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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
90/125

修学旅行10日目午前7時44分

 

 午前7時44分……


 原作をやらせてもらうと言う須恵と名乗る者。哲夫はその人物に聞き覚えがあるようだ。


「あなたが須恵さん……」

「は、はい‼︎まさか、こんな場所で会えるなんて……」

「本当にですね……」

「……」


 お互いに言葉が止まり、静まり返った。

 須恵が再び話しかけた。


「あの〜編集の方は……」

「いや、私は九州から来て、編集の方とは連絡が……」

「……そうですか……」

「……」


 またまた会話が止まり、静まり返った。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「こっちや、こっち‼︎」


 笑顔で雅宗と真沙美の手を引っ張る秀光。2人ともされるがままに引っ張られる。

 フードコートで店長らからお菓子をもらい、ウォーターサーバーから紙コップ一杯分だけもらった。


「……やっぱり少ないなぁ」

「我慢しよう雅宗」

「そうやそうや‼︎我慢してなんぼや‼︎」

「ほんとテンション高いなお前は……」


 そんな3人の前に、幸久らが現れた。だが、幸久の手を握る小さな手も一緒に見えた。


「おっす雅宗……」

「おぉ幸久……ってあぁ」


 それは結衣が幸久の手を両手でしっかりと握り、何より嬉しそうに握っている。その幸久の後ろには、少しやきもちを焼いている由美が歩いていた。

 雅宗はあまりの気まずさに話しかけづらくなった。真沙美も気まずそうに由美へと挨拶を交わした。


「由美、優佳ちゃんおはよう……」

「おはよう……」

「……おはよう」


 優佳も気まずそうに挨拶をし、由美は完全にやきもちを焼いている状態になっていた。

 そんな気まずさが残る中、秀光は空気を読まずに幸久の方笑いながら発言した。


「あれって雅宗のダチか?」

「あぁそうだが」

「あんな女連れてる奴、大阪の街中にいっぱいいるで訳わかんないわ。ぎゃははは」

「……」


 もはや言葉を失い、何も言わなくなり黙々と食べ始めた。そんな中、由弘や龍樹らも来た。


「雅宗か、ここのショッピングモールの中はもう見たか?」

「あぁ嫌ってほどね、感染者のうめき声で中々寝れなかったよ」

「……ところでその隣の奴は?」

「変態野郎だ」


 きっぱり言う雅宗に、速攻で雅宗の頭を叩きツッコミを入れる秀光だった。


「ちゃうわ‼︎誰が変態野郎や‼︎俺は秀光‼︎この世界で一番の純白健康少年や‼︎」

「……よ、よろしく」


 そう言いながら熱い握手を交わすが、少し引き気味の由弘。

 そして先生達、蒼一郎や伸二達など生徒も揃った。南先生は生徒達の前で今後の事を話し始めた。


「店長さんに聞いたんだけど、やっぱり警察や救急隊、自衛隊に連絡を入れてるんだけど全然繋がらないようね……」


 残念がり落胆する生徒達、だが1人だけテンション高く手をあげる奴がいた。


「はいはいはい‼︎軍隊来ぉへんてどゆ事や‼︎」

「あ、貴方は?」


 そう南先生に疑問な顔されて言われると、飛び上がるように立ち上がり、自分に親指を指して自己紹介を始めた。


「俺はこの世に1人だけの純潔パーフェクト少年秀光や‼︎」

「さっき純白健康少年って……」


 真沙美が冷静にツッコむと、雅宗の頭を叩いた。


「痛っ‼︎」

「そんな呼称常に変わるんや‼︎気にすんな‼︎」

「本当にテンション高い奴だな……」

「学校のみんなによぉ言われるわ‼︎」


 秀光の事はとりあえず一旦置き、幸久は南先生に問いかけた。


「つまり当分はここでの生活って事ですか?」

「……そうね、一応、朝、昼、夜と外部へと連絡を入れるとは言っていたけど、いつになったら連絡が届くか……それに届いたとしてもいつ来るか検討はつかないわ」

「そうですか……分かりました」


 すると秀光が立ち上がり、南先生に向かって言う。


「先生‼︎もう話は終わりですか⁉︎」

「え、えぇ」

「なら、暇な奴ついてこい‼︎ええもん見せたる。面白いもんやで‼︎」


 そう言いながら真っ先に真沙美の手を強引に引っ張っていった。真沙美は困惑しているが、御構い無しにそのまま何処かへ走っていった。


「えっ?ちょっと待って‼︎」

「おい‼︎何やってんだよ‼︎」


 雅宗も止まる様子がない秀光をすぐに追いかけていった。


「暇だから行くかな」

「あたしも」


 蒼一郎と雪菜もこのショッピングモールでやる事もなく、とりあえず一緒について行った。


「結衣も行く〜‼︎幸久も〜‼︎」

「俺も⁉︎」


 すると結衣も幸久の袖を引っ張って秀光の方へと走っていった。幸久も渋々引っ張られながら連れてかれた。

 由美はプイっと連れてかれる幸久を止める事もなく動く様子を見せず、優佳が気まづそうに聞く。


「……由美ちゃんは行かないの?」

「私はいいよ。優佳ちゃんが行きたければ行って良いよ。私は待ってるから」

「……うん、分かった。ちょっと行ってくるね。すぐに戻って来るからね」


 そう言い残し、由美を心配そうに見ながら秀光の方へと行った。でも由美は笑顔で送ってくれた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「ここ⁉︎」

「そうや‼︎……ほぉ‼︎先客もいるようやな‼︎」

「……雪が」


 連れてかれたのは屋上。それも雪が疎らに降っていた。10cm程積もっており、先客と言うのは保育園児を2人と母親が雪で遊んでいた。親子は手袋や防寒具を着て雪対策をしていた。


「うひょ〜い‼︎」

「な、何やってるのあなた⁉︎」


 真沙美はドアの前で凍えていると、秀光は普通のジャンパーしか着てないのに雪の中へと突っ込み、顔を埋めこんだ。


「冷てえ‼︎でも、これがいいんだな〜‼︎」

「……」


 秀光が立ち上がると、そこには秀光の身体の形をした雪が出来ていた。

 そこに、雅宗も到着した。もちろん出入り口前で身体を震わせていた。


「さっむい‼︎で、でも北海道よりかは積もってはいないな」

「オラッ‼︎」

「痛ッ‼︎」


 秀光が少し硬めに丸めた野球ボールサイズの雪玉を投げて来た。それは雅宗の顔面にクリーンヒットしてその場に倒れた。

 そしてすぐに立ち上がり、外へ出て素手で雪玉を作り始めた。


「北海道の力見せてやる‼︎うおらぁ‼︎」

「なんの‼︎」


 2人はこんな時だが、雪合戦を始めた。お互いに投げ、お互いに避けあった。

 更に蒼一郎や雪菜も来た。そして外を眺めていた。


「あぁ〜見せたいもんて雪の事か」

「北海道の冬じゃ日常茶飯事だな」


 2人の雪合戦はさらに加速し、雅宗は寒さを忘れるほど熱中していた。


「中々早い球じゃないか‼︎」

「こう見えて小学校の時はドッチボール大会で一位を取った実力者やねん‼︎ドッチの神様って言われていたんや‼︎」


 そして結衣や幸久が来て、結衣が大はしゃぎで外へと飛び出た。


「わ〜い雪だぁ‼︎」

「おい、風邪引くぞ‼︎せめて防寒具でも着ろ‼︎」


 幸久も結衣を追うように外へと出ると、雅宗の投げた雪玉が幸久の顔に直撃し、雪で顔が覆われた。


「あっ⁉︎ゆ、幸久⁉︎」

「いえッ⁉︎」


 当たった瞬間幸久の動きが急に止まった。雅宗も秀光の動きも一斉に止まった。雅宗は特に顔が青ざめたように固まっていた。

 そして雪が顔から落ちた幸久の顔は赤くなっており、体がプルプルと震えていた。

 それを見て結衣は指差して大笑いをした。


「あははは‼︎なっさけな〜い‼︎」

「……」


 幸久はそっと素手で雪を掴み、雪玉を作り始めた。雅宗達はまだ固まってそれをただ呆然と見ていた。

 そして大きく雅宗の方を向いて、野球選手ばりに振りかぶって投げた‼︎


「グアッ‼︎」


 これまたクリーンヒットした雅宗はやられたようにその場に倒れた。


「よっしゃ雅宗‼︎加勢したるで‼︎」


 そう言いながら秀光も幸久に雪を投げ始めた。そして気づいたら結衣も秀光や雅宗に投げ始めて、雅宗と秀光チーム、結衣と幸久チームでの雪合戦が始まった。


「あ〜あ……結局あそんじゃうのね……」


 雪菜も蒼一郎は中から雪合戦を眺めて、真沙美も静かに見守っていた。

 しかもみんな楽しそうにしており、幸久は風邪を引かせんと言わんばかりに結衣を身を呈して庇いながら雪合戦を繰り広げていた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 その頃、由美は1人で切ない表情をしながらショッピングモール内を歩いていた。

 だが、その後ろからゆっくりと音もなく迫って来る影があった……



 この時、午前8時05分……

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