修学旅行10日目 午前8時05分
午前8時05分……
1人トイレへと向かう由美。何処か悲しげな表情で、その光景を人が集まっているフードコーナーにいる綾音が見かけた。
だが、表情を見て少しに気になるところがあったが、それを見送った。
すると、その由美から10m以上離れた所から昨日の昼蒼一郎に突っかかった男達数名がニヤニヤしたまるで由美を獲物とした獣のような顔をして由美の後を追うようにトイレへと入って行った。
「……」
それを見て綾音は先生を探そうとするが、何処にいるか分からず、また目を覚まさない里彦の隣に、本屋からから持ってきた漫画を読んでいる伸二へと話しかけた。
「し、伸二君……」
「綾音さん?どうしたの?」
「ちょっとだけ来て」
「あん?」
「由美ちゃんが……」
何も知らせずに伸二を連れ、そしてもう1人元太を頼った。
元太は梨沙と共に居た。そこで由美の事を話した。
「私の思い過ごしだといいんですが……」
「事が起きた後じゃ遅い、とにかくその男を追おう!!」
「私も行くよ。それにそんな悩んでいる顔をしてるなら、とりあえず話を聞いてあげないとね」
元太は伸二の方を見て真剣な表情で言い放った。
「君は雅宗君や幸久君を呼んで来るんだ!!」
「は、はい!!」
伸二は重い身体を起こしてすぐさま屋上へと向かった。綾音と梨沙と元太はすぐさま男達を追う事にした。
由美が1人暗いトイレへと行き、個室へ入ろうとした瞬間、背後から何か気配がした。
ふと振り返った瞬間、突然無数の男達が由美の口や身体を押さえつけて来た。
「ん!?ん〜!?」
「静かにするんだな……」
口は抑えられて助けは呼べず、さらに必死に暴れるが複数の大人の力には抵抗むなしく壁に押さえつけられた。
そして1人のいやらしい顔をした男がナイフを喉元に突きつけて来た。
「1人でここに何しに来たのかなぁ?助けを呼んだらこのナイフがっ……て、しゃべれないよなぁ〜口を押さえつけられてるんだからぁ〜」
「どうするんだ?この女」
「JKにしては上物だなぁ……へへ」
由美の目からは涙が流れてきた。こんな体験はもちろんない。更に今、幸久は結衣と屋上に向かって助けに来ない。
こんな見知らぬ地にて見知らぬ男達数名に囲まれてナイフを突きつけられている。
この男達はまるで人を弄んでいるかのように笑っていた。決して大声は出さないが、心の中では喜びに満ちた笑いをしていると由美には感じた。
男達が注目したのは、由美の胸の部分だった。
「味わうするか」
ゆっくりと撫でるように、触ろうとした瞬間。すると男達の後ろから大声が響き渡った。
「何やってるんだ!!」
「あぁん?」
「誰だ」
そこにはモップを片手に持った元太がいた。その顔は鬼のように険しい表情だった。
だが、男達は平然としていた。それはナイフがあるからだ。
男の1人がわざとらしくナイフを元太達に見せびらかしながら威嚇していた。
「今はお楽しみ中なんだよ、帰ってくれねぇかなおっさん」
「その子は俺たちと一緒にいる子だ!!お前ら如きが!!」
「こっちにはこんなにも鋭利な物があるんだぜ、いつだってこの女を……」
ナイフを再び首元に近づける男。由美の目から更に涙が流れてきた。
警察が来る訳がない、こんな感染者がいるこの都市に今、助けてくれる警察がいる訳ない。むやみに近づけない元太であった。
「くっ……」
*
その頃まだ雪合戦が繰り広げられている雅宗達。真沙美や優佳は雅宗達の雪合戦を微笑ましく見ていた。
「幸久君も雅宗君も頑張れぇ!!」
「結衣ちゃんも頑張ってぇ!!」
自分だけ応援されない秀光はちょっと不服に思いながら2人にツッコむ。
「俺だけ省いてないか、2人とも!?俺の存在も忘れんとって!!良いところ見せたるから!!」
そう言いながら自分の顔の何倍もある両腕でやっと持ち上げられるほど大きな雪玉を持ち上げて、投げようとした瞬間、そこに息を切らしかけている伸二が走ってきた。
最初に蒼一郎が気づいた。
「おっ?どうした、そんなに急いで?」
「はぁ……幸久君は……」
「今雪合戦してるが?」
「ちょっと……呼んでくれる……」
そう言われると蒼一郎は大声で幸久を呼んだ。
「おーい幸久!!伸二が呼んでるぞ!!」
「ん?」
蒼一郎の声に幸久は雪合戦を中断して、伸二の元へときた。
秀光の雪玉は重さで後ろに引っ張られてそのまま倒れた。
「どうした?」
「ゆ、由美ちゃんが……」
「由美が!?」
由美の名前を聞いた瞬間、すぐに眉毛を尖らせて顔を近づけてきた。
「どうしたんだ由美が!!」
「昨日の男達に後を追われて、今トイレに……元太さん達が後を追って……」
話を聞き、何も言わずにすぐさま走って行った。雅宗はその時は何が起きたのか、分からなかった。
「幸久!!」
雅宗も追うが、元陸上部である幸久の足は未だ衰えておらず雅宗とは圧倒的に距離を開けて走って行った。
「幸久どうしたの?」
結衣は話を聞きそびれて、とにかく幸久について行こうとするが、それを秀光が肩を抑えて止めた。そしてさっきまでの笑顔は消えて、冷静な表情で結衣に語りかけた。
「今はやめておいた方がええ」
「何で!?」
「その方が君の為になるんや」
その秀光の顔を見て、頷くしかなかった。
蒼一郎と雪菜、そして由美の友達である真沙美と優佳も雅宗達を追った。
「……私のせいで、私のせいだ……」
優佳は特に気にしていた。自分が離れたせいでこんな事になったと、走りながら自分を責めていた。
*
幸久は全力で走った。由美の事が心配であった。雅宗も全力で追うが、彼に追いつく事は不可能であった。
血相を変えて走っていく幸久と雅宗の姿をショッピングモールの支配人と話していた南先生と西河先生が、捉えた。
「あの2人……どうしたのかしら」
「さぁ」
そこへ真沙美と由美が走って2人の元へと疲れた様子で言った。
「先生!!ゆ、由美が……」
「由美ちゃんが?」
「大変な事に……」
話を聞き、すぐさま先生達はショッピングモールの若い店員などを数名連れて行き、トイレへと向かった。
そしてそこに到着した蒼一郎や雪菜、伸二達にも言い放った。
「あなた達はここで待機して。私が戻ってくるまで待ってて」
「は、はい……」
真沙美も心配する顔をしているが、優佳はそれ以上に心配していた。
「俺は行っちゃダメ?」
「ダメだ、危険な目に合わせる訳にいかん」
「ちぇ」
蒼一郎も行きたそうな顔をうずうずしているが、西河先生に止められていくのをやめた。
幸久がトイレの前に到着すると、そこには綾音が怯えた表情でいた。その表情を見て、更に不安が増す中、由美の安全を祈るだけだった。
この時、午前8時10分……