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木造校舎にて  作者: 淡月優水
6/13

くつろぎ

 季節は冬ではあるが寒さはそれほど感じられない夜だった。月明かりの差し込む廊下を一人歩く影があった。古い木造校舎ではあるが電気は通っており、天井の蛍光灯は明かりを灯すことが出来る。しかし、廊下を歩く影の主はスイッチの場所がわからないので月の明かりを頼りに歩く。

 足を止めて、左に顔を向けると窓の外に月が見える。月は少し欠けていた。視線を足元に向けるとありふれた上履きを履いた自分の足が見える。そこから延びる自分の影を追い、壁につくる自分の影を見た。

「電気点けなくても歩けるけどちょっと怖いかな」

 月明かりの中、電気のスイッチを探しつつ歩くが見つからない。古い木造校舎だからのなか意図的なのか見つけられずに歩を進めていく。

「久しぶりってこともあって、教室の位置がいまいちわからないんだよね」

 方向を間違えていないか不安になり後ろを振り向いてみる。そこには歩いてきた廊下があった。それほど長い距離を歩いたわけではないが、月明かりの中で距離感があやふやに感じられた。

「大丈夫、確か次の次の次の教室だったはず」

 ドアの隙間から漏れる光が見えないので確信が持てず、高まる不安を押さえつつ歩く。通り過ぎた教室を意識して、ひょっとしてここだったり? と思ったりしていた。二つ目の教室を通り過ぎて次の教室のドアの前に立つ。

「……」

 ドアをしばらく見つめた後、静かに開けた。

 教室の中は暗かった。教室内の電気のスイッチは把握していたので迷わず手を伸ばした。

「こんばんは、久しぶりだね」

 スイッチに指が触れる前に聞き覚えのある声が聞こえて先に挨拶を返す。

「こんばんは、お久しぶり。……電気が点いてないのは何か意味があるの?」

「あるといえば、あるかな」

 暗闇に炎が灯り、二つの炎に分かれて一つが消えた。

「ろうそく?」

「アロマキャンドルってやつです」

 アロマキャンドルに照らされた魔術師はそう答えた。

「ロマンチックな感じだけど、場所的にホラーをイメージ?」

「僕はホラーが好きではあるが、ロマンチストでもあるのですよ。君が最初に来てくれて正直、よし! と思っているのさ!」

「電気点ける?」

「雰囲気というのは大事でありますので、もうしばしお待ちを」

「冗談だよ」

 孤独は電気を点けずにアロマキャンドルの方へ歩き出した。

「特に何もないけど、足元には気を付けてね」

「ありがと」

 孤独は忠告通り歩くペースを少し落として足元に注意を向けた。そこから左に視線を向けると立ち止まった。

「いや、まぁ片付けというか。こんな感じにね」

「なんていうか、思いっきりくつろげそうだね。それでいてガラクタの山もいい感じで。でも、ひとこといい?」

「なんでしょう?」

「こういうのは一人でやらないで私と……私たちと一緒にやらなきゃじゃない?」

「……うん」

 魔術師はバツが悪そうに頷いた。

「もっと頼ってよ」

「うむ、そうだね。それを踏まえて……正直なところ僕は君を感じられないと弱る傾向にあるようだ」

「それならもっと、ぐいぐい来てよ」

「僕、シャイだし」

「シャイにしてはこういう演出したり……よくわからない」

「状況だったり、流れだったりで……星のめぐりあわせだったり、頑張りだったり。色々あるんですよ」

「この状況の今は?」

「どれに該当するのかなぁ……それは置いておいて。この雰囲気で二人きり。君はどうかな?」

「さぁ、どうかなぁ。私もシャイといえばシャイだけど」

「そうか。僕はこの雰囲気の中、好きな君を前にすれば」

 魔術師はそう言うとゆっくりと歩いて孤独に近づく。孤独はその動き目で追いながら動かなかった。

「なんていうか、私に選択肢を与えてるよね」

「そして君は拒まなかった」

「まぁ、あなたはずっと私のこと好きでいてくれてるみたいだし、危害を加えてこないし……変態だけど」

「ではでは抱き締めさせてもらおうかな」

「もう、そういう確認の台詞は間が悪くなったりするんだよ」

「小心者なんで」

 間の悪さのなか、魔術師は孤独を抱き締めた。

「思いの外、力強いじゃない」

「おっと力を入れ過ぎましたかな」

「これくらいでいいんじゃない?」

「君への恋しさが結構高まっていまして、ついつい力が入ってしまいましたが。……おや、足音が。この走っている感じは、エタナルさんか」

「っぽいね。……ところで、あなたの右手が下がって来ている気がするんだけど」

「おっと、気付かれてしまいましたか。君のお尻を目指していたのだけれど、間に合わないようだ」

 魔術師は腕の力を緩めて、腕の中の孤独の目を見てから唇を軽く重ねた。そして 魔術師は名残惜しそうに孤独から離れた。

「なんだか油断した隙に唇を奪われた感が」

 孤独は笑顔でそういった。

「どうにも君を好きという気持ちが我慢できなかった」

 自分の台詞と孤独の笑顔に照れて、孤独に顔を見られないように顔を逸らすが面白がって孤独がそれを追っている。

「こんばんは……なに二人で雰囲気つくってるの? ひょっとしてあたし邪魔しちゃった?」

 人の気配を感じつつドアを開けたエタナルは、二人の様子を見て聞いてみる。

「ご想像にお任せしますよ。おっと、そうそう、こんばんは」

 魔術師はさりげなく口元を隠して挨拶をする。

「こんばんは、そんなことないですよ」

 そんな魔術師を横目に、にこやかに孤独は挨拶をした。

 訝しげな表情を浮かべながらエタナルは電気を点けようか迷ったが、アロマキャンドルで照らされた雰囲気を味わうことにした。

「ところでこれ……教室って感じじゃなくなってない? 妙に広いこの教室の半分が畳敷きになっているし。あ、茶道室を意識して……絨毯も敷いてあるから違うか」

「椅子に座るのもいいけど、足を延ばして座りたくもなる。そのまま床に座るというのもはしたない……冬は床冷たいし。というのもあって畳みでございますよ」

 魔術師はそう言うと、2人を畳みの上へ促すように手の平を上にした。

「アロマキャンドルから離れるとやっぱり暗いね」

 魔術師とエタナルの視線を意識しつつ上履きを揃えて置き直しながら孤独は言う。

「暗がりに何かいるとかないでしょうね?」

 エタナルはガラクタの山を見ながら孤独に倣って上履きを置き直しつつ聞いた。

「とりあえずテーブルに気を付けてくださいませ」

 魔術師も二人に倣って上履きを置き直して注意を促した。

「とりあえず何かいるとしたら変態かもしれないですよ」

「あれのこと?」

「暗かったり見えなかったりするのをいいことに……」

「あれって僕のことですかね」

「他にいる?」

「う~ん、いないようだ。まぁ、狙いは孤独さん一択だがね! 誰でもいいというわけじゃないのさ」

「ちょっと複雑だわ。あたしには魅力がないってわけ?」

「そういうわけじゃ……うーん。なんというか、孤独さんじゃないとダメというやつですな」

「ぁ~、何が言いたいかはわかった」

 エタナルは首を横に振りながら言った。

「あ、あれ、このテーブルにもアロマキャンドルがのってる」

 棒読みな声色で心境を隠しながら話題を変えようとする。

「ははは、よく気付いたなぁ。では火を灯すとしよう」

 同じく棒読みな声色でそういうと、不自然に両手を重ねてアロマキャンドルに火を灯した。

「ごめん、なんだかライターが見えちゃった」

「え? 魔術師っていうくらいだから手から火くらい出せるんじゃないの?」

 エタナルは思いっきり怪訝そうな顔で聞いてくる。

「手元から火は出せてたじゃないですか。って、まぁ僕はそういう系のじゃないので」

「ふーん、確かに今のは手品にしても下手過ぎだし」

「そりゃぁもちろん元々僕は手品は出来ないので」

 自信を持って言う魔術師を、孤独は手招きをして呼ぶ。

「なんだい?」

「ごめん、私が余計なことを言ったから」

「大丈夫、大丈夫。むしろあれでスルーされたら変に気まづい感じになったかもしれないし。僕が火を出せないの知ってる君なら問題ないけど、知らないエタナルさんに火が出せると信じちゃったら。どう誤解を解くのか……」

「う~ん、よく考えれば私が言わなくてもバレバレだったし、最初から問題なかったかも」

「そ、そうか。多少は手品の練習もした方がいいのかもしれん」

 エタナルはヒソヒソ話している二人に腕をさすりながら言う。

「なんだか急に寒くなってきた気がしない?」

 それを聞いた二人も寒さに気付いた。

「本当、ちょっとこれは真面目に寒いよ」

「ここはエアコン……いやストーブにしよう。エアコンだとこの広さが温まるのに時間が掛る」

 魔術師は素早くストーブを運んできて点けた。

「シンプルで無駄のない動きだったけど、地の文が不足してる気がする」

「いや、メタ的な部分はここでは言いっこなしですよ」

「何の話?」

 エタナルは眉をひそめて聞く。

「この人の使う魔術関係……です」

「へぇ、それは興味深い」

「既にそれっぽいことは以前にも話した気もするけど。……とりあえず、あれは何に見える?」

 魔術師が指さした方を見てエタナルは答える。

「ガラクタの山」

「うん、そうだね。で、なにがある?」

「色々……」

「そう、色々ある。その色々ある中から、あってもおかしくないものを取り出せるという魔術。教室に持ち込んだガラクタの山という下準備によって取り出せる範囲は結構広い」

「でも、あそこにはある物しかないじゃない」

「この世界で実際見ているエタナルさんにはそう見えるかもしれませんな。とりあえず、あまり追及して確認されると僕の魔術が破られてしまうので程々でお願いします」

「まぁ、いいわ。それより早くストーブ点けようよ。寒い」

 イマイチ納得できないという感じだが、寒さをどうにかしたいという気持ちが勝った。

「このつまみ? をグリグリ回して、ここをポチィィーと押しているとほら火が付いた」

「台詞で説明ご苦労様」

「いいじゃないですか! でも、でもまぁ……」

 魔術師は無言でガラクタの山に近づいて、ヤカンとペットボトルに入った水を手に持った。そしてチラリと孤独をみるとペットボトルを下に置き、人差し指を口に当ててしゃべらないとアピールした。

「なにやってるの?」

「声を使わないで伝えようとしてるんだと思う。ジェスチャー? 静かにってことかな」

 離れたことで表情がよく見えない孤独は体の動きに注意が向いていた。

 ヤカンも床に置くとペットボトルのふたを開けて中の水をヤカンに注ぎ込む。三人とも無言なので注がれる水の音だけが大きく響いて聞こえる。

「どうですかね」

「みんな静かにしてたから、ヤカンに水が入る音がよく聞こえた」

「どうして、その音を聞かせたかったのか意味不明だけど。ジェスチャーは手品よりは上手いと思うよ」

 エタナルはどこか気の毒そうな表情で言った。

 ジェスチャーの意味がうまく伝わっていなかったのと、もともと手品が出来ないとはいえかなり残念な感じに思われていて、必要以上に精神的ダメージを負っていた。

「動作以外の部分もではあるけど、この世界では僕らにもそれはみえないからメタ的な部分は気にしないようにいこう」

魔術師はさりげなく孤独の傍へ行き小声で言った。

「つまり、普通にだね」

「そうそう」

 ストーブにヤカンを乗せ、三人はストーブの傍に座る。

「暗い中だからというのもあるけど、ストーブって明るいね」

 エタナルはストーブをじっと見つめながら言う。

「なんだかキャンプファイヤーみたいにも見えますな」

「そういう風に見ると何だかワクワクしてくる」

「キャンプファイヤーって、周りで踊るんだっけ?」

「さぁ? 私は踊らないけど」

 孤独はワクワクはしているが踊る感じのではなかった。

「あたしも踊らないよ」

「じゃあ、僕も踊らない。……それに室内だし火の側で暴れたら危ない」

 危ないと言いながら、手をデタラメに振って暴れてる感じを見せる。

「踊っている……いや、なんか怪しい儀式をしてるみたい。ひょっとしてこれも魔術的な何かなの?」

「そうなの……かな」

 話と魔術師のよくわからない動きに気を取られていて誰も近づいてくる足音には気付いていなかった。

「よぉ、こんばんは。……何の儀式だそれ?」

 教室のドアを開けて挨拶をした虚無は目に入った光景に対して聞いた。

「火の用心の儀式です。火の近くで暴れると危ないのでやめましょう。というのが心に伝わるはず」

「反面教師ってこと?」

「そういうことです。さぁ、ご一緒に!」

 孤独とエタナルは顔を見合わせて、首を傾げながら両手を振り始めた。

「お前ら正気に戻れよ」

 そう言うと虚無は蛍光灯の電気を点けた。

「……正気だけど、この場のノリというか……ねぇ」

「うん」

 孤独はエタナルに同意しつつ魔術師を見る。

「きっとそれが正解だった」

 三人はそれぞれ両手を下におろした。

「客観的……あたしが虚無君の立ち位置だったら引いてそうだけど」

「大丈夫さ、真面目に本物みたいにやってたらそうかもしれないけど」

「そりゃ、まぁ……」

 エタナルは虚無に視線を向ける。虚無は机の上のアロマキャンドルを見ていた。

「……」

 三人は虚無に視線を向けている。

「ねぇ、あれって引いてるのを悟らせないようにしてるとかじゃないよね」

「虚無さんはその辺は寛容というか興味ないと思うから大丈夫だと」

「でも本当のところはどうなんだろう」

 アロマキャンドルから視線を外した虚無は蛍光灯のスイッチを見ながら言う。

「別に引いてはいない。そいつが変な動きをするのは珍しくないしな。人目があるところでは控えるが、それなりに慣れた相手だったりすれば……。電気は消しとくか?」

「なんだか恥ずかしくなってきたので消していただけると、ありがたいです。はい」

 魔術師は頬を人差し指で掻きつつ、孤独をチラッと見て言った。

「ん?」

 孤独と目が合うと同時に蛍光灯の明かりが消えた。アロマキャンドルの明かりがあるので、目が慣れるまで見えないということもない。アロマキャンドルの明かりの中、目が合ったままの孤独は優しく微笑んだ。

「……」

 魔術師は頬を緩めながら右手を自分の胸に当てた。それに対して孤独は右手でⅤサインを出した。

「え? なにしてるの?」

「ジェスチャーですかね」

「……見ればわかるけど、なんでジェスチャー?」

「言葉では伝わらないことが伝わったりもするってやつです。ね!」

「そんな感じだったのかも。って、あれ? 虚無さんもこっち着てストーブで温まりませんか?」

 無造作に置かれていた椅子を持って窓の方へ歩く虚無へ孤独は声をかけた。

「俺はこれくらいの寒さはどうということはない」

「もう、寒くなくてもいいからこっち来なよ」

 エタナルは手招きをする。

「確か国が変わればそのジェスチャーは追い払うだったりするんだったか」

 虚無は興味なさそうではあっても話はちゃんと聞いていた。

「虚無君にはこのジェスチャーはどんな風に伝わった?」

「呼んでいる」

「じゃあ、こっちに来なさい」

 相変わらず興味なさそうな顔をしているが、エタナルの手招きに応えた。

「虚無さんとあなたって似てる気がする」

「否定は出来ないな」

 魔術師は苦笑いをした。

 四人はストーブの近くに座った。

「で、何をしよう。寒い、四人、暗い……四隅の怪でもやりますか」

「よすみのかい?」

「うん、四人が部屋の四隅にそれぞれ立って、一人が壁に沿って進んでその先にいる人にタッチする。タッチされた人は同じ様に壁に沿って進んでその先にいる人にタッチするってやつ」

「……最後の人が最初の人のところに行ったらゴール? 最初のところに誰もいないし」

 孤独は冗談なのか本気なのかわからない口調で言った。

「この怪談では五人目が現れる」

「大丈夫かなぁ、五人も書き分けられるのかな」

 孤独は視線を下に向けて小声で心配そうにつぶやく。

「とりあえず、ツッコミ待ちなのかなと思って言うけど、四隅って……そことかあそことか隅って感じじゃないんだけど」

 エタナルはガラクタの山を指さす。

「無理に隅に行こうとすると増えるどころか減っちゃいそうだね」

 魔術師は真面目そうな顔で言った。

「なにサラッと怖い事いってるの? 雪崩? ガラクタのなだれで生埋め」

「エタナルさんがツッコミに目覚めたみたい!」

「違うし!」

 孤独にもいい感じにツッコむ。それによって、エタナルと孤独はお互い距離が縮まったのを感じた。が、そもそもお互い微妙に距離感が掴めていない感じだったりもする。

「とりあえず色々と危ない感じなのでやめてきますか」

「そうだね、何者かの手が変なところ触ってきたりするかもしれないし」

 孤独は魔術師をチラリと見る。

「この手のことですかな?」

「そうとは言いきらないけど、怪しいなぁ」

 両手の手の平を向ける魔術師に孤独は目を細める。

「そういえば、いつだったか、秘密基地がどうとかいってたけど、どうして学校を選んだんだっけ?」

「なんとなくだったかな」

 エタナルの問いに視線を上に向けて思い出そうとするが上手く思い出せなかった。

「何らかの未練があるんじゃないか」

 いつの間にか寝転んで窓の外を見ていた虚無が視線をそのまま動かさずに言う。

「未練……か。…………。そうだね、そうかもしれない。今の僕なら勉強は容易い事なのか知りたいというのがある。中学生の時はそれはそれでストレスは振り切っていたからね。本当、そこから解放された後はどうしてこの程度のことが解らなかったのかと思ったものだ。そのあと壊れましたけど」

「壊れたといっても周りから見ればまともだっただろう」

「そこは、そう……頑張りましたから。学校というところイコール振り切ったストレスという感じがする

今この頃」

「そうなんだ、楽しくなかったんだ」

 エタナルは表情を曇らせた。

「楽しくなかったわけじゃない……と思う。僕は真面目で学校が厳しかった。それと、周りが思う僕を全うしすぎたから。そう考えると僕は……中高と自分を演じていたのか。中高で別物だったが」

「中学では周りが思っていたであろうお前、高校では自分の記憶にある自分を演じていたという感じだな」

「そんな生き方でしたな。高校を卒業して自分を演じる時間が減って、自分を再現するという時期に……なんですかね」

「アイツは最終的に自分を、再現というカタチで創り上げた。治るではなく自分に組み込むというカタチに。色々と補強やら加えつつ。離人症の類……治ったその先が今のお前というわけだが」

「てへ」

 魔術師は頭を掻いて、面目ないという風を装う。

「誰かに辛さを理解されることもなく、永遠の時の中を考え続けて、体の感覚のズレを合わせようと無理な運動をしたり。そんなことが出来る程度の余裕はあったではなく、耐えられないからこその努力」

「あの精神状態が常にだったのかと思うと、自分のことながら耐えられませんわ。いつだったか倒れちゃった時にそんな感じになって……少しの間、久々の絶望感に苛まれた」

 両頬に手を当てて、思い出したのか顔色が悪くなる。

「ちょっと、大丈夫?」

 孤独は心配になり声を掛けながら、頬に当てている魔術師の左手に自分の右手を添えた。

「あぁ、振りですよ振り……ぬぁ、これは」

 魔術師の目から涙が零れた。

「大丈夫じゃないんじゃない」

「いや、これは……なんで。なんだこりゃぁ! ……率直にこの話題で君に優しくされて嬉しかったという涙ですかね」

 解説を自分でするが声が震えていた。

「あんたも色々大変だったんだね」

「人それぞれ大変なことはあるものですよ。人から見れば大したことない事でも当人にしたら……という」

 目の涙をぬぐいながらいう。

「それにしても虚無君、結構しゃべるじゃない! なんかいつも一人で窓の外見てるイメージが強かったけど」

「俺はコイツじゃないアイツのことは気に入っているんでな」

「あー、そう言う感じか」

「どういう感じだ?」

「ねぇ」

 虚無の問いにエタナルは、孤独に同意のようなものを求める。

「あぁ、うん」

 何か通じたらしく孤独は頷く。

「えっと、それは僕ではないんですよ。シクシク」

 魔術師が悪乗りする。先ほど零れた涙の影響で本気にみえなくもない。

「なんだこの1対3の様な感じは」

 虚無の顔に少し困惑が浮かんだ。

「とりあえず、この話題はこの辺にして。くつろぎましょう」

 魔術師が両手を広げてそういうと、それぞれ思い思いにくつろぎ始めた。

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