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木造校舎にて  作者: 淡月優水
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限界を大きく超える物語は紡げない

 教室の外は暗い闇が広がっている。月明かりのない世界の空には星が散りばめられていた。

 教室の端には机と椅子が無造作に積み上げられている。それとは別に窓側の一角に机と椅子が4つ置かれている。

 教室のドアが開きスイッチを押す音がして教室に蛍光灯の明かりが灯る。教室に入ってきた人影はまっすぐ窓側の机と椅子がある方へ歩いていく。そして一番窓に近い席に座る。

「う~ん、鞄とかそういう感じの持ってくればよかったな」

 人影はボンヤリ呟くようにそう口にする。

「あえて木造校舎という場所を選んでいるが、実際はどんな感じなのかは知らないんだよなぁ。機会があれば見学してみたいものだが……今のご時世どうなんだろう」

 独りごとを言いながら机の天板の下をのぞき込む。

「おぉ、案外いろいろ入っているじゃないか」

 わざとらしい棒読みな声色で言う。

「こんばんは。なんだかすごい棒読みな感じの声が聞こえたけど?」

 親し気な女の声色がそう言う。

「こんばんは。孤独さんは今宵も可愛らしいね」

「そんなことないよ。でも、まぁ……ありがと」

 嬉しそうな魔術師に孤独は微笑みながら言葉を返す。

「さぁさ、僕の隣にぜひとも座ってくださいませ」

 孤独はため息を吐きながらも魔術師の隣の席に座る。

「ここに来るのはずいぶん久しぶりじゃない?」

「うん、ログインして見たら約1年ぶりだったよ。前回の感じはすっかり忘れちゃってて不安でいっぱいだ」

「ログインとか……あなたらしいといえば、あなたらしいよね」

「僕は自由を望んでいるからね。1つの世界に囚われるのは嫌だよ。それと僕は君がいる世界にいたい」

 魔術師は照れくさそうに言い終える。

「ねぇ、足音が聞こえるよ」

「むむ、2人きりの良い感じを邪魔するのは誰だ」

「そこまで良い感じじゃなかったと思うけど」

「いやいや、これからもっと……」

 魔術師が台詞を続けようしていると、新たな人影が教室に入ってきた。

「なにイチャついてんだ?」

「イチャイチャはしてないけど。こんばんは」

 孤独は入ってきた人影に手を振りながら挨拶する。

「おう、こんばんは。ついでにお前も」

「どうも、こんばんはです」

 少し、いじけた感じに魔術師も虚無に挨拶を返す。

「なに落ち込んでんだよ。お前らしくもない」

「だって孤独さんがつれなくて……」

 しおらしさを出して孤独の注意を引いてみる。

「なんでかな……嘘くさい。油断すると変態っぽいことをこっそりされそう」

「いやいや、2人きりで良い雰囲気になった場合とか、そいういう条件がそろってですね」

「そうかなぁ、怪しい。……強引に無理強いしてくるタイプじゃないとは思うけど」

 何かが通じ合ったと思った魔術師は、右手の手の平を孤独に向けてハイタッチを誘う。ため息を吐きつつも口元に笑みを浮かべながら孤独は応え、ハイタッチの音が響いた。

「で、結局イチャイチャを見せられた感じなんだが」

「気のせいじゃない?」

「うん、気のせいだ。イチャイチャじゃないし」

 魔術師のその言葉に孤独は首を傾げる。この場合、魔術師なら照れるか、調子に乗って色々と自分も巻き添えにされると思ったから。

「そう……なのか?」

 虚無も魔術師の言葉に疑問を感じる。

「イチャイチャじゃなくてラブラブだし」

 魔術師のその台詞に、虚無は握り締めた自分の右手をじっと見る。

「ほら、この人バカだし……」

 虚無に湧き上がる何かを感じて、平和的に流そうと孤独はフォローする。

「はぁ……。まぁ確かにこの状況でこいつをぶん殴っても、なんだか変な感じになりそうだしな」

 握り締めていた右手を開いて手を振る。

「どうやら、助けられたようだ。ありがとう! さすが僕の孤独さん。大好きだ!」

「ここは、わたしがあなたを殴るのがベストなのかな」

 孤独は虚無を意識すると素直に魔術師の言葉を受け取るのが恥ずかしくて、なんとなくのベストと思われる答えを提案した。

「思いっきり殴ってやった方が良いと思うぞ」

「いやいや、僕こう見えてか弱いし、死んでしまうよ。って、孤独さんもそんな本気の素振りしないで」

「大丈夫、まだまだ本気じゃないから」

「あの、色々ごめんなさい。僕が悪かったです。許して」

「今回だけだよ。でも形だけ……」

 孤独はそう言いながら魔術師の頭に軽く手の平を置いて叩く真似をした。

「なんつうか、なんでイチャイチャラブラブを見せつけられてんだろう俺は」

 困ったように虚無は右手で頭を押さえる。

「なんだか入り難い雰囲気なんだけど、入ってもいいかな?」

 教室の入り口から女の声が聞こえてきた。

「こんばんは。どうぞ……」

「では失礼します。こんばんは」

「こんばんは……」

 孤独は女に今のやり取りをどこから見られて、どう思われたか微妙に気にしつつ挨拶をする。

「よぉ、こんばんは。えっと……名無しの女」

 虚無は女に挨拶のあとに言葉を続ける。

「その呼び方はちょっと失礼じゃない?」

「前回は、名前を考えておくという感じでしたし」

 魔術師は孤独に向けるのとは違う目で女を見る。孤独はその目の意味を探るけれど、材料が少ないこともあって見つけられなかった。

「そうだったわね。名前……考えてくれた?」

 そう尋ねた女は、魔術師の横顔を見る孤独に視線が向く。

「なんだかんだで、僕はあなたのおかげで永遠という力を手にした。そこで……エタナルさんでどうでしょう」

 女は再び魔術師に視線を戻す。

「エターナルからという感じなのね。良いんじゃない」

「では決まりですな」

 上手く決まって安心したように魔術師は息を吐いた。

「普通に永遠って名前で良いんじゃね?」

 虚無は孤独に意見を求めるが、孤独は苦笑いを浮かべるだけだった。

「僕のネーミングセンスが悪いというのかね?」

 大佐から自称、空飛ぶ島の王へジョブチェンジした方のような雰囲気の声色で尋ねる。

「良くはないよな?」

 虚無は孤独に同意を求めるが、今回も孤独は苦笑いを浮かべる。

「……色々結構考えたんだけど」

 魔術師は頭を掻きながら小声で呟いた。呟きつつ孤独にさりげなく視線を向ける。

「良いと思うよ」

 窓の外を見ようとする動作に紛れ込ませて孤独は魔術師の耳元で小さく呟いた。

「なんだぁ? そのだらしない面は。それが噂に聞く顔芸ってやつか?」

 孤独の行動にデレた表情をした魔術師を、そうとは知らない虚無が茶化す。

「顔芸ねぇ……」

 エタナルは魔術師の顔をじっくり見る。

「あの、あまりまじまじみられると恥ずかしいような……それにもう普通の表情のはずなので」

「あたしの知っている、あなたより表情が豊かね」

「そりゃ、修羅場というよりは地獄を永遠と彷徨ったからね。それに、孤独さんと出会って止まっていた感情面も成長中なのでね」

 嬉しそうな表情の魔術師から、窓のを外を見ている孤独へエタナルは視線を移す。窓から外は見えるけれど、鏡のようにとはいかないけれど教室の中を映してもいる。孤独はその中でエタナルと目が合った。

「昔は表情が豊かじゃなかったんですか?」

 さりげなく目線を雲の様子をみる感じにして外しながら聞く。

「えぇ。……何考えてるのか分かり難い人だったわね」

「そうなんですか」

 孤独は自分の知らない魔術師を知っているエタナルに何かよくわからない感情が湧くのを感じた。

「こいつは基本的に平和に上手く生きようと考えていたぞ」

 虚無は欠伸をしながら口をはさむ。

「あとはすごく窮屈を感じていたよ本当に……。今の僕が強く自由を望む理由の一つはそれでもある」

「へー、自由を強く望んでるんだ」

 エタナルは空いている残りの席についてから言う。

「思い返せば、あの永遠の時の中では、その窮屈を感じていた時間に戻れることを望んでいたけどね。エタナルさんを目印に思いながら」

「あたしをねぇ……」

 真面目のような哀しそうなような表情の魔術師を見て孤独は、この魔術師はバカだけど単純なバカというわけじゃないと改めて思ったりしていた。孤独の視線に気づいた魔術師は息を吐くように笑った。

「なんというか皮肉なものだよ。自由を望む僕が窮屈な時間を望んでいたなんて……。でも、その中に今の僕はいたわけで」

 そこに拍手の音が響いた。

「出たよ、こいつのよくわからない考え」

 虚無は魔術師を蔑むような感じに笑う。

「確かによくわからん。でも何となくそうだったように思える。ずいぶん前に、これで続きを生きられると思ったけど、それだけじゃ足りなかったんだなって最近、強く思う」

「やべぇ、さらに被せてきやがった」

 虚無の笑いに肩の揺れが加わった。

「確かによくわからないけど、この魔術師は本気で言ってるんでしょ? 笑うのは失礼だと思う。ねぇ、孤独ちゃん」

 エタナルに、ちゃん付けで呼ばれたことに驚く。

「う、うん。……この人は変態でバカだけど、結構深く考えてたりもするし」

 孤独にそう言われて魔術師は嬉しそうに照れる。

「変態でバカなんだ……」

 エタナルはそんな魔術師を無表情で眺める。

「否定はしないけど、そこだけチョイスされると何だか……ぐさりと刺さる何かを感じる」

「変態でバカだけど悪い人じゃない……と思う」

 孤独は自分の発言からということもあって魔術師をフォローする。

「おぉぉ! やばい、嬉しい!」

 孤独が味方になってくれたことに素直に喜ぶ。

「基本、こいつの変態の犠牲者は孤独だしな。孤独が良いならいいんじゃね」

 虚無は、すでにこの話題に興味を失っているので退屈そうに言う。

「そうなの? 孤独ちゃんはこの変態に……」

「あ、いえ……。変態と言っても、そんなにどギツイ感じというわけじゃないんですよ」

「そうそう、変態と言っても、かわいいものなんで」

「本人が行っても説得力はないわね」

「う、うぅぅん」

 魔術師は唸りつつ孤独に視線を向ける。

「うーん、うーん……」

 孤独は魔術師の発言に説得力を持たせようと思ったけれど、魔術師が変態だと思う内容を口にするのが恥ずかしくて唸るだけだった。

「まったく2人して何やってんだか」

「なんだか妬けるわ、仲が良さそうで」

 エタナルは両手の手の平を上に向けて、魔術師の変態についての追及をやめた。

「やったぞ! なんとなく僕らは逃げ延びた感じがする」

 そう言ってハイタッチを求める魔術師に孤独は軽く手をタッチした。

「で、これからの展開はなにかあるのか? 変態」

「変態だし、変態的な何かするの?」

 虚無とエタナルは魔術師を変態と呼び始めた。

「いや、えっと……これはいじめですか? まぁ僕には孤独さんがいるので余裕だけど」

「嫌だったらごめんね」

「仲睦まじい2人を弄ってるだけだ。で、これからの展開は?」

 なんだかんだで付き合いの長い虚無は、魔術師の性格を踏まえていた。

「えっと、特に考えてないです……あ、そうだ勉強します?」

「えぇ!? 眠くなっちゃいそう」

「怠いな」

「まったく」

 魔術師の発言に他の3人は賛同しなかった。

「孤独さんが眠くなったら僕がクッション代わりになるので」

「俺はすでに怠いんで椅子になってもらおうか」

「いや、僕は孤独さん限定なんで。そもそも椅子に座ってるじゃないですか」

「あたしは足が怠いから足置きね」

「僕は孤独さんのクッションなので難しいかな」

「私はクッションなくても大丈夫だよ」

「いやいや、クッションが有ると無いとじゃ疲れ方に差が出るものでして、マッサージ機能も付いていますよ」

 魔術師のいうマッサージの意味を読んで孤独は視線を宙に漂わせる。

「あぁ、そういう感じの変態っぽさを出してくるんだ。状況や相手によってはすごい引かれそう」

「ぐ、ぐぅ。はっ!? ぐぅの音が出てしまった」

「いつものことだし私は別にいいけど」

 なんだかんだで孤独は魔術師を甘やかす。

「孤独さん優しい! もう、大好き!!」

 魔術師は孤独を抱き締めたい衝動にかられたが、2人きりという状況じゃないことを意識してその衝動を抑える。

「とりあえず何か勉強するとして何をするんだ?」

 虚無は怠そうに聞く。

「そこは僕の得意教科を……。……」

「得意教科は?」

「……特別得意な教科は無いな。苦手な教科は英語だけど」

「じゃあ英語でいいんじゃない?」

 エタナルの提案に魔術師は困った表情になる。

「いや、申し訳ないけれど英語は無しで。この世界において苦手なことをやろうとすると時の流れが恐ろしく遅くなってしまうので」

「へ? なんで??」

 エタナルはその理屈がわからなくて首を傾げた。

「まぁ、そういう感じだよねぇ」

 魔術師は孤独に同意を求める。

「うん。なんていうか、現状のこの世界の限界を大きく超える物語は紡げない……っていう感じだと思う」

「世界の限界? ……難しく考えてもしょうがなさそうね。そういう世界ということで納得しておくわ」

 エタナルは自分の存在自体をなんとなく意識して言う。

「要は紡ぎ手の経験値やら知識不足だ」

 虚無も一応補足する感じのことを言う。

「ということで保健の勉強はどうだろう?」

 魔術師の提案に孤独とエタナルは目を細めて魔術師を見る。

「絶対に変態的なこと考えてるでしょ?」

 魔術師が変態という予備知識を得たエタナルは率直に言う。

「い、いけませんなぁ、すぐにそう考えるのは。真面目に提案をして……えっと、すいません。……じゃなくてホメオスタシスとか」

「あら、ホントに真面目な感じなんだ」

 少し関心したようにエタナルは魔術師を見る。

「真面目な感じなのはいいが、俺はちょっと眠くてしょうがない。ってことで寝るわ」

 あくびをしながら教室の端に行って横になってしまった。

「あれも一種の自由なのかしら」

「さっきから眠そうでしたし」

「とりあえず一旦、中断しますか。次回は次回の流れ的な展開で。保健の勉強という展開かは不明だけど」

 外は梅雨の雨が降り続けている。

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