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修学旅行4日目 午後9時49分 ②

 

 午後9時49分……


 ホテル、病院、隣町と謎の感染が広がっている中、由弘達は……ゾンビ達から一時ホテルの前の奥にある大通りに路地裏で体を震わせ、白く凍った息を吐きながら隠れている。大通りを渡ればホテルへは行けるが、ゾンビに見つかればホテルが大惨事になる可能性がある。由弘はゾンビが近くから消えるのを待っている。だがゾンビ達は付近をうろついている。


「中々居なくならないな……」

「……でも、明石先生が居ないわね……」


 南先生が、ホテル入り口に一緒にいた明石先生がいない事に気づく。その時はまだホテルはゾンビに襲われておらず、ここの4人はホテルの内情を一切知らないのである。


「多分雪菜ちゃんの様子を見てくれてるはずです」


 すると突如、付近のうろついていたゾンビ達が一斉に高見橋方面へと走って行った。何か獲物を見つけたように。

 そして由弘は周りにいない事を確認して合図をした。


「この機を逃すな‼︎行くぞ‼︎」


 4人は一斉に路地裏から飛び出た。大通りを駆け抜けホテルへと入り込む。安心したと思いきや4人が見た光景とは


「何だ……これ……」


 おびただしい血と無数の死体が転がっているロビーだった。南先生がホテルを出てから30分程しか経っておらずその間にホテルはゾンビの手によって落とされたのである。


「このホテルが……なぜ」

「あっ……明石先生……」


 南先生が身も凍るような青い顔をして、指を指す。その方向を見るとロビーから離れたエレベーター方面の廊下からこちらに向けて走ってくるゾンビとなった明石先生やホテル員のゾンビ達だった。

 先ほどまでは元気だった明石先生がゾンビになった。それに怯えた表情な南先生は足が震えて動かなくなった。西河先生も驚きを隠せない様子だ。


「明石先生……な、何が……」

「西河先生は南先生を引っ張って下さい!」

「わ、わかった」


由弘は西河先生に指示した。西河先生は南先生を担ぎ走った。

 そして由弘はゾンビ達に向けて走って行った。流石の龍樹も由弘の行動に驚いた顔をする。

 由弘は目の前に来た明石先生の服を掴み、潜り込むように体を沈め、明石先生を担ぐように背負い華麗に地面に叩きつけた。由弘の柔道技の1つ背負い投げで一時的に行動不能にした。


「これで……」


 ホッとする由弘の目の前までホテル員のゾンビが迫って来た。


「しまったっ‼︎」


 驚く由弘、だがその時横から1発の拳がゾンビの顔をめり込みぶっ飛ばした。それは龍樹のパンチだ。


「今は柔道と違って一対一じゃねぇんだぜ」

「す、すまない……」

「早く行くぞ……まだまだ変な奴らが続々と来てるぜ」


 西河先生は南先生を担ぎ、エレベーターへと向かう。その間もゾンビ達が襲いかかって来る。それを由弘と龍樹は力づくで跳ね除けている。由弘は柔道技で倒したり、龍樹は素手で殴ったりと無理やり進んでいる。


「クソ、みんなは大丈夫なんだろうな‼︎」

「そんな事より、今の自分の状況を考えろ‼︎」


 何とかエレベーターの前に着き、ボタンを押す。だがエレベーターは8階にあり、ゆっくりと1階へと向かって来ている。その間は待つ事しか出来ず、4人の顔に焦りが見えてきた。何故なら先程倒したゾンビ達がゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって来てるからである。由弘は思わず何回もボタンを連打する。


「早く来い‼︎」


 エレベーターが1階に到着し、エレベーターに入り8階を押す。そしてドアが閉まる瞬間……1体のゾンビの手がドアに挟まりエレベーターは動かなくなった。


「うわっ!!」


 驚く西河先生、そして一生懸命手を退かそうと蹴る龍樹。ドアを無理やり閉めようとする由弘。だか他のゾンビの手も突っ込み、ドアが少しずつ開きそうになる。


「クソッたれ!!」


 すると龍樹が強く握りしめた拳で一番最初に手を突っ込んで来たゾンビの顔目掛けて体を押すように思いっきり殴った。……だが、後ろにゾンビ達がいて倒れるまでに至らなかった。更にドアは開きあと少しでゾンビがなだれ込む。

 龍樹が焦りに焦って考えた策でゾンビの顎目掛けて全力で蹴り上げ、続けて腹目掛けて蹴り飛ばした。すると他のゾンビ達がドミノのように前から後ろへ向かって倒れて行った。そしてドアは閉まった。


「助かった……」


 由弘は携帯を取り出す、幸久からの連絡が来てることを今知った。


「幸久⁉︎」


 電話をかける。すると「由弘‼︎大丈夫なのか⁉︎」大声の幸久の声が聞こえて来た。


「何とかな……先生や龍樹と一緒だ。今はホテルのエレベーターで8階に向かってる所だ……」

「雅宗はいないのか?」

「あぁ……いない……」

「そうか……」


 やはり雅宗がいない事に、落胆する幸久。


「8階についたら部屋に来い‼︎すぐだ‼︎」

「分かった……」

「8階は気をつけろ‼︎ゾンビみたいな奴がいる……」

「……分かった」


 電話を切り3人に電話の内容を話す。


「今から809号室に向かう。8階にも今みたいなのがいる。あと少しだ!!」


 そして8階に到着しドアが開く。エレベーターから出て部屋の方角を見ると先生達が倒れているのが見えた。


「あれは……先生なのか……」

「光吉先生まで……」


 西河先生には光吉先生だとすぐに分かった。同僚で仲が良かっただけにショックは大きい。南先生は度重なる死体を見てずっと虚ろの顔して涙すら流れなくなった。


「悲しんでる暇は無い。部屋に行くんだろ」

「……だが、あの変なやつらいないぞ……」


 幸久が言っていた事とは裏腹に、8階は何かいる気配は無く、警戒しながら歩くがゾンビがいなく難なくと部屋の前にたどり着いた。


「幸久‼︎開けてくれ‼︎」


 すると809号室のドアが開き幸久が警戒しながら出てきた,


「早く入れ……」


 4人は部屋に入る事が出来、由弘は溜まっていた疲れが一気に爆発し倒れた。


「だ、大丈夫か⁉︎」

「なぁに……大丈夫だ……疲れただけだ」


 由弘は龍樹の方を見て言う。


「龍樹もすまねぇな助けてもらって……」

「ふっ……暴れ足りなかったから俺には丁度いい運動になったぜ……」


 ニコっと軽く笑い龍樹も倒れた。そして幸久は先生達にも話しかける。


「先生達も大丈夫でしたか……」

「あぁ……2人のおかげで何とか……」


 幸久が南先生を見ると先生は目から大粒の涙が流れていた。


「先生……」

「私……みんなを助ける為に、ホテルを出たのに……足を引っ張って、誰も助けられてなかった……」


 乱れた涙声で今の気持ちを訴える南先生。誰も口を開けなかった。


「だが、幸久……この階にあの変なやつらはいなかったぞ」

「……⁉︎どうゆう事だ⁉︎」


 命からがらホテルにたどり着いた由弘達……そして雅宗達は……




 ーーーーーーーーーーーー


 由弘達とは別の大通りを走っている雅宗達は一時的に休憩を取り高見橋を渡り終えた。降り注ぐ雪が黒い制服へと付着し、白色斑点が付いているかのようになっている。ホテルは見えこの大通りを進めばホテルへとたどり着ける。


「あと少しだぞ!頑張れ!」


 里彦は疲労が溜まり息を荒げている雅宗に檄を入れる。


「あと少しだな……って、嘘だろ……」


 青ざめた声をあげる雅宗。その目の先にはホテル方面の大通りから無数のゾンビ達がこちらに向かって走ってくるのを発見した。


「走れるか?」

「大丈夫だ……」

「くっ……あと少しだってのに……」

「裏道から行こう」


 里彦の提案で雅宗達はゾンビから隠れる為一時大通りから離れて裏道からホテルへと行く事にした。

 ホテル側の裏道にはゾンビ達はおらず、ゆっくりとホテルに近づく。ゾンビ達は雅宗達を見失ったのか追ってこなくなった。


「何とか到着したようだな……」


 そしてホテルの入り口に到着した。中に入った雅宗達はホテルの状態を見て、唖然とする。


「ホテルが……」

「急ぐぞ‼︎部屋に早く戻ろう‼︎」


 考えてる暇はない。そう思った雅宗は重い足を運びエレベーターへと向かう。

 するとエレベーターの前に大勢のゾンビが溜まっていた。


「嘘だろっ⁉︎」


 驚く暇もなくゾンビ達が雅宗達の存在に気付き、追いかけて来た。里彦は周りを見て1つだけこの状況を打破する方法を見つけた。


「階段から行くぞ‼︎」

「マジかよ……」


 備え付けの階段で8階まで行く作戦だ。


「一気にかけ上がるぞ‼︎」

「クソ〜‼︎やってやる‼︎ここで捕まる訳にいかない‼︎」


 再び雅宗に檄を入れる里彦。そして最期の力で登ることを決意する雅宗。

 そして階段を全力で駆け上がる2人里彦の方は普段サッカーの練習で階段走りで足腰を鍛えている為軽々と走っているが、雅宗は足に重りがついてかの如くゆっくりと走っている。ゾンビ達が階段に駆け上がって来る。ゾンビ達は体力が無限にあるみたいにずっと走って追いかけてくる。


「やべぇぞ‼︎奴らが来た‼︎」

「ここで捕まって堪るかぁぁぁ‼︎」


 雅宗は足が壊れても良いと覚悟して、階段を駆け上がり、里彦の真後ろに引っ付くように走る。だが同じスピードでゾンビ達が追いかけてくる。そして5階を通り過ぎた時、5階通路側から8階で襲われた先生達や女子生徒のゾンビが雅宗達の階段を駆け上がりだした。


「ふ、増えやがった‼︎」


 里彦が後ろを振り返り、足が止まる。


「振り向くな‼︎走れ‼︎」


 雅宗が背中を押し、階段を走らせる。そのまま6・7階と駆け上がり8階に到着した。2人は休む暇もなく部屋へと走る。


「何処の部屋に行くんだ‼︎」

「俺の部屋の方が近い‼︎」


 里彦の部屋806号室前で止まりドアを叩く。


「伸二、俺だ‼︎里彦だ‼︎開けくれ‼︎れ


 階段を登り終えたゾンビ達が雅宗を追い掛け、部屋の前目掛け走ってくる。追い詰められる雅宗達……


「伸二‼︎」


 するとドアがそっと開き、その間に滑り込むように部屋に入る事に成功した。ドアを閉めたと同時にゾンビ達は806号室前に到着し、ドアを掻きむしる。

 到着すると伸二がホッとした顔で2人もホッとする。


「里彦大丈夫⁉︎」

「俺は大丈夫だったが……清孝が……」

「えっ……」


 伸二に顔向け出来ず、暗い表情をする里彦。だが、話さなければならない。里彦は伸二にこれまでの経緯を話した。清孝はコンビニでゾンビに襲われた生徒の事である。襲われた後怯えてトイレの中に隠れ、その後雅宗と出会い、助けてもらってコンビニを脱出し、このホテルまで走って来た事を。


「すまん伸二……俺は清孝を守れなかった。許してくれ……」


 深々と頭を下げる里彦。それを見て呆然と佇む伸二。そして伸二は雅宗の方を見て暗そうに喋る。


「……じゃあ君が雅宗君……」


 だが雅宗は……寝ていた。倒れたように畳の上でぐっすりと寝ていた。


「こいつ疲れてるんだよ……走り過ぎで……布団を掛けてくれないか」

「う……うん……」


 布団を掛けてあげる伸二、その表情はどこか悲しげも見える。




 友達を失った悲しさ、崩壊した街、そしてこの状況で生き残った人々……絶望の中にある一筋の希望。それは一体何だろうか。ゾンビ達は立ち止まる事なく進み続ける。生きてる人間がいる限り。そして少年達はこの状況をどう切り抜けるのか……


 この時午後10時3分……





 これは小さな駅前で起きた約1時間30分の出来事である。

 これは始まりでは無い……始まりの終わりである……





 序章……完











 そして時は進み修学旅行5日目 午前6時54分……

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