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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
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修学旅行10日目 午前8時40分

 

 午前8時40分……


 結衣に本屋に無理やり連れて行かれた秀光。嬉しそうに引っ張る結衣に流石に困惑する秀光であった。


「ここだよ本屋は!面白い本読んでよ!」

「分かった、分かったから落ち着け!落ち着け!こんな状況なのに何ちゅうガキや……元気有り余りすぎやろ……」


 本当にこんな酷い状況で元気のいい結衣に思わず本音が出た秀光。


「何か言った?」

「言うてへん!言うてへん!ほな、本読んであげっから!……肝っ玉が凄い奴やで……」


 本屋に入るとそこには須恵と哲夫の2人がお互いに近づきあって楽しく話をしていた。


「楽しくお話中のお二人さん、お邪魔しますぅ」

「お邪魔〜!何してるのぉ?」


 結衣が2人の間を覗いた。そこには綺麗な大阪の街の風景が描かれていた。雲ひとつない空の下で、商店街は人で賑わい、活気に溢れている絵であった。


「すご〜い!!この場所私よく通るよ!おじさんが書いたの?」

「おじ……う、うん。お兄さんが書いたんだよ」

「へぇ〜綺麗な絵だね〜!」

「あ、ありがとう」


 小さな女の子とはいえ、綺麗と言われて照れる哲夫。秀光もその絵を見て、感心した。


「へぇ〜綺麗な絵や。イラストレーターか漫画家さん?」

「う、うん……そうなる予定だったんだけどね」

「何かあったん?」

「こんな状況だからちょっと編集の人と会えなくなってね。でも、ここにいる人が原作の方の須恵さんで、僕はその須恵さんの原作を絵に描くんだ」

「奇跡ってあるもんなんやな〜」

「私も描くから見て!!」


 二人の隣で結衣も紙にクレヨンで絵を描き始めた。


「何で俺が子守りをしなきゃいけないんや……」



 *


 その頃、自衛隊の一人林と輸送ヘリを操縦していた自衛隊の男──木田(きだ)、そしてデパートの従業員達は共にデパート二階の食料を掻き集めていた。

 100人以上もいる為、食料の減りが尋常じゃないほど早い。まだ一日しか経っていないのにもかかわらず、3分の1ほどの食料や飲み物が無くなってしまった。

 その為、この階のゲームセンターにある景品の菓子や、フードコートで食べれる物、自販機のジュースを全て集めている最中であった。

 そんな中、林は申し訳なさそうに黙々と手伝ってくれてる木田に言う。


「木田さん、こんな事まで手伝ってもらってすいません。元々は運んでもらうだけだったのに……」

「いいさ、この街にいる俺の家族と会えれば……会えればだけどな……」


 暗そうに言う木田に元気を出させようと林は元気を装って言う。


「絶対に会えますよ!絶対に……」

「簡単に言うなよ。こんな状況で、連絡も取れずに昨日からまともに寝れや出来ねぇよ」

「……すいません」

「お前が謝る事じゃねぇよ」


 その顔は何処か焦っているようにも見えた。そんな話をされ、空気が一気に悪くなった。すると木田は小声でゆっくりと語り出した。


「家族とはもう何年も会っていない。ここを離れて、四国の駐屯地へと行った。あと少しでここに戻って、また家族と一緒に生活するはずだったのに。こんな事になりやがって……」


 悔しそうな顔をして言う木田に、林は更に質問をした。


「……息子さんいるんですか?」

「あぁ、まだ5歳になった息子がいる。帰ったら抱きしめてやろうとした」

「……僕にはまだ分かりませんが、息子さんに会えない気持ち、とても辛いとは思いますが、何としてもこの地獄から抜けましょう」

「あぁ、絶対に抜け出してやる」



 *



 その頃──雅宗は由美や謎の死体騒動がひと段落つき、一人おもちゃコーナーにいた。おもちゃコーナーはそこまで荒らされておらず、普段と大層変わりない状態であった。

 雅宗は物色をしており、何かを探している様子である。そこに一人の生徒がやって来た。


「蒼一郎か」


 それは暇そうにしている蒼一郎であった。蒼一郎は気怠そうに雅宗へと聞いた。


「一人で何してるんだ?」

「何か暇つぶしになる物がないかと思ってな」

「こんな時に、呑気な奴だな」

「こんな時だからこそ、みんなの元気を出して貰うんだろ。今のままの空気でいたら、それこそ狂ってしまう。だから、明るい気持ち続けないと俺らも感染者のように頭馬鹿になっちまうぜ」

「……それも、一輪あるな」


 雅宗は蒼一郎にトランプを投げつけた。


「それに今の状況はよく分かっている。あの男達がまた何しでかすか分からん。だからって、みんな固まっているだけなのも何も空気は変わらない。なら、おもちゃで少しでも気を紛らわす──それがいいさ」

「納得」


 二人はおもちゃコーナーにて様々なおもちゃを探すことにした。各自色んなおもちゃを見せ合い、面白い物を探すことにした。

 人生ゲームなどを見つけて調子付く最中、蒼一郎は暗い顔で雅宗に問いかけた。


「なぁ、雅宗。何で感染者に怯えて、生きてる人間が一致団結しなくちゃいけない時に、人間と感染者両挟みになって怯えなきゃいけないんだろうな」

「一番怖いのは俺達人間って事なんだろうな。感染者と違って、頭脳もある、意識も感情もある。それが一番の武器であり、一番の脅威だろうな……」

「……あぁ、一番怖いな」



 *


 様々な騒動が起きて意気消沈している幸久達。危険な事が連続的に起きて、先生達の会議で今後はなるべく全員固まって行動する事が決められた。

 由美も幸久の隣に寄り添い、安心している状態となっている。

 女子を一人にしない事──行動する時は、男子生徒や先生らなどと行動を共にして、なるべく注意を払って行動する事にした。

 今も、学生先生ら全員が揃って人が多くいるフードコーナーへと集まっていた。


「雅宗と蒼一郎は何処だ?」

「そういえばさっきからいないな」


 幸久と由弘が雅宗達を心配そうにしていると、雅宗と蒼一郎が大量の荷物を持って、フードコーナーへと戻ってきた。


「みんな〜!いいもん持ってきたぞ!!」

「雅宗どこ行ってたんだ!!」

「これを見れば分かる!」


 幸久の心配をよそに、雅宗と蒼一郎はその大量の荷物を下ろした。

 そこには人生ゲームのボードやトランプ、黒髭危機一髪などのお遊びグッズが大量にあった。全生徒達がおもちゃの前に集まった。


「これは?」

「暇つぶしの為に持ってきた。少しは気分転換になるかと思ってな」

「暇つぶしか……」


 幸久は浮かない顔でトランプを拾うと、戻ってきた結衣が嬉しそうに食い付いてきた。


「あっ、トランプだ!!それに人生ゲームだ!!やろうやろう!!みんなでやろうよ!!」


 秀光も疲れた様子で戻って来た。

 結衣は暗い空気にも関わらず元気な顔で秀光に人生ゲームを見せつけた。


「ん?なんやそれ、人生ゲーム?」

「うん!やろうよ人生ゲーム!!」

「あぁ、まぁええけど」


 秀光の手を引っ張り、無理やり座らせた。


「幸久も!!」


 幸久の前に立ち、手を差し伸ばす結衣。

 幸久は未だに元気のない顔だが、結衣の元気のある顔を見て少しは笑顔を戻し、結衣の手を優しく握りしめた。


「あぁ、やるか」

「由美ちゃんもおいで!!」


 結衣は由美にも手を差し伸ばして、人生ゲームへと誘った。


「……」


 元気のなかった由美の顔からも笑顔を戻り始めて、先ほどの騒動があって疲れているのか顔が赤くなっていたが、結衣の手をそっと握りしめた。


「やろうかな、私も」

「やったぁぁぁ!!」


 結衣は二人の手を引っ張り、人生ゲームの前に連れてきて、人生ゲームを始めた。


「さぁ、みんなでやろう!!」

「あぁ」


 幸久達の笑顔を確認した雅宗は他のおもちゃを出しながら、みんなを大声で誘い始めた。


「さぁ!!他のみんなも一緒に遊んで、元気出そうぜ!!」


 生徒達以外の人達も呼び寄せ、多くのおもちゃを配り、歳の差など関係なくここにいる多くの人々が楽しく遊んだ。

 真沙美も雅宗と共に黒髭危機一髪をした。優佳や由弘、先生らを混ぜて楽しく遊んだ。

 雪菜や綾音、伸二も元太らを混ぜてトランプをした。伸二の予想以上の強さに雪菜は頭を抱えてしまった。

 龍樹は遊びには参加しなかったものの、全員の楽しそうな姿を見て、少しばかり嬉しそうにしていた。

 暗い空気は少しの間だが暖かく、殆どの人々が恐怖を忘れて遊んだ。

 本来あるべき姿の人間──笑い、喜び、それがあるから人間は明るく生きていける。人という生き物なんだから。絶対にこの地獄からの脱出をする。それが、全員が生きる理由。


 この日は楽しいまま何事も起きずに過ぎようとしてしていた……


 この時、午前8時57分……時は流れて午後9時2分……

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