動お願いします」


そう返事をすると、ミイナは一気にチューブラインを駆け上がった。




風喰(かぜば)みの出現は案の定、システムの魔方陣によるものだった。


外周にある六個を特定し、そこに六芒星の頂点を当てはめ、

直線で結んだ時の交差地点にも六個あるとの予想は見事に当たり。


そして集めた魔道士で魔力を補填しシステムの起動まで漕ぎつけた。


あとは…ミイナを送り出すだけ。


この状況、いくら綺貴(きき)と言えど、いくらギルドマスターと言えど、

宇宙空間という滅茶苦茶な環境では無力だった。


そこへ行けるのは生物兵器のみだった。


ミイナはどうだろう?


基本ベースは人間と聞いたことがある。


本人が行けると言ったから生き延びる(すべ)があるのだろう。


彼女の事だから自分の周辺に空気の玉を作り、中で数分間の活動するくらいはやりそうだ。


そして生体兵器を破壊し、ここへ帰還する感じだろうか?


「ポーラちゃん、飛行魔法で一番高く飛べるのって誰?」


「セレス、リンシェン、トウヤです。あの三人は10000mを記録しています」


「え?そんなに?風ってそんな上空でもいけるんだ?」


「あ、私達の飛行魔法はトウヤが創ったデバイスで飛んでいて、

空間を切り取って操作するので、今までのよりだいぶ違うんです」


「へぇ、チートみたいな創る魔法って聞いてたけど、想像以上ね」


クルルは素直に感心した。


「もしかしたらミイナが魔力を使い果たして落ちてくるかもしれないわ。

その時はその三人に飛んで空中で回収してもらいましょ」


「はい」


だけどもし、ミイナが失敗したらどうしよう?


ミイナの自信あり気な言い方や性格からして、嘘や見栄を言わないので信頼は出来るが、

ちゃんと生物兵器を破壊できるのだろうか?


戦闘メイドなので戦闘能力が高いのは知っている。


ただミイナの使っていた魔法に、一撃必殺のような大技があるのは知らない。


何をする気だろうか?


そうこうしているうちにシステム起動の準備が整ったと合図が届いた。


「ミイナ、準備は出来たわ。いつでも起動の合図を出せるわ」


そうミイナに連絡すると


「はい…起動お願いします」


と返事が来た。


今はじっくり考える時間は無い。ミイナを信用するしかないだろう。


クルルは大きく息を吸い、気合を入れた。


「よし、システム起動!みんなお願い!」


念話で合図を送ると魔道士たちは魔力を送り込んだ。


町全体が淡い光に包まれると、システムの魔方陣から光の柱が伸びる。


「あれは…」


チューブラインを確認すると光の柱の中にミイナがいるのがわかる。


背中に翼の様な魔法陣、彼女の場合は錬成陣。


飛行機のように前方への推進力を生み出す錬成陣。


そこにマギアアークのシステムである押し出す魔法を合わせて一気に宇宙空間まで飛び出す算段だろう。


だがクルルはそこに思わぬ錬成陣があることに気付いた。


手足に沿って帯のように描かれた錬成陣。


「まさか…ミイナ自爆する気じゃ…」


「え!?まさか!?」


彼女はマスターに創られた人形。マスターの為に働き、尽くし、死ぬことを幸せとしている。


それなのに、マスターとは関係ないのに、自爆してまでもアークの落下を阻止しようとしている。


「ミイナ!自爆はやめて!!」


クルルは思わず念話と同時に叫んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ