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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
88/125

修学旅行9日目 午後0時56分

 85話 修学旅行9日目


 午後0時56分……


 雅宗達は源児郎達についていきショッピングモール内へと入った。

 龍樹は1人駐車場の端へと行き、地上を見渡した。そこにはショッピングモールの入り口に大量の感染者が溜まっており、地上の駐車場には大量の血が飛び散っていて、今日の大惨事を容易に想像出来た。


「……」

「どうした龍樹?」


 龍樹の動きが気になり、追って来た由弘。龍樹は何も言わずに腕を組みながら首を動かし、目線で地上を指した。


「こんなにも凄い状況とは……」


 こんな状況に由弘は呆気に取られていた。そして龍樹はそんな状況にボソッと呟く。


「……食料が持てばいいがな」

「うん?ここはショッピングモールだ。ある程度持つはずだ」

「この付近を見る限り電気は止まっていて生物はほぼ壊滅。更にこの寒さ。ショッピングモールだからガスボンベやカセットコンロぐらいはあるだろうが、電気がない今はかなり応えるだろうな」

「……それにあの蒼一郎に食いかかっていた男達……」

「あぁ……あれには要注意だ。ああゆうのが閉鎖空間内で争いを起こす種となる。それが起きればここで容易に生きるのは難しくなる」

「……そうだな。俺達もここに居る人達にとっては部外者。警戒はされるだろうな」


 話していると、顔に冷んやりとした白い結晶が付いた。


「……また雪か。こんな状況で寒くて雪が更に降れば、九州と同じ事になってしまう……」


 九州も雪が降り、道路の整備が行われる事がなく、多くの地域の救出が今も困難に陥っているのだ。もちろん、救出の最中感染者に襲われるのも多々あった。

 本州も本格的に感染が広がり始めている。2人はそれを間近で実感していた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 雅宗達一行は、ショッピングモールの店長に付いて行く。

 いつもなら明るい音楽が流れ、店員さんが挨拶して来て、多くの人で賑わっているはずの場所が、音楽は流れておらず、電気も消えており、ライトや蝋燭などで電気を賄っている。

 それに店などは荒らされた跡もある。多くの人が至る所にいるが、ほとんどの人は元気がなく、静かに項垂れているか、こちらを睨んでくるようだった。

 雅宗は真沙美と歩きながら周りを見渡す。


「……みんな、元気がないようだな」

「えぇ、こんな世界に急になったんだもの、誰も元気になんてなれないよ」


 だが、1人だけ元気な子がいた。


「さぁさぁ‼︎こっちよ、こっち‼︎」

「ちょっ‼︎引っ張るな‼︎」


 源児郎の孫である結衣が、楽し気な表情で幸久の腕を引っ張って店長よりも早くその場所へと案内する。

 後ろの方では由美が、少々不満気な顔で優佳と共に歩いている。


「あ〜あ‼︎幸久君、新しい彼女ゲットしたかしらね〜」

「あんな子が幸久にたどり着こうなんて何百年もかかるわよ‼︎」

「ふ〜ん」


 そして結衣に連れてかれた場所とは。


「ここよここ‼︎」

「?ここは……」


 そこはショッピングモールのフードコートであり、多くの人はそこの椅子に座っていた。


「ささ、皆さんここに座って下さいね〜」


 店長に招かれるがまま、みんなは椅子に座った。フードコーナーはラーメン店や洋食店、クレープ店などが立ち並んでいるが、どれも開店していない。


「幸久はここ〜」

「え……あ、ありがとう」


 幸久は結衣に引っ張られて、困惑しながらもそのまま席に座らされた。

 源児郎は申し訳なさそうに言う。


「すいません、孫が……」

「いやぁ別に大丈夫ですが……」


 結衣は幸久を気に入ったのかニコニコとしながら周りをウロウロしている。由美や優佳、真沙美も幸久と同じ席に座るが、3人には眼中なんてないのか、幸久ばかりを見ていた。


「幸久〜何か食べたい〜?」

「……水かお茶かな」

「うん‼︎私持って来るね‼︎」


 満面の笑みで開店していない店の方へと走って行き、そこからお茶のペットボトルを持ってきた。


「はい‼︎」

「……ありがとう」


 戸惑いながらもお茶も貰うと、結衣は幸久に頭を突き出した。

 由美の顔も気になるが、振り向くのが怖く、多分鬼のような顔なんだろう、後でコテンパンにされるだろうなと思いながら、やけくそ気味に作り笑顔をしながら頭を撫でた。


「は、ははは……」


 その頃、雅宗は蒼一郎と共に1階を見ようとショッピングモール中央の吹き抜けから1階を見ていた。


「1階はアウトって事か」

「あぁ、そのようだな……食料はあんま期待出来ないな」

「やる事もないし、俺はショッピングモール内を探索するかな」


 1階は感染者が大量にウロウロしており、完全に制圧されていた。血などが飛び散っているのを見ると、凄惨な光景が思い浮かぶ。

 階段などは大きな家具などで道を塞いでいた。

 先生達も店長や源児郎などに話を聞いていた。西河先生や南先生が店長に案内されたのは広々とした大きめなゲームセンターだった。もちろん、ゲーム機は動いてはいなかった。


「今、私達の主な食料はゲームセンターの景品となっている菓子物、それと、自販機や食店で売られていた飲料水しかなくて」

「……これではいつまで持つか分かりませんね……」

「でも、困った時はお互い様です。皆さんなるべく節約しながら食べて行きましょう。さすれば救援がいつか来るはずです」


 そう言いながら店長は笑顔で西河先生に握手を求めてきた。それに応えるべく、西河先生も深々と頭を下げて握手に応じた。


「しばらくの間お世話になります」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 そして午後5時ごろなると、雅宗はショッピングモール2階を探索し終えて、この階の事を調べていた。

 この階にあるのは、フードコーナー、大量の服屋、本屋、ゲームセンター、おもちゃ屋さん、布団屋、100円ショップとあったが、食料品店は1階にしかなかった。


 ほとんど人はフードコーナーへと集まり、そこに懐中電灯を集中させた。

 そこで今日の夕飯を配られた。500mlのペットボトルのお茶と小袋のお菓子だった。蒼一郎はそれに驚愕した。


「こ、こんだけ?」


 幸久の隣では結衣がお菓子を美味しそうに頬張っていた。


「美味しい、美味しい」

「なぁ結衣ちゃん、聞きづらい事だけど、君は関西弁じゃないの?」

「うん‼︎私は東京で生まれて、2日前にここに来たの‼︎」

「お母さん達は?」

「大阪の家にいるかな?」

「……そうか……」


 その横では、険しい顔をして幸久を睨みつける由美がいた。だが、幸久は振り向く事は出来ずに夜飯は終わった。

 龍樹は遠くから端っこで愚痴愚痴と言いながら食べている茂尾とその仲間達を見ていた。


「あぁあ‼︎こんだけじゃ足りねえぜ」

「そうだな……それに色々と溜まって来てしょうがねぇ」

「へへ……でも、今日来た女らは結構いいのいるじゃあねえか」


 9時頃になるとライトも消し、布団や毛布などが配られて寝る事になった。

 もちろん結衣は幸久の横にいた。由美もその近くにいるが、お構いなしだった。

 そして寝始めて1時間後の午後10時……突如、幸久の耳元で何か囁かれていた。


「ねぇ幸久、幸久〜」

「う、う〜ん」


 目を開けると寝ている幸久に結衣が跨っていたのだ。驚いて飛び起きると、結衣は転がり落ちたが、平然としていた。

 そして幸久に寄ってきて言い放った。


「ねぇねぇ?幸久ってキスした事あるの?」

「……⁉︎な、何を言ってるんだ⁉︎」

「キスしたって聞いてるだけだよ〜」


 まだ自分より5歳も若い子に言われて、暗闇で分かるほどあたふたする幸久。

 結衣自身は何の気なしに言っているが、幸久の態度を見て口を塞ぎ押さえて笑う。

 だが、ここは年上としてきちんとしないといけない。そう思った幸久は態度だけでもときっぱりと言った。


「……ま、まだした事ない‼︎そうゆうのするのも聞くのももっと大人になってからだ‼︎

「じゃあ由美ちゃんと何歳になったら、キスして結婚するの〜?」


 そんな事を言われれば幸久の慌てっぷりは尋常じゃ


「うっ……そ、それもちゃんとお互いの事を知ってからで……そのぉ……」


 幸久は照れながら目は上の空だった。すると結衣はニヤリと小悪魔風に歯が見えるように笑い、静かに幸久の顔に顔を近づけた。

 幸久は顔を近づけて来る無邪気な幼き女の子に少し顔を離す。


「へぇ〜なら……」

「……⁉︎」


 この静かなで雪が降り注ぐ寒い夜。寒さで凍えそうになるほど震えてしまう中、幸久の身体の一箇所だけ数秒間ほのかに暖かくなった。


「な……⁉︎な、何⁉︎」


 その暖かい正体は、胡座をかいている幸久の両足に、両手を起きその幸久の唇に自分の暖かな唇を付けた結衣だった。

 流石の幸久も一気に顔を赤らめて動揺を隠せる事が出来ずにその場に固まった。そして結衣は唇を幸久からゆっくりと離した。


「へへへ……」

「い、いやぁ……えぇ⁉︎」


 そんな事を知らずに、ぐっすりと眠りについている由美や優佳。

 

 この時、午後10時17分……



 時は流れて、午前7時頃……

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