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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
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修学旅行11日目 午前8時20分

 

 午前8時20分……


 雅宗達は瓦礫を退かし、ライトで階段を照らして感染者が居ない事を確認した。だが、階段の光景は凄惨なものとなっていた。階段には夥しい量の血が飛び散っており、地面もまた血の海と化していた。その中には身体が欠損している死体が何体も倒れており、中には肉片と化して、原型をとどめていないモノまであった。

 これには思わずみんな足を止めてしまった。


「……こ、これは」

「見ない方がいいよ。歩けなくなるよ」

「はい……」


 銃を構えた林が手招きをして三人を進めさせる。全員、鼻で息をせずにゆっくりと歩いた。地面が血のせいで急ぐことはできず、下手に転んだらすぐにバレてしまう。だからこそ、息を殺しながら階段を降りていく。

 そんな中、蒼一郎は雅宗達の姿が見えなくなると、少し不安になって来た。


「あいつら、行っちまったな……俺、彼女がいないからわかんねぇけどよ、人って好きな人の為にあそこまで命張れるのかな?」

「……俺に聞くなよ。俺だって分かんねぇよ」

「彼女いないと言うか、作った事ないのか?前からイケメン、イケメンって言われてるのに」

「……」

「す、すまん……」


 気まずくなり二人は黙り込み、雅宗達の無事を祈った。

 雅宗達は何とか階段を降り、一階へと降り立った。対面には薬屋があり、すぐにでも入り込める。だが、階段側と薬屋を挟む通路にはは感染者が何体も徘徊しており、音を鳴らしている吹き抜けへは中々向かっていないのだ。


「止まって……」

「いますか?」

「うん、3・4体ほどいるかな。吹き抜けの方に動くまで少しだけ待とうか」

「はい……」


 吹き抜けの音の勢いは未だ止まらず、激しい音が鳴り響いている。全員が必死に鳴らしている甲斐もあり、感染者達は吹き抜けへと動いている。

 まだ何体もおり、中々進めない状況に幸久は足元に落ちている誰かが落としたであろう革靴を拾い上げ、吹き抜けがある中央の方向に向けて投げ飛ばした。

 10mほど飛んでいき、カランコロンと音を鳴らして転がった。その音に反応して辺りの感染者達は移動し始め、道は開けた。


「これで何とか行けそうですね」

「うん。でも、なるべく四方から見えるように固まって動こう。もしも近くに感染者がいたら、ライトを上に何回かカチカチって押してね。このくらいの音なら感染者も来ない筈だ」

「分かりました。」


 四人は薬屋に入ると、懐中電灯で薬を一つ一つ確かめながら、現状で役に立つ薬をバックに詰め始めた。その間も気を引き締めて、感染者がいないかを見渡しながら探す。

 だが、幸久は早く帰って由美を助けたいという気持ちが勝り、周りを見ずにひたすら熱に効く飲み薬を決死の表情で探していた。雅宗は今まで見たことないほど、焦った表情の幸久が少し怖かった。長年いたが、ここまでの幸久は初めてであった。


「どこだ、風邪薬は……」

「幸久……」


 雅宗はそんな幸久が心配になり、幸久の周りをライトで照らして、感染者を確認していた。すると、幸久が探している棚の列に感染者歩いて来たのだ。


「や、やばい……」


 すぐに雅宗はライトを幸久に向けて、何度も電源を付けて消した。だが、幸久は何も気づかず無我夢中で薬を探していた。

 由弘は気になって雅宗の近くに来て、小声で話した。


「どうした雅宗」

「幸久がいる棚の列に感染者がいるんだ。さっきから危険の合図を送っているんだが……完全に目の前の事に無我夢中になっているんだ」

「……」


 状況を聞くと由弘は音を立てないように幸久の方へと近づいて行く。

 雅宗は止めようとしたが、由弘は大丈夫だと雅宗の目を見て頷いた。由弘の手には拳銃を握りしめており、その手は小刻みに震えていた。

 不安になる雅宗だったが、由弘は俊敏に音を立てずに幸久のいる列まで到着した。そのまま感染者が近づく幸久の元へと音もなく接近し、小声で語りかけた。


「幸久……」

「な──」

「静かにしろ、後ろに感染者がいる」

「!?」


 幸久がようやく気づき、後ろを振り向くと真後ろを感染者がゆっくりと歩いていた。眼前にいる感染者に驚き、声を上げそうになるが、由弘が無理やり口を押さえ込み、声を殺した。

 今は音も立てずにいるから、バレてないだけで、何か音を出せば、即座に襲われて他の感染者も来る。

 雅宗も固唾の飲んで感染者が通り過ぎるのを待った。


「いなくなったか……」


 感染者は薬屋から出て行き、薬屋には感染者は一人も見当たらなくなった。


「す、すまない由弘……周りが見えなくなってしまった」

「気にするな。お前が由美を助けたい気持ちはよく分かる。だが目の前だけじゃなく、周りもちゃんと見てくれ。我を忘れたら自分自身で止める事は出来ないんだからな」

「あぁ、よく分かったよ。うん……」


 雅宗らも幸久らと合流し、雅宗も心配そうに幸久へ駆け寄る。


「雅宗もすまん。無駄な心配を」

「命があるだけで十分だ。さっさと戻ろうぜ。林さんらもきっと上手くいってるはずだし」

「そうだな」


 木田は薬屋の外を何度も確認して、全員に最後の確認を取った。


「みんな、持てる物は全部持ったかい?」

「はい」


 全員バックに入れれるだけ入れて薬屋から出た。感染者を確認しながらゆっくりと階段方面へと渡ると、幸久が何か背後から気配を感じた。


「犬?」


 幸久の前に現れた可愛らしいトイプードル。尻尾をユラユラと振り、口から涎を垂らしながら、幸久の前に座り込んだ。そんな犬を見て、幸久は足を止めた。

 雅宗も幸久に気づいて小声で聞く。


「どうした幸久?」

「いや、犬が──!?」


 犬の顔をよく見ると、眼球が真っ赤に染まっており、よだれだと思った液体が真っ赤な血であり、即座に感染動物と察知した。

 今すぐにでも離れようと下がり始めた瞬間、感染している犬が突然幸久に向けて、吠え始めた。その声には周りの感染者ももちろん気づき、飢えた猛獣の如く雅宗達の元へと一斉に走り出した。

 雅宗達が逃げようとすると、犬が幸久に飛びかかった。 


「うわっ!!」


 倒れた幸久に覆い被さるように犬が噛み付こうとした。幸久は感染動物の首根っこを掴み、これ以上の接近を防ごうとするが、感染動物は声を荒げて噛みつこうと何度も顔を突き出した。


「や、やばい──」

「幸久!!」


 感染者も接近し、困惑する中幸久を助けようと雅宗は単独で飛び出して、噛みつこうとする犬の頭を蹴飛ばした。そして幸久の服の襟部分と掴んで薬屋の方へと滑り込み、間一髪で感染者から避けた。


「くっ!こんなのアリかよ!」

「とにかく何処へと隠れるぞ」


 犬の鳴き声や雅宗の声で階段と薬屋の間の通路には大量の感染者がワラワラと押し寄せてきた。

 そのせいで由弘らは雅宗らの元へと近づくのが困難となった。


「くっ、これでは……林さん、どうしますか」

「一旦僕達は戻って、荷物だけも下ろしてから、僕が彼らを助ける」

「俺も行きます」

「……危険だよ。大人の僕に」

「俺だって高校では散々もう大人だと言われたんですよ。友を助けます」

「……うん」


 由弘と林はすぐに二階へと戻り、荷物を下ろした。

 戻ってきた二人に対し、蒼一郎は雅宗らがいない事を知ると、由弘に問いかけた。


「雅宗と幸久は?」

「感染犬に襲撃されて薬屋に隠れた。二人共噛まれていないはずだから大丈夫だ。俺と林さんでもう一度降りて、雅宗らを助ける」

「また、変な事に巻き込まれやがってアイツら!」


 この時、午前8時27分……



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