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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
97/125

修学旅行11日目 午前7時18分

 

 午前7時18分……


 木田は落ち込む幸久の前に立ち、共にいる由弘達を見渡しながら言う。


「おい、お前らちょっと来い」


 そう言って雅宗と由弘と幸久の三人を連れ出して、人気のない場所へと呼び出した。


「貴方は、木田さん……でしたっけ?」

「あぁ。単刀直入にお前らに聞くが、下の階に行く気はあるか?」

「し、下の階……ですか」


 下の階へと行くかと言われて動揺する幸久と由弘。

 そこに三人を追ってきた西河先生が混ざってきた。


「下に彼らを連れて行くつもりですか?」

「奴らの返答次第でな」

「ですが、彼らはまだ──」

「今は大人だろうと、ガキだろうとうだうだ言ってる暇がないだろ。それにこのままいても、いづれは食料が尽きる。行く気がある奴らだけでも来てもらうまでだ」

「……」

「大丈夫だ。奴らが行くとしても安全な方に行かせる」

「本当ですか?」

「……多分な」


 無理やり西河先生に話をつけると、再び幸久達へと話を戻した。


「で、お前らは行く気はあるか?薬を取りに行くのか」

「薬……」


 木田が言ったのは由美の薬を取りに行くかどうかの話であった。その言葉に幸久の心は激しく揺らいだ。


「……行きます。俺は行きます!!」


 そう言うと再び西河先生が混ざってきた。


「幸久、下は感染者が大量に──」

「……そんなものもう慣れっ子ですよ。ここ一週間くらいで、いやと言う程、潜り抜けた修羅場ですから」

「……」

「先生も木田さんが言ったとおり、今は俺らに子供だからと言って止めるのは禁止です。それより、西河先生こそここに残って下さいよ。引率する先生がいなくなったら、それこそ俺達学生がバラバラになる時です。俺達はいつかは大人になるって言うけど、今こそ大人に時です」

「くっ……だが」


 悩みに悩んでいる先生の前に雅宗や由弘が出てきて、声を張り上げた。


「俺らも行きます。先生」

「龍樹や蒼一郎はここにはみんなと共に待たせます。俺ら3人で薬を取りに行きます」

「由美にもしもの事があったら、今ここにいるみんなで帰るのが不可能になるぜ。だったら、命張ってまで行く意味があるんだ先生」


 二人の自信満々かつ熱意に溢れた顔。そして幸久の真面目で、命なんて捨てても構わないと言う覚悟が西河先生の心を揺れ動かした。

 顔を下げ数秒の沈黙の後、西河先生は歯を噛み締めて3人に言い渡した。


「先生として、幸久も由美も大切な生徒であり、本来守らなきゃいけない立場だ。だが、今は緊急事態であり、人手が欲しい状況でもある。俺が言うのもあれだが、みんなの為に行ってくれ」

「はい、絶対に生きて戻ってきます」


 西河先生と三人は全員の手を重ね合わせて、気合を入れた。

 その姿を見て木田は林に新たなる指令を出した。


「ガキどもの話は終わったようだな。林、この場にいる全員を呼べ」

「は、はい!!」


 林はそこら辺にいる人々全員に聞こえるくらいの声で呼びかけた。


「み、皆さん一度中央に固まって集まってもらえますでしょうか!!」


 ここにいる人々を中央のフードコートに呼び寄せて、現状を報告した。助けはまだ来ない事、食料が少なくなっている事など、人々の不安を煽るような話だが、林は全て偽りなく話した。


「──という事で、命の危険ではありますが食料がない事には、更なる人的被害が発生してしまいます。だから、皆さんと協力して下の階へと行き、食料の確保に行こうと思います。我々二人ではこの人数分の食料を持ち込むのには無理があります。皆様の協力を!!」


 いきなり言われて騒つく人々。

 林は騒つきを抑える為に更に言葉を追加した。


「皆さん落ち着いて下さい!強制ではありません。志願して下さい!!」


 その言葉に更に騒つきは大きくなり、誰も林の言葉に耳をかさなくなって来た。

 何としで話を聞いてもらおうとしても、全員不安に駆られてそれどころではなくなった。

 すると──


「皆さん!!話を、話をちゃんと──」

「自衛隊員さん、ちょっと良い?」

「え?どうしたのお嬢ちゃん?」


 突然結衣が林の前に現れて、深く息を吸い込むと力を全力で出して声を荒げた。


「みんな話を聞いて!!」


 結衣の大声は店内中に響き渡り、アニメのように激しい衝撃が襲いかかる感覚をここにいる人々は感じた。


「先生は人の話は静かに聞くっていつも言ってるの!!だから、自衛隊のお兄さんの話を聞いてあげて!!」


 その場にいる全員が静まり返り、結衣は怖気づく事なく一度礼をした後に去り、その後無理やり連れてきた秀光を再び連れて本屋へと戻って行った。


「行くよ、秀光!!」

「将来どえらい奥さんになりそうやな……」

「何か言った?」

「いやいや、何も……」


 勇ましすぎる行動に一部始終見ていた木田もニヤリと笑った。


「……肝の据わったガキだな」


 静まり返ったフードコーナーで言いづらいながらも、林はきめ細かに説明をした。

 そして十分後──


「──で、何人集まった?」

「志願してくれたのは14人です」

「ここにいる同伴している家族とかには承諾は得たか?」

「はい、家族や恋人などがいる人らには全員許可を貰えました」

「そうか」


 少し安心した顔をする木田。


「これだけの人数がいれば、何とか今日の分くらいなら運べると思います」

「10人以上いても、今日一日かよくて明日の朝まで限界か……」

「はい……一刻も早くここを脱出したいですね」

「あぁ、その為に今は命がけでも生き残るんだ」

「……」


 頭を悩ませる木田だが、冷静な態度で林に指示を出した。


「林はガキ共と薬の場所に行け。そこで使えそうな薬をいっぱい持ってこい。それと栄養ドリンク類や食品などがあったらありったけ持って来い。いいな」

「はい!」

「それと──」


 木田は林の腰から銃を抜き取り、持ち手部分を林に向けた。


「木田さん、何を?」

「お前だけが銃を持っていたってしょうがない。この銃を誰かに渡すんだ」

「えぇ!?で、でも彼らは──」

「高校生だが、今ばかりはそんな事言ってる場合じゃない。そして林、銃を渡す奴はお前が選べ」

「え?僕が!?」

「そうだ、アイツらの事は俺よりは知ってるはずだ。お前が適任者を見極めて渡せ。俺は下に行く他の奴らに色々と説明して来る」


 そう言って木田はフードコーナーへと歩いて行った。

 銃を渡す事がどれだけ危険な事かは林も十分に分かっていた。本来なら普通の高校生が持つ事は犯罪であり、ましてや自衛隊員自ら渡す事は自分すら処罰される事。

 その事を肝に免じて、林は由弘へと渡した。


「君に任せる、由弘君……」

「お、俺に……ですか。幸久の方が適任では──」

「今、心底焦っている彼に渡すのは危険だ。だから、次に冷静な判断が出来るであろう君に託す。それに君らは幾度となく危険を乗り越えて来たはずだ。それに僕が信じれる人である」


 幸久と雅宗も由弘を見てうなづいた。


「今の俺では自分自身でもまだまだ役不足かもしれん。だから、ここはお前に任せる」

「荷が重く感じたら俺に変わってもいいんだぜ。俺が責任もってお前を護衛してやるからよ」


 雅宗の自信に満ち溢れたドヤ顔に由弘の顔に笑顔が戻り、拳銃をしっかりと握りしめた。


「お前に言われるようじゃあ、お終いだな。お前に持たせて、撃たれるくらいなら自分で持ってやるよ」

「ちえっ」


 そして由弘らは林に銃の撃ち方を長きに渡り教えられた。


「──まぁ、これが基本的な拳銃の使い方だよ。ロックは常に掛けておいてね。暴発の恐れもあるからね」

「はい」


 説明をし終えるとタイミングよく木田が志願した人々と共に合流して来た。中には元太や四国から共に来た野球部員二人らも混ざっていた。

 木田は銃を渡したのを確認すると、由弘に言った。


「撃つのは感染者だけだ。生きてる人間だけには撃つなよ。よほど、あの変なヤンキーどもみたいなムカつく奴以外にはな」

「……はい」

「もし、連れの誰かが感染者に噛まれたら、撃たずに逃げろ。殺せと祈願されても無視して逃げろ」

「……それは」

「そこで撃って感染者に音でバレたら、感染者がお前らに気づき、全員がアウトだ。それに弾薬を無駄には出来ない。こんな時だからこそ、節約だ」


 木田は話終えると、手招きをして全員を連れだした。


「来る奴は全員ついて来い」

「何処へですか?」

「死にたく無ければ黙って来い……それとお前ら、RPGは好きか?」


 木田のいきなりの問いに雅宗達はお互いの顔を見合った。何の脈絡もなく、先程と変わらないテンションで言われて、雅宗と由弘は沈黙するも、幸久は慌てて答えた。


「は、はい!」

「なら分かるな。ここで装備を一新するぞ」

「え?」


 この時、午前7時35分……

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