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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
98/125

修学旅行11日目 午前7時35分

 

 午前7時35分……


 下の階へと降りる志願者らを束ねて木田を先頭に歩いていた。

 その道中、幸久は雅宗に尋ねた。


「おい雅宗。真沙美に許可に貰ったのかよ」

「言ってねえけど、行く時に言うさ。あいつも分かってくれるはずだろ、由美の為だといえば」

「そうかもしれないが……今まで以上に危険な所だ。外は逃げ場が多くて、道も広い。だが、ここは暗く、狭く、感染者が密集している今までにない所だ。物音一つ立てれば、終わりだ」

「んなもん分かってるさ。()()はな」


 由弘も元太に梨沙が心配してないかを尋ねた。


「元太さんも、梨沙さんから許可もらったんですか?」

「当たり前だ。死なない程度に頑張れとだけ言われた。まっ、要するにいつも通りに頑張れって事だ。腕っぷしだけは自慢があるから、ここで使えるなら使わなくちゃな」

「こんな状況でも、元気な表情を崩さない元太さんが羨ましいです」

「そう言ってくれるとありがたいねぇ」


 数分歩くと、とあるコーナーで木田は足を止めた。


「ここだ。ここで装備を整えろ」

「こ、ここは……服屋」


 木田に連れてこられたのは服屋が立ち並んでいる場所であった。

 到着するとこちらへと振り向いて全員に言い放った。


「全員ここで服を何重にか厚着しろ。感染者に噛まれても歯が体内に届かなければいい。なら、何重にも着てもし噛まれても平気にする。シャツなどを何重にも着て、その上にダウンジャケットやダウンパンツなどの分厚い物を着れば防御も充分になる。手も布製やゴム手袋などを付けて、その上に革製の手袋を付けろ」


 幸久が手を挙げた。


「なんだ」

「頭はどうしますか?」

「バイクを乗る時につけるフルフェイスのヘルメットを付けろ。首回りにはタオルやマフラー、ネックウォーマーなとを付けて身体全体に肌を一切露出させないくらい完全に防御しろ。だが、付けすぎて動きが鈍くなる可能性もある。だが、そこは自分自身で見極めてくれ」


 そう言って全員はこの階にある服を掻き集めて厚着をし始めた。

 雅宗ら三人は自分達のサイズに合う服を探して、着ようとしていた。雅宗が今来ている制服のシャツには汚く血も付着している制服の上に着ようとしていて、幸久は止めた。


「その制服の上に着るのか?」

「……それもそうだな。一週間着続けていた制服ともおさらばかな」

「まっ、この階には制服もある。新しい制服着て気分一新と行こうぜ」

「そうだな。ボロボロになるまでありがとな、俺の制服」


 幸久も由弘も服には血が付き、汚らしくなっていた。三人は頷き、今着ている制服を脱ぎ、簡単に畳んで新しい制服を着た。

 そしてダウンジャケットやダウンパンツで身を包み、長靴を履き、手も顔もきちんと隠して側から見れば誰が誰だが分からない状態になった。

 20分ほどが経ち、志願者らは全員集まり、装備を確認した。木田や林も自衛隊の迷彩服を脱ぎ捨てて、雅宗らと同じく厚着で身を包んでいた。


「よし、全員装備はバッチリだな。次はリュックサックと懐中電灯。そして簡単は武器やその場凌ぎのアイテムだ」

「武器はバットとかですかね?」

「まぁ、武器は金属バットやスコップなどが良いだろうな。折れづらく、頭を簡単に仕留められる武器としてはこれらが最適かもな」


 そしてリュックサックや懐中電灯などを背負い、金属バットや大きなスコップなど全員持ち、次に連れてこられたのはおもちゃコーナーであった。

 流石にびっくりして雅宗は木田に恐る恐る尋ねた。


「お、おもちゃコーナー……ってまさか、光る剣のおもちゃとかって──」

「そのまさかだ。おもちゃの剣などのおもちゃはボタンを押すを光って大きな音を出す。もしも感染者にバレたとしても、一か八かだが、これを遠くに投げ飛ばして少しの間だけでも気を引ける事は可能だ。最近の子供のおもちゃは便利で助かる。全員で、使いやすい音の出るおもちゃを探してくれ」

「は、はい」


 全員でそれらしき物を物色し、少しでも使える物をリュックサックに入れた。

 その最中に雅宗はとある物を見つけた。


「お、これは……」

「何かいい物あったのか?」

「あぁ、あったさ。役に立てばいいがな」


 そう言ってとある見つけた物をポケットに入れた。

 次に木田は店内にある一階と二階の地図が書かれた場所へと行き、一階の地図を差して説明した。


「林達は薬屋に近い東階段から行け。薬屋は階段を降りてすぐの場所にある」


 東の階段から降り、そこから道を挟んで薬屋がある。だが、難点なのが薬屋は入り口すぐ横にある。入り口には感染者が出入りしている場所で、そこら辺よりも多くいる。そこをやり過ごして、薬屋に到着出来れば良い。


「俺らは西側の階段から降りて、食料品を出来るだけ多く取る。その間は、二階の中央吹き抜けで残った奴らに大きな音を出してもらい、感染者引き付けてもらう」

「その間に俺達二組は目的を達成させるって訳ですか」

「その通りだ。だが、引きつけると言っても全員は無理だ。そこは用心しろ」

「はい」


 木田は腕時計を見て、時間を確認し全員に言い渡した。


「全員少し休憩しろ。俺は上に残る連中に色々と説明をしてくる」



 *


 雅宗ら三人が厚着をした状態で休憩の為、真沙美や由美らの前に戻って来た。由美は息が荒いながらも、眠りについていた。あまり状況は変わっていなかった。

 由美の近くにいて、雅宗が行く事を知らなかった真沙美はその姿に驚きを隠せなかった。


「雅宗!?何その格好!?」

「まぁ、色々あってな」


 雅宗は真沙美や南先生、他の生徒らにも説明をした。

 南先生は静かに三人に言った。


「西河先生から話は聞いていたけど、本当に行くのね」

「はい、由美の為ですから。絶対に帰ってきます」


 真沙美は曇った表情になるも、落ち着いた態度で雅宗の手をしっかりと握りしめた。


「分かっているわ。由美を助ける為だもんね……だから、私は止めはしない。私も行きたいと言いたいけど、足手纏いになるだけ。絶対に成功して、戻ってきて……」

「そんな事言われても、俺らは九州、四国と激戦区を潜り抜けたメンツだ。今回も何とかなるさ」


 雅宗達の前に、秀光が現れて幸久にとある物を渡して、いつもの柔らかな態度で言う。


「君は……」

「結衣って子は哲夫さんと絵を楽しそうに描いてるわ。多分、あんたが行く事すら知らないんやろうな。源治郎さんからもそのままにしておいてくれと頼まれた。まっ、あの子を悲しませない為にも頑張りなはれ」

「あぁ、分かってる」

「ほら、またあの子の相手でもしてるわ」


 そう言って秀光はゆっくりと結衣がいる本屋へと戻って行った。


 *


 木田は二階に残っている西河先生や梨沙らに大きな音を出してもらう説明をしていた。


「今から5分後に、中央の吹き抜けで大声を上げたり、大きな音を立てて感染者を充分に引き付けてくれ。そこから更に5分経ったら、西と東にいる俺らが一階へと行き、各自行動を行う。どれくらい掛かるかは分からんが、二組が戻ってくるまで音を出し続けてくれ」

「分かりました」

「それと──」


 木田は西河先生にだけ聞こえるほどの小声で伝えた。


「奴らには注意してくれ。茂尾ってガキを……」

「えっ?」

「俺らがいなくなれば、銃を持つ者は誰一人居なくなる。奴らみたいな頭のネジが緩んだ奴はこんな状況だからこそ、何をしでかすか分からん。だから、お守り程度にこれを持っておけ」


 他の人に見えないように西河先生へと渡された物──それは折りたたみ式ナイフであった。

 そんな物騒な物を渡されて、西河先生は驚きを隠せなかった。包丁などは料理とか使った事がある。だけど、人を脅すためのナイフなんて使ったことなんかない。下手をしたら刺す事となる。


「こ、これは──!?」

「見ての通りナイフだ。教え子を守りたいんだろ。なら、脅しだけでも良い。このナイフを相手に突きつけるんだ。だが、怯えるな。相手の目をジッと見つめて、『刺されても、刺し返してやるぞ』っていうを覚悟を相手にぶつけるんだ」

「……それで追いかけせるんでしょうか」

「それは、どれだけ教え子を守りたいあんたの気持ち次第だ」


 木田は西河先生の手の中に折りたたみ式ナイフを渡し込み、しっかりと目を見つめた。


「あんたら先生達の頑張りがあるから、あのガキ共も希望を捨てずにここまで来れた。あんな強気な奴らも中身はまだまだおこちゃまだ。俺達大人がしっかりとした所を見せないと、あいつらが見る背中がなくなってしまう。頼んだぞ、先生よ」

「……はい」


 西河先生の肩を強めに叩き、去っていった。その木田の背中は大人である西河先生にすら勇ましく憧れる背中であった。

 自分が雅宗達にどう思われているかなんて全く考えた事がない。尊敬される大人か、馬鹿にされる大人か。そして自分の背中はどう見えているんだろうか。この一週間で自分自身変わる事が出来たのだろうかと、心配になっていた。


 *


 その頃、志願者達は最後の打ち合わせをしていた。


「さっき言った通りだ。静かにバレないように行動しろ、ただそれだけだ。全員が戻ってこれる事を信じる」


 全員覚悟が出来た表情になっており、誰も緊張なんてしてなかった。特に幸久らは由美を助ける為、一段と気合が入っていた。

 そして木田は林に手を差し伸ばし、握手を求めた。


「林、健闘を祈る」

「はい、お互いに戻って来ましょう」


 二人は握手を交わし、お互いの位置へと着いた。

 二つの階段には感染者の侵入を塞ぐ瓦礫があり、それを退かして進まなければならない。その為、東と西の階段には行った後と戻って来た時、瓦礫を戻す係として大人数名を配置している。

 雅宗達の階段には龍樹や蒼一郎が待機する事になった。

 そして中央の吹き抜け──


「皆さん、一斉に大きな音を出して下さい!!」


 西河先生の合図と共に、残っている人や生徒達が音の出るおもちゃや声をあげたり、金属製の物を叩き始めた。

 もちろんなその音に店内中の感染者が気づき始めて、中央の吹き抜けへと集まり始めた。

 伸二や雪菜もその中に混ざっており、一気に集まり始め、空に手を伸ばし何かを求める者のようにする感染者に焦りが止まらなかった。


「……すごい。一気に集まり始めた」

「手を緩めるなよ、あいつらが行ける時間をあたしらが作るんだよ」

「う、うん……」


 真沙美も優佳も無我夢中になってタンバリンを叩き、感染者を引き付けていた。

 その激しい音は雅宗らにも聞こえ、瓦礫の隙間から階段を覗き、感染者が居ない事を確かめた。


「向こうがおっぱじめてこっちは感染者はいないようだな」

「取り敢えず木田さんは5分は待てと言っていた。時間が経ったら行動しよう」


 5分後──

 中央の吹き抜けには感染者が密集して、何体もの感染者が押されて、倒されて踏み潰されていた。更に唸り声が聞こえ、睨みつけてくる不気味な光景に全員が恐怖するも必死に音を鳴らし続けた。

 別々の場所にいる木田と林は5分経過した事を確認すると、志願者らに言い放った。


「よし、行くぞ!!」

「みんな行くよ」


 お互いに階段に感染者が居ない事を確認し、道を塞いでいる瓦礫を退かした。

 危険なの事は分かっている。だが、由美の為に幸久らは臆する事なく一歩を踏み出し、階段をゆっくりと降り始めた。これから始まる危険な戦い。幸久らは帰ってこられるのか……



 この時、午前8時20分……作戦開始。

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