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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第2章 四国上陸編
86/125

修学旅行9日目午前10時40分

 

 午前10時40分……


 多くが再会を喜びあっている中、梨沙は元太を見るなり、真剣な顔つきで元太の方へと早足で一直線に向かって来た。

 一方、軽トラから降りた元太は周りの人の多さに雪菜と共に仰天していた。


「こんなにも人がいたのか……ヘリに全員乗れるのか?」

「あぁ確かに……それより、近づいてくるぞ」

「?」


 雪菜は一足先に梨沙が近づいて来たのに気づいた。そして雪菜が言った後に、元太も振り向き、梨沙をこの目で見た。


「……り、梨沙⁉︎」


 元太は梨沙を見た瞬間、迷子の子供と親の再会のように両手を広げて溢れんばかりの笑顔を見せながら梨沙の元へと走っていた。


「梨沙〜‼︎久しぶりだな‼︎お前も大丈夫だったかぁぁぁ‼︎」

「……」


 嬉しそうな顔の元太とは対照的で、寄って来た元太に向かってビンタを食らわせた。


「痛っ⁉︎な、何すんだよ〜‼︎」


 元太は怒っていないものの、赤くなった頰を優しく撫でた。

 そして梨沙は雪菜の方を指して言った。


「あんた、まさか若い子に手出したのかい⁉︎」

「ちょっ‼︎誤解だよ誤解だ‼︎」


 どんどん詰め寄ってくる梨沙に両手を振りながら弁明を図る。


「い、いやぁ……それはぁ」

「あぁ‼︎言えない事情でもあんの‼︎」

「ほ、本当に誤解だ‼︎本当に雪菜ちゃんが昔の梨沙に見えたからだよ‼︎」


 それに梨沙が反応し、雪菜の顔を見る。じっくり見てくる為、雪菜もちょっと引き気味だ。


「な、何だよ」

「たしかに……」


 梨沙は大きく手を叩き、笑いながら肩を叩いて来た。


「ははは‼︎本当だ‼︎昔のあたしにそっくりだわ‼︎その反抗的な態度に、その髪。全てそっくり‼︎」

「あぁ?」

「だろぉ‼︎ははは‼︎」


 梨沙と元太はお互いを見ながら笑いあった。さっきのピリピリしたムードとは違い、一気に和やかになり、抱き合った。


「やっぱり本物が一番だ‼︎」

「久しぶりに会えて私も嬉しいよ‼︎てっきりあんたみたいなノロマはもう感染者になってると思ってから〜はっはっは‼︎」

「冗談キツイよ梨沙ちゅわ〜ん‼︎」


 2人は変な空間を作り、周りのみんなも不思議に見ていた。だが、2人はその世界から抜けずに2人の世界に入り浸っていた。

 蒼一郎が2人の光景を見ながら、雪菜に向かって言う。


「あの2人は何だ?」

「バカップルって奴だろ……」


 ーーーーーーーーーーーーーー


 同時刻、昇太は雅宗達に別れを告げようとしていた。


「昇太さん行くんですか!?この状況化で、何処に?」

「何処へ行ってもこの状況は一緒だろう。疲れたんだよ。逃げ回るくらいなら、自分の好きなように今の状況を楽しむさ。もしもの時は、この銃で──」

「……」

「そんな顔するなよ。俺は俺なりに生きて行くからよ。お前らのような奴らは帰る場所に帰れよ。絶対にな」

「はい……ありがとうございます」


 由弘と昇太は力一杯の握手を交わした。感謝をしきれないほどに助けてもらった由弘は何度何度も感謝の言葉を表した。

 そして昇太は車に乗り込み、小窓を開けて由弘に言う。


「まっ、俺は生き残っている奴を見つけて、何か解決策を見つけるわ」

「頑張って下さい。昇太さん!」

「あぁ、またいつか漁が出来ることを祈っているさ。あの綺麗な海で。じゃあなみんな、絶対に生き残れよ!」


 そう言って窓から片手を出して、軽く手を振りながら雅宗達が向かう場所とは真逆の方向へとゆっくりと車を走らせて行った。



 自衛隊員で、幸久達に協力している林と教頭は、ヘリを運転して来た隊員の1人を説得していた。


「早くこのヘリを動かして下さい‼︎」

「……さぁな、知るかそんな事……」


 銃を突きつけられている中、冷静に装う隊員。教頭も必死こいて隊員を説得する。


「そこを何とか……今のままで、貴方諸共感染者に噛まれてしまいますよ」

「知ったこっちゃない。自衛隊に入った時から、死なんてずっと覚悟しているまでだ。撃ちたければ撃て」


 中々強情な隊員に教頭は別の話題を振る事にした。


「貴方は結婚しているんですか?」

「ふん、そんな事を聞いてどうするんだ」

「いえいえ、世間話のつもりでして」

「……結婚はしてるさ」

「何人家族で?」


 教頭が話しているのを林は緊張感を感じながら見ていた。

 巧みに会話を弾ませる教頭にとりあえず、任せてみる事にした。


「……3人……」

「3人。それは息子さんですか?娘さんですか?」

「息子だよ、9歳の息子が」


 そう答えられると、教頭はしんみりとしたら顔で話し始めた。


「……そうですか、私も北海道の家に大学生にもなる娘が居ましてね。1ヶ月前まで、彼氏と同棲すふ為にって色々と家事を手伝っていました。ですが、料理は下手で、洗濯も風呂を沸かすのも点でダメで、私はそんな娘に毎回厳しく言いました。娘も反論して来ました。けど、自分の悪い所も分かってくれたのか、段々と上手くなって来たのですが、やはりまだまだ料理は下手でした」

「……」

「今はもう彼氏と同棲しているんですが、ちょくちょくと妻の元にお父さんお母さん元気?と、連絡が来るんですよ。それが今の私の元気でいる力の源なんです。小さくてうるさくてワガママだった娘が、嫌な時も多くあったが、やはり好きなんです。だから、今も家族が心配なんです……」

「……」


 だんまりを決め込む隊員。林も教頭もやはりダメかと思い落胆した。すると、ヘリのプロペラがゆっくりと回転を始めた。


「……⁉︎」

「これが、俺の家族だ」


 隊員が見せてきたのは、スマホの写真で、そこには若く美しい妻と、サッカーのユニフォームを着た土まみれの息子、そしてピースをしている隊員。全員笑顔で、写真からも暖かさが伝わってくるほどだった。

 教頭はその写真を見て微笑んだ。昔の家族で撮った写真を思い出すように。

 そして隊員はそっと口を開けた。


「運んでやる……その代わり、大阪に行くぞ。そこに俺の家族がいる」

「分かりました……ありがとうございます」


 教頭と林の2人は頭を深く下げてお礼を言った。

 幸久達が再会を喜んでいるのもつかの間、公園周辺を感染者が囲んでいた。林はすぐに全員へと呼びかけた。


「皆さん‼︎早くヘリに乗って下さい‼︎急がずにゆっくりと‼︎」


 全員、林や西河先生、幸久らの先導に、約40人を超える人がヘリに乗り込んだ。

 CH-47Jに座る所はあまり無く、なるべく怪我人や老人などを優先的に座らせ、それ以外の人は床に座り込んだ。


「離陸します‼︎ヘリが飛んでいる間は、あまり動かないようにして下さい‼︎」

「離陸する‼︎」


 ヘリは大量の人を乗せながら、空を飛んだ。

 真沙美は椅子に座らされて、雅宗は真沙美の前に座り込んでいた。


「この四国から、やっと出られる」

「えぇ……」


 そして意識がないままの里彦は、座らされてシートで完全に縛られていた。伸二は元太から貸してもらいっぱなしのスマホで色々と調べていた。


「本州……感染者の目撃情報多発……」


 昨日より、中国地方、関西地方などで多くの感染者の発生や事件。感染動物などによる、無差別襲撃。

 政府は対応に追われている。だが、そんな中、首相や大臣達はアメリカへと緊急避難を余儀なくされた。


「……どこへ行っても……もうダメなのか、僕たちは」


 幸久も由美や優佳と共に小さな窓から外を見た。感染者達がヘリに向かって手を伸ばしていた。他の場所からも多くの感染者がこちらを睨むように見ていた。


「……」


 いつもなら賑わっていた街はもうない。もし、また賑わう時が来る事があるなら……それはいつだろうか?

 幸久の疑問は、誰しもが思っていた。

 そして安全な地へと向かい、安全な生活を送れる日は来るのか?


 隊員が後ろの人々へと言い放った。


「我々は今から大阪へと向かう。感染が何処まで広がっているか分からん。だが、安全な場所へ下ろす」


 曇る空を背景にヘリは、大阪へと向かっていく……


 この時、午前11時01分……


 四国上陸編……完












 時は流れて、午後0時39分……


 場所は……大阪へと移り変わる……




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