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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
96/125

3月3日 修学旅行11日目 午前0時12分

 

 午前0時12分……


 雅宗達は騒ぎが起きた場所へと到着した。元太らから話を聞き、由弘は怒りを壁にぶつけた。


「寝ているところを襲うとは何て卑怯な!!」

「まさか──」


 雅宗はさっきすれ違った男の事が少しばかり気がかりだった。


「……由弘、ちょっといいか」

「ん?」


 雅宗は由弘を少し離れた場所へと連れて行き、気になった事を話した。


「すれ違った……だと」

「あぁ、完全な証拠ではないが、何か落ち着かない様子だったのは確かだ。だが、そんな人が龍樹を刺そうなんて」

「……ありえないかもしれないが、人は見かけによらないからな」

「そうかもな。追って見るか」

「いや、今はダメだ。確かあのナイフはあの茂尾って奴の仲間のナイフだ。由美を襲った時に持っていたみたいだ。危険な深追いは禁物だ」

「ナイフ──つまり、奴が指示を出した可能性が」

「その可能性が高い。でも、何故龍樹を──もしかして」


 雅宗と由弘は同じ事を思った。龍樹はデパートの屋上から人が突き落とされる瞬間を目撃した、ただ一人の人物である。だがら、その証拠隠滅を図ろうと狙ったのだと。


「奴らめ……」

「だからと言ってそれだけでは完全な証拠とはならん。それに下手したら今よりも状況が悪化する。龍樹の事も含めて守る事だな。あいつにはお節介かもしれないがな」

「そうだろうな……俺達も最善の注意を払わないとな」


 二人は男を追う事はせず、そのまま戻って再び全員固まって寝る事にした。

 だが、襲撃された事を知った人々の中にはその恐怖で寝付けなかった者も多くいた。

 雅宗もその事が頭に残り、寝付くのに時間が掛かった。



 *


 午前7時09分──女性達が眠る女性部屋のドアの前で眠気と戦う林。ウトウトしている中、突如部屋の中から大声が聞こえてきた。


「由美ちゃん!!」


 その声は梨沙であり、何か慌てている声であった。その声に眠気も吹き飛び、バネのように飛び起きた林はすぐさまドアを叩いた。


「どうしました!?何があったんですか!!」


 交代して眠りについていた木田や、元太・幸久らは一足先に起きて真っ先に走ってきた。

 幸久がすぐに着き、林に尋ねた。


「どうしたんですか!?由美は!?」

「わ、分からなんだ。でも、入る訳には行かないし……」


 女性が多くいる部屋だからと、入る事に躊躇してオドオドする林を前に、木田と元太も到着した。


「どうした!?」

「中で何か……」

「緊急事態の可能性がある。オドオドしてる暇があれば、構わず開けるんだ!」


 そう言って焦りの顔を見せる木田は腰に掛けてある拳銃を取り出して、なりふり構わずドアを開けた。

 部屋の光景を見て、木田は静かに銃を下ろした。元太が隙間から部屋を覗くと梨沙が息の荒い由美を膝の上に乗せていたのだ。南先生は毛布を掛けて、安静にさせていた。真沙美や優佳らも静かに見守っていたのだ。


「梨沙どうした?」

「由美ちゃんが、熱を出したみたいで」

「熱だと?」


 そこに幸久が飛び入り、梨沙の元へと駆け寄った。息が荒く、苦しいのがひと目で分かる様子の由美を見て、必死に呼びかけた。


「ゆ、由美!?由美!!真沙美、何があったんだ!?」

「……分からないの。昨日の夜は普通だったけど、さっきから息が荒くて……」


 この由美の状態に戸惑う真沙美。2月の雪の振る中、電気などが機能していない寒い空間では暖かくなる手段がなく、由美は力なく身体を震わせていた。

 梨沙は自分の額を触れた後に、由美の額を触れてから幸久達に告げた。


「かなりの高熱ね。温かい服や毛布を取ってきて!!」

「わ、分かりました!!」


 幸久と元太は急ぎ足はすぐに毛布や布団などを持ってきて、由美を寝かせた。

 更にデパートの店員の一人が事務室から体温計を持って来て、由美の体温を測った。熱は38.5度とかなりの高熱であった。

 西河先生も起き、教頭を含めて他の生徒達も会議室の前に集結した。

 あまり状況が理解しきれていない生徒達を前に、南先生だけが部屋から出てきて全員に説明をした。


「みんな落ち着いて。由美ちゃんが熱を出したの。今は少しは落ち着いて寝ているけど、昨日の出来事もあって急な激しいストレスかや体調が崩れた可能性があるわ」

「薬とかはあるんですか?」

「店員の人に聞いたけど、少ししかなくて今日の分までしかないのよ……薬は一階にあるのよ……」

「くっ!!」


 それを聞くと幸久は真っ先に走り始め、何処へ行くか察した西河先生はすぐに幸久を腕を掴み、静止させた。


「下は危険だと言ったはずだ」

「だからって由美をこのまま──」

「それでお前が死んでも良いのか?それで由美が治るのか?」

「ですけど──」

「とりあえず落ち着くんだ。今は……」

「くっ……はい」


 西河先生が手を離すと幸久はその場に力なく座り込んだ。

 そこに雅宗と由弘、そして秀光の3人が来て、由弘が優しく肩を叩いた。


「幸久……」

「由美に対して何も出来ずに迷惑ばかり掛けている自分に腹が立ってしょうがないんだ……俺がもっとしっかりしていれば、由美は──」

「自分を責めるなよ。人が選択肢を間違える事だってあるさ。だからってそのまま間違えたままで行く事もない。何処でまた戻る道はあるさ」

「……」


 その様子を女性部屋から出て、心配そうに近づく結衣。それを見つけた雅宗が止めようとすると秀光が逆に雅宗を止めた。


「何だ」

「雅宗は幸久を励ますのが仕事や。子供の相手は俺に任せとき。さぁさぁ、結衣ちゃんや。兄さんと共に遊びましょう〜」


 雅宗の背中を押して、秀光は結衣を近づける間も与えずに何処かへと連れて行った。

 そして由弘と雅宗は幸久の近くにいて、元気を出させようと励ますことにした。

 そんな中、隅っこで一人オドオドしている林。その後ろから木田が現れた。


「薬は一階、そして食料も一階か……」

「?」


 まだ多少寝ぼけが取れない林に、寝起きで髪が大きく乱れている木田は周りを見渡しながら真面目な顔で言った。


「ここにいる人数を見れば分かるが、100人を超えるこの二階で食料売り場もない状態。とすれば、いずれはここの食料も尽きる。それに今はまだ食べれても時間が過ぎれば腐る食料も下には沢山ある」

「木田さん……それって」


 その言葉の意味を知り始め、息を飲む林。木田は林の目を見て言う。


「お分かりの通り、薬を取りに行くついでに食料を下に行って取りに行くぞ」

「は、はい……」

「落ち込むなよ。もちろん生き残るためにここにいる他の奴らにも協力をしてもらうがな」

「一般の方にですか?」

「当たり前だ。俺ら二人でここにいる全員の食料をってなると、命がいくらあっても足りないだろ」


 二人で行くにはあまりにも危険が伴うし、百人以上もいるのに二人では食料は追いつかないだろう。そう思った木田が考えた策である。


「た、確かに……」

「食料も大事だが、それよりも危険な事がある」

「何ですか?」

「食料は下に行けば何日かは何とかなる。深刻なのは人間自身の問題だ。あの高校生共のような感染が始まった九州からここまで来た奴らなら耐性があるかもしれんが、他の四国から来た奴らを見ろ」


 林は覚えている限りの四国から来た人々を見た。多くの人はイライラしているのか、不安になって何度も足踏みをする人や身体を震わせて体育座りをしている者も何人もいる。

 一度、九州から来た人々を監禁した場所からやっと脱出し、安心出来る場所に行けると思ったら、デパートとはいえまた閉じ込められているこの状況に不安を隠せないのであろう。


「俺らはこの様な状況でも大丈夫なようにサバイバルなどの訓練はしているが、他はただの一般の国民だ。追い討ちを掛けるように他所との連絡も途絶していて、日本全体の状況が把握出来ない状態だ。何処がセーフで何処がアウトなのかも俺達ですら分からない」

「はい……」

「映画の世界は好きじゃないが、映画のようにいつ暴徒化するか分からないほど、リアルな世界に近づいている」

「そうですね」

「……とにかく、さっさと行動を起こすぞ。食料と薬の確保だ」

「はい!」


 木田は林に軽くハイタッチを仕掛けて、お互いに頷き、幸久達の前へと出て行く。


 この時、午前7時18分……

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