アイツとあいつ
夏の夜の空気を乗せた風が窓から教室へと入っていた。その教室には人影が1つあった。畳を並べて敷いた上に絨毯が敷かれたところで横になり、視線は空いた窓に向いていた。
窓の外は黒い空と月と星がある。横になった人影の視線の角度からは空しか見えていない。
人影は寝返りを打ち暗い天井に視線を向ける。そして目を閉じて音に意識を集中した。
「聞こえていても認識できないのか、認識できないなら聞こえていないのか。以前はもっと……いや、耳以外も使っていたのだろうか」
体の力を抜き、思考の言葉を止める。しかし長くは続かなかった。
「なんだか息を止めているような感じだな。……足音が聞こえる」
教室内は月の明かりだけが照らしている。
足音は次第に近づいてくる。そして足音の主は教室の扉を開けた。足を踏み入れる前に中の様子をうかがう。月明かりの中に動くものを見つけ、それに一瞬驚いた。置かれているソファーの辺りから右腕が伸びて揺れていた。
「こんばんは。夜の木造校舎というシチュエーションでそれはちょっと怖いんだけど」
右腕の主がだれなのかをほぼ確信して、挨拶をする。
「こんばんは。うん、ちょっと狙ってみた」
ソファーの背もたれから顔をのぞかせて魔術師はそう答える。
「電気つける? それともアロマキャンドル?」
孤独は電気のスイッチのそばで尋ねる。
「アロマキャンドルでいきましょう!」
「そう」
魔術師はマッチを擦ってテーブルの上のアロマキャンドルに火を灯した。
「じっとしている分には暑くはないけど、エアコンをつけよう」
上履きを脱いで上がる孤独へ、窓を閉めながら背中越しに声をかける。
「何か作業的なことするの?」
ガラクタの山を見ながら聞く。
「とくにはしないけど、君を抱きしめるとき暑くなくて涼しいほうが気兼ねなく。……暑いからやめてと言われたら悲しいし」
振り返りながら魔術師はそういうと、左手を軽く上げてみせると孤独の腰へ向かって移動させる。そのゆっくりともつかない動きを首を動かしつつ目で追う孤独は言う。
「それなら、もうちょっと前からつけといたほうがよかったんじゃない?」
「気が回りませんで……」
魔術師は右手を孤独の背中に回して抱きしめた。
「そんなに暑いって感じじゃないから問題ないんじゃない? 暑くてもそれはそれで夏らしい感じだし」
「夏らしさか。……君を抱き締めるとなんとも安らぐなぁ」
「そうなんだ」
目を閉じてそういう孤独は、魔術師が少し上半身を後ろに反らせたのを感じ取った。魔術師の次の行動を予測しつつ目を閉じたままでいる。そして予測通りキスされた。
「キスされた」
「君が好きなので」
「……」
そう言われて孤独は魔術師の左肩に額を預けた。
「なんというか可愛いし、髪がいい匂いだ」
「ちょっと顔が熱い」
魔術師は孤独の頭を撫でたいと思ったが、孤独の両腕が二の腕辺りに回されていて腕を上げることが出来なかった。
「エアコンで涼しくなってきたのが感じられる」
「うん。……なんだろうタイミング? 積み重ね?」
魔術師に何度も好きと言われたことがあるが、今回は妙に意識してしまった自分に戸惑っていた。
「タイミング、積み重ね……?? ん?」
「……なんでもない。こっちのこと」
「なるほど、こっちか。どっち?」
「もう、そういうのはいいの!」
「怒られてしまった」
「別に怒ってないけど」
「よかった」
そう言って魔術師が抱き寄せる力を強めたことで首の角度がキツくなって、孤独は額ではなくあごを魔術師の肩に預けつつ足の力を抜いて両腕で体重をかけた。
「ちょっと疲れちゃった」
自分でもどこに疲れる要素があったのか、わからないが孤独はそう言った。
「これは密着感が……俗にいう当ててんのよ! というやつですな」
「そういうわけじゃないけど。重くない?」
「余裕。力を取り戻す過程で、体も鍛えられてしまっているのでね」
それを聞いて、前回などでの虚無と魔術師の会話をなんとなく思い出した。
「そっか、頑張ってるんだね」
「サボってしまったりもしてるけど」
「ふーん。……ねぇ、マッサージしてあげようか?」
孤独は足に力を入れて、両手を上にあげて伸びをしながら言った。
「では、お願いしようかな」
魔術師はそう言うと、フラフラと少し移動してうつ伏せで横になった。孤独は魔術師の背中を見ながら、肩揉みしてあげよう思ったのだけど……と思ったが、マッサージって言っちゃたしと思い直した。
「じゃあ、まずは肩を揉んであげるね」
魔術師の横に座ると魔術師の肩を揉む。
「お、おぉ、くすぐったい気もするけど、いいなこれ」
「これって凝ってるの? なんだか硬いけど」
「鍛えてるんで! と、言いたいけど、たぶん凝ってる。かなり気持ち良い」
思ったより反応が良くて孤独は自然と口元が緩んだ。
「ふふっ、もっとしてあげるね」
「よろしくお願いします! 背中の方もぜひ!!」
そう言われて背中に手をずらしたが、やり難さを感じて魔術師の腰のあたりに体重があまりかからないように座ってマッサージを始めた。
「背中も硬いんですけど」
「背中も鍛えて……なんでもないです」
「どう?」
「とても気持ちがいい。それに……」
「それに?」
「腰が君の体温で温められて、それに柔らかさも相まってとても素晴らしい」
「それは言わなくてもいいんじゃないかな」
ため息交じりにそう言いながらも背中のマッサージを続ける。
「いやいや、君だからこそこんなに効くわけで。僕は魔術師なのでね、そういう精神的な部分は人より影響が大きいのだよ」
「これでも?」
孤独は足の力を抜いて体重をかけた。
「ご褒美ですか?」
「まったく、もう」
深いため息を吐きながらも背中をマッサージし続ける。
「なんだかすごく楽になった感じがするよ。ありがとう、気持ち良かっ……たよ」
魔術師の台詞の途中で教室のドアが開いてエタナルが勢いよく入って来た。
「こんばんは……えっと、お邪魔知っちゃったかしら」
薄暗い中で横たわる魔術師に孤独が座っている図を見てエタナルは目をそらす。
「こんばんは、いや、たぶんエタナルさんが思っているのとは違うよ?」
「こんばんは、マッサージしてただけですよ? ほら、こんな感じに」
孤独は上半身を横に曲げてエタナルに魔術師の姿がよくみえるようにした。
エタナルは、一度チラッと見てからもう一度よく見ると笑いだした。
「あ、あはは、なんだ。気持ちよかったとか何とか言っているから、てっきり……」
「自然と口に出てしまうくらい凝りが解れて気持ちが良かったから仕方あるまい。さて、今度は僕が君をマッサージしよう」
「えっと、私は大丈夫」
孤独は魔術師の腰から絨毯に座り直して言う。
「遠慮せずに……肩と言わず背中と言わず色々と」
そう言いながら両手で怪しい動きをする。
「これは孤独ちゃんが危険だわ。このケダモノを縛るものないかしら?」
エタナルは低い声で呟くように言う。
「いや、あの、冗談だよ。声が本気っぽくて怖いんだけれど」
「あそこのガラクタの山を探せばあると思います」
「ちょ、君まで……って、2人とも冗談だよね。なんだか鳥肌が……スプラッタ―系のホラー展開とか」
「ふふっ、なんだか私も鳥肌立ってきた。……というか、寒い気がする」
孤独は表情を緩めて笑顔を見せつつ腕をさする。
「もちろん冗談だけど。どうしてエアコン……冷房点けてるの?」
エタナルのその問いに魔術師と孤独は顔を見合わせた。
「夏だし……ねぇ」
魔術師に言われて孤独は首を縦に振る。
「もう秋だよ。それに今日は結構涼しい」
困惑顔でエタナルは2人を見る。
「あれか……現実における時間の経過。とりあえずエアコンは止めよう」
魔術師はリモコンでエアコンを止める。
「どういうこと?」
「現実の世界とこの世界で時差が出るのはそれなりによくあることなんです」
答える孤独を見ながらエタナルは首を傾げた。
「今回この世界が紡がれ始めてから、現実ではそれなりに時間が経過していて季節が変わったということ。登場人物のやり取りでは基本的には時差は無いけど、背景は時差が出やすい。紡ぎ手の個性かなぁ……良いのか悪いのか」
「ある意味、紡ぎ手はあなたでしょ」
「あははは」
自嘲気味に笑う魔術師を見つつ、エタナルは少し考えて首を振る。
「よくわからないけど、この世界ではそういうものなのね」
「そういうものです。あぁ、一応言っておくけど、あえてだからね」
「難しく考えずに、そういうものと思っておくことにする」
エタナルはそう言いつつも頭の片隅で考え続けている。
「さて、とりあえずエタナルさんも座りましょう。どうぞどうぞ」
「あぁ、うん」
魔術師も孤独もソファーに座っていないのでエタナルも適当に置いてある座布団を一つ借りて座る。
「お二人とも寒さは大丈夫ですかな」
「あたしは大丈夫」
「私も」
「じゃあ、僕も」
正方形のテーブルを囲んで改めて座る三人。
「ねぇ、気のせいか急に寒くなってない?」
「確かに……ちょっと寒い。これはつまり……」
エタナルに応えつつ魔術師に視線を向ける。
魔術師はテーブルのアロマキャンドルを見る目を細めて頷く。
「うむ、これは霊障的なあれですな。聞いたり読んだことがある……霊的なのが近くにいると温度が下がると」
「そ、そう……なの?」
孤独は予想外の魔術師の台詞に戸惑う。
「そういう展開なの?」
エタナルは周りを見回す。
「耳を澄ますと足音が聞こえないかい?」
「本当じゃん、聞こえる。ちょっと大丈夫なの?」
「……」
孤独は魔術師の様子を窺う。足音の主が虚無であると思っているけれど、魔術師の台詞から何か妙な展開になるのだろうか? とも考えて。
「…………。大丈夫です。足音の主は虚無さんなので! まぁ、ある意味似たようなモノだけど」
「わかってはいたけど、どうしてそんな思わせぶりな感じを出してるの?」
「急に寒くなったから……つい」
2人のやり取りを見てエタナルは大きくため息を吐いた。
「なんだ、寒くなったのは例の時差か。変な冗談で期待しちゃったじゃない!」
「期待してたのか」
「だって、夜の古い木造校舎なうえにアロマキャンドル……蝋燭の明かりだけってシチュエーションだし」
「確かに。……私が来た時、この人ソファーから手だけを見せて振ってたりして悪趣味なことしてたんですよ」
「舞台装置というやつですな。効果的、効果的」
というやり取りをしている内に足音は教室のドアの前に辿り着き、普通にドアを開けた。
「よう、こんばんは」
「こんばんは」
「やっぱり虚無さんだった。こんばんは」
「こんばんは。期待はちょっと残ってたんだけどなぁ」
そんな挨拶を返す3人を眺める。
「今回も電気は付けずにそれを使うのか」
「夜の古い木造校舎感を出そうかと……思ってみたり。ロマンチックとホラーの紙一重の探求です」
「そういう意図だったの?」
「さて、どうだろうか」
孤独と目が合うと魔術師は照れて目をそらした。それを見て孤独は姿勢を変える感じで、さりげなく魔術師の左手の近くに右手を着く。その気配を感じつつ正面の窓から見える月を見ながら、孤独の指に触れて軽く絡める。それに対して孤独も同じように返す。そのやり取りはアロマキャンドルの光の中では暗くてよく見えない。
「俺はいいんだが、お前らは寒いんじゃないか? エアコン……暖房点けとくぞ」
リモコンを探す虚無に、エタナルは意外そうな口調で言う。
「へぇ、優しいじゃん。今までの印象だと、お前らどうでもいいって感じだと思ってたけど」
そう言ってリモコンを差し出す。
「おまえがリモコンを持ってるなら俺が点ける必要はないな」
そう言って窓際の机の椅子を引いて座る。
「点けるけど……。なんていうか虚無君って素直じゃないだけかなぁ」
エタナルはエアコンの設定を暖房にして点けると、虚無の方へ歩いた。
「なんだ?」
「虚無君もあっちに行こうよ」
「俺はいいんだよ」
「そんなこと言わないでさ~。それにあの2人たまに雰囲気つくってたり……バランス悪いから」
「俺でバランスとやらを取る気か。……バランスとやらはどうでもいいが、今のあいつの確認はしておくか」
虚無はエタナルを置いて歩き出した。その後ろ姿を見て、さっき『優しいじゃん』と言ったことを意識しての反応だと思い、エタナルはなんだか虚無が可愛く見えた。
虚無は窓を背にして魔術師の正面に座る。エタナルも孤独の正面に座った。
「この配置的に降霊術の類ですかね。こっくりさん的な……」
「使うのはガラクタの山を探せばありそうだね」
孤独は後ろを向いてガラクタの山を眺める。
「ところで最近はどうだ?」
虚無は話の流れに乗らずに魔術師に尋ねた。
「……力は戻ってきているけど、色々サボったりで戻り悩んでいる感じがするかな」
2人の真面目そうな口調に、孤独とエタナルは様子を窺うように口をつぐんだ。
「言わなくてもわかっているだろうが、アイツだってサボることはあった」
「意志の強い人間ではないからね。ある意味では逃げだった。あの精神状態に立ち向かったといえばカッコいいけど、逃げだった」
「その逃げ方がキツい運動。体力を使い果たして死ぬのなら自分を褒めてやれる、認めてやれる。終ぞそんな時は訪れなかったが。それもあったが体の感覚のズレを把握して気にならないようにしようとも考えていたな」
「自分のことではあるけど、彼は僕に理想を詰め込み過ぎだった。……そうか、中学卒業時が基準だった彼にとってはあの記憶力を持った僕に変な理想を抱いてしまっても仕方ないか」
魔術師は哀し気な表情をして目線を下に向けた。
「中学卒業時が基準?」
エタナルは気になって口にした。
「エタナルさんが知っていたかは分からないけど、中学生の頃の僕は本当に勉強出来なくてね。それが高校生になってからは……。改めて習ったからというより、なんで今まで解らなかったんだという感じで……その上、物覚えもかなり良くなった。その差は中学校生活は僕にってストレスが振り切っていたからだと思う。でも、一応言っておくけど、今の僕はそれが最悪な日々だったとは思っていない。思うのは、もっと力を抜いて楽に出来ればよかったな。という感じだし、当時の僕の力不足だ」
「そんなこと、当時のエタナルにも、他の人間達にもどうでもいいことだがな」
「そりゃそうだ。……虚しいがそうだね、解ってる。だからかな、あの頃も今も誰かが憎いやら恨めしいなど思ったことが無い。自分の力不足……ただそれだけだ」
「あたしのこと恨んでもいいよ?」
「難しいな。それに好きだった人には特に。……ぅ、うぅん」
台詞の途中で孤独の視線を感じて、唸りながら首を振る。
「……」
「彼の好きだった人にはね。あの頃の始まり、僕という魂を失くした時に僕は一度死んでいるわけで、復活した僕にとっては前世であって……ねぇ」
孤独は何も言っていないが、魔術師は言い訳のように言う。
「じゃあ、あたしたちは前世からの……ってやつじゃない?」
言い訳口調の魔術師をエタナルはからかう。
「いやぁ……僕は僕として」
魔術師は孤独へ横目で視線を向ける。
「ほら、またどさくさに紛れて雰囲気つくろうとしてる」
エタナルは虚無に言う。
「雰囲気か……。力を取り戻しつつも、アイツとは雰囲気は違うな」
「彼は哀しみに満ち溢れていたからね。……自分を演じようとするのと、自分でいるということの違いとも思えるかな」
哀しげな目で口元にささやかな笑みを浮かべた。
「その雰囲気は近いものを感じさせるな」
「そりゃどうも……基本、普段の彼はこんな感じだったか」
「どことなく儚い感じがする」
エタナルはまじまじとその表情を見て言う。
「精神面において誰かに助けられたという思いが無い果てに確立されたのが彼だからね」
「なんだか闇を抱えてそう」
「闇を抱えようと纏おうと、憎いやら恨めしいを育んでいない。深い深い闇があっても、そこにあるのが、世間一般でいう悪というモノとは限らない」
魔術師は窓から見える月を見ながらそう言った。
「その彼はそうだとして、あんたはどうなの?」
エタナルの問いに、魔術師はチラリと孤独を見てから答える。
「僕ですか……ダメ人間ですかね。悪意やらというよりはダメさです!」
「なんで自信に満ちた感じで言ってるの?」
「そりゃ、ダメダメだからですよ。ねぇ」
魔術師は孤独に同意を求める。
「場合によってはグイグイ来るけど、そうじゃない時はどうしちゃったのかなと思うこともある……その辺?」
「その辺も含めて、臆病なので状況が読めないと考えてばかりになってしまう」
そう言いながら孤独と絡めている指へ視線を向ける。
「そうなんだ」
孤独も絡めている指に視線を向ける。喋っている間も魔術師は指を時折動かしていて明らかに自分のことを意識しているのを感じていた。
「他にも自力で何とかしようとし過ぎる所もな」
虚無は興味無い感じに付け足す。
「みんな忙しいし、人に迷惑をかけるわけには……それに、僕なんかを助けてくれるはずがない。……とまでは思わないけど、結構苦手になってしまっていて。どうにも」
「そういうのは逆に迷惑になるし、周りの人が申し訳ない気持ちになったりする場合もあるよね」
エタナルは思ったことを率直に言った。
「うん、だからダメ人間なんですよ」
魔術師はどこか哀し気に笑いながら言う。
「……なんか、ごめん」
エタナルは説教臭いことを言ったと思いつつ謝った。
「こんなところもダメなところかなぁ。わかってはいても成るようにしか成らない。でも、出来るだけ気を付けたいものだ。そう、あんまりダメなところを掘り下げてはダメですな!」
「そうだな、ひねくれ者のお前は真面目というか親身になってという類の説教は効き目が薄い」
「効き目が薄いというのは語弊がありますなぁ。こう見えてお目目は良い方なので説教というほどしなくても伝わるというだけで、それに説教されるようなことは自分なりに考え尽くして解っていることが多いし。僕に限ったことじゃないけど、下手な説教より好きな人の言葉の方が効果テキメンですよ!」
そう言い終わるとチラリと孤独の顔を見る。
「何だかやけにアピールしてくるね」
「なんだろう、どうしてかいつも以上に君を意識してしまう感じがする」
魔術師は気持ちを落ち着けてその理由を考えた。
「ところで、お前の感覚だとどれくらい視る力は戻ったんだ?」
「……感覚的には半分くらいかな。! ……そうか、知りたいからか」
何かに気づいたらしく一瞬顔を上に向けてから孤独のほうへ視線を向けた。
「え? なに?」
「ちょいと、ガラクタの山の奥の方へご一緒してもらえるかな?」
「あーえっと、うん。いいよ」
孤独は、虚無とエタナルに視線を向けてから応えた。それを聞いて魔術師は絡めていた指をほどいて立ち上がるとガラクタの山のスペースを進んでいった。
「ちょっと行ってきます」
孤独もすぐに後を追った。
「なんだろう、このバレバレのちょっと二人きりになろうといういう茶番は。孤独ちゃんも苦笑いだったし」
「あいつも解っていてやっている節がある」
「ふーん。ところでさっき言ってた、みる力って視力?」
「視力……目で見るというのの割合はかなり大きいが、それ以外からも読み取るという感じか。誰でもやっていることだな。アイツは一時期、常人の域を超えていたことがある」
「霊感とかそいうやつ?」
「そういうのとは違うな。観察と洞察から読み取るという類のものだ。……」
虚無は更に何か言いかけたがやめた。
「その半分ってどうなの?」
「それなりだな。今のあいつじゃ、孤独に出会った頃にあった力程度も取り戻せるかも怪しい」
「ダメ人間だから?」
「いや、アイツと今のあいつじゃ求めるものが質が違う。内か外か……そう単純でもないが」
「内か外ねぇ……。ん?」
エタナルは孤独の声に気づいた。位置なのか声を抑えているのか内容は聞き取れないが、楽しそうな口調なのは感じ取れる。
「聞き耳を立てるのは野暮じゃないか?」
「それはそうだけど、気になるじゃない。孤独ちゃんの身に危険があったら大変だし」
「物好きだな」
「……じゃあ、虚無君のこと話してよ」
「特に話すことはないが」
「なんでもいいよ。普段何してるかとかで」
虚無はため息をついてガラクタの山の方を見てため息をついた。
「……まぁ、いいだろう――」
虚無は面倒くさそうに話し始めた。