修学旅行10日目 午後9時2分
午後9時2分……
夜になり、全員が就寝につく事にした。
今回の騒動がきっかけで南先生らの提案により、女性は会議室の中で寝ることが許された。学生達は勿論、他の女性や子供達も希望があれば寝れる事となった。
念のために部屋の前には二人の見張りを立てる事となり、先生や元太達大人が交代交代で見張る事になった。
だが、幸久や雅宗達男子学生らもみんなの心配をして見張りに挙手した。
「先生!俺達も見張りをします!」
「そうだ!!あんな奴ら、真沙美達に近づける訳には行かねえよ!」
雅宗が腕に掲げたのはおもちゃの光る剣であった。電池は入っていない為、光る事は無かった。
幸久はそれを見て、呆れた顔で聞く。
「お前……何だそれ」
「木刀なくて、持つもんが無くてさ。一応護衛武器って奴だ」
「……」
だが西河先生は良い顔をしてくれなかった。むしろ顔を横に振り、拒否してきた。
「ダメだ」
「何でですか!俺達だってみんなが心配だから──」
「また何かあっても、相手はナイフを持っているんだぞ。それにナイフなら九州の時を思い出せ」
「うっ……」
九州の時に雅宗は真沙美を庇う為に、胸をナイフで刺された時の記憶が蘇った。あの時に刺され、気を失っている内に四国に行き、様々な騒動に巻き込まれたのだ。
「あの時は当たり所が悪かったが、次は本当に死ぬかもしれないんだぞ」
「だから、今度は油断しないように──」
そこへ元太も来て、話に混ざった。
「元太さん?」
「まぁ、この坊主の言う事も悪い事じゃねぇ。だが、ここは大人の意見に従ってはくれないか?守りたい気持ちは十分に伝わった。お前さんがどれだけその子を想っているのかも。だからこそ、生きなくちゃ行けないんだ。それとも、死んで余計に悲しませたいか?」
「……」
「その為に、ここは大人に任せろ。ここには十分に大人もいるし、見張りに参加する人も大勢いた。だから、お前達子供はぐっすりと寝て身体を休めろ──と言っても、ぐっすりとは寝れないだろうけどな」
考え悩む雅宗らの前に木田と林もやって来た。
「雅宗君、僕や木田さんもいるから安心していいよ」
そう言って背負っているライフルを見せつけた。
「一応これでも本物だし、撃つ事はないだろうけど、そう簡単には近寄らないよ」
「まぁ、殺す気で来るなら、人間だろうと俺は撃ち殺すがな」
物騒な事を言うに木田に全員困惑した。
そして林達が協力してくれる人々をフードコーナーへと呼び寄せて、簡単な説明をする事にした。
全員が揃うと前に立っている林が深く頭を下げて、あたふたする中説明し始めた。
それを見て幸久は雅宗を連れて別の場所へと移動する事にした。
「まぁ、林さんや木田さん達の言う通りだ。二人は銃を持っているから、簡単には近寄るのは無理だろう。俺達はぐっすり寝ようぜ」
「あぁ……」
*
深夜になり、デパートにいる人々は静かに眠りについていた。
女性部屋には多くの人が入っており、ドアの前には林や元太らがしっかりと見張っていた。
雅宗と幸久は朝の出来事が頭に残り、中々寝付けず二人で屋上で外を眺めていた。
雪も止み、ほとんどが溶けていた。
「はぁ〜」
雅胸はため息を吐きながら、光らないおもちゃの剣を適当に振り回していた。
夜になって真っ暗な空間だが、地上からは感染者が彷徨う呻き声や歩く音が聞こえてくるが、雅宗達は慣れたのか何も思う事は無かった。
剣を振り回す雅宗に茫然と街を眺める幸久が言う。
「お前も中々眠れないか」
「当たり前だ。あんな事が起きて普通に寝れるわけがない。先生や元太さんらが見張ってくれるとは言え、やはり気になってしょうがねぇ」
「全くだ。おれだって、まだ奴に対して怒りは収まっていない。まだまだぶっ飛ばし足りねぇんだよ。でも、殴った所でやってる事は奴らと同じ野蛮な人間になるだけだ」
雅宗は落ちているコンクリートの破片を拾い、暗闇で見えないが地上にいるであろう感染者に向けて全力で投げた。
「当たれい!」
雪もあるせいか、落ちた音は一切聞こえなかった。再び深いため息を吐いて愚痴を言う。
「はぁ……娯楽も減り、やる事も減ってきた。それに腹も減り、退屈になってきたなぁ」
「だからって感染した人に投げるなよ。人間なんだからよ」
「感染が解ける薬もないのにか?こんな状況じゃ解決策の練りようも無いんだぜ」
「それもそうだが……」
「仮に感染者から普通の人間に戻った所で、自分が人殺ししたという事を考えながら生きなきゃいけない。そんな生活俺なら自殺するね。どのみち選択肢は二つ──俺達が全滅するか、感染者共が全滅するかだけだ。共存なんて方法はない!」
「……」
雅宗の言葉に何も言う事が出来ず、二人はしばし沈黙が続いた。
*
その頃、デパート内の龍樹も他の生徒達と共にスヤスヤと寝ていた。
その場にゆっくりと忍び寄る足音が近づいて来た。そして足音は龍樹の前に立ち止まった。そして懐からナイフを取り出した。だが、その手は激しく震えており、その人物は荒々しく息を吐いていた。
「はぁ……はぁ……」
男は龍樹の心臓に狙いを定めて、ナイフを両手で持ち、一気に突いた。
「……!?」
殺気を感じ取り、咄嗟に目を覚ました龍樹はナイフを寸前で転がって避けた。攻撃して来た相手は避けられて、態勢が崩れて倒れそうになるも、追撃の如く龍樹の脳天へとナイフを突いた。
「ちっ!」
「うわっ!」
当たる直前に龍樹はその人物に足払いをすると、弱々しい声を上げてナイフを落としてその場に転倒した。
龍樹は即座にその人物に飛びかかろうとするも、男はすぐに立ち上がってその場から逃げ去っていった。
「どうした龍樹!」
騒ぎを聞きつけ、近くで寝ていた由弘が飛び起きて龍樹の元へと寄ってきた。ライトを当てると、ナイフを持った龍樹が立っていた。
「一体何が──」
「昼言われた通りだ。これで、俺を殺しに来たって訳だな」
「あいつらか」
「あの弱々しい声からすると、奴らの仲間では無さそうだが……」
見張りをしていたや木田や元太らや他の人々も大慌てで来た。
「どうしたお前ら!」
「誰かが龍樹の奴を襲撃して来やがった。元太さんの言う通りのようだな」
「何!?」
由弘が状況説明し、龍樹は冷静にライトでナイフを照らしながら見つめていた。
「このナイフ──虎の絵が描かれている」
「虎の絵?」
そのナイフの持ち手に描かれていたのは虎の絵であった。
*
その頃、屋上にいる雅宗達にも下の騒ぎが聞こえて来た。
幸久は嫌な胸騒ぎがふつふつと感じて、眠りかけていた中、目が一気に冴えた。
「下で何か聞こえて来たぞ」
「何か起きたのか?」
「それしかないだろ! さっさと行くぞ雅宗!」
「おう!」
二人は即座に立ち上がり、由弘達へと向かった。
階段を下りると、弱々しい声をした男が真横を通り過ぎてトイレへと走って行くのを目撃した。
「今のは誰だ?」
「トイレへと向かっただけだろ。今は他の心配をするべきだ」
「……あぁ」
雅宗は少し気がかりになりながらも騒ぎの方へと向かった。
この時、午前0時12分……