修学旅行9日目 午前10時4分
午前10時4分……
「万事休すか……」
雅宗が一歩後退した瞬間、神咲はためらいもなく足元に銃撃を放った。
「⁉︎」
「動かないでね……僕も君達を殺すのは好まないからね」
再び銃を向けると、真沙美が雅宗の前に両手を広げて仁王立ちをした。
「雅宗を撃ちたければ、私を‼︎」
「な、何をするんだ真沙美‼︎やめろ‼︎」
「貴方に私を撃てないはずよ‼︎」
銃を向けたままだが、撃つことはなかった。雅宗と雪菜は真沙美の事情が分からず、何がなんだか分からない。だが、真沙美の堂々とした風貌に何処かしら誇らしく見えた。
すると神咲は銃をそっと下ろした。
「……それはずるいですよ、貴方を撃ったら私が撃たれてしまいますからね……」
「い、行きましょう……」
撃ってこない事を信じて、真沙美が雪菜と雅宗の盾になりながらトイレへと向かった。神咲も追う事はせず、じっとこちらを不気味に見つめていた。
そのまま男子トイレは感染者がいたので、女子トイレの方へと入った。こんな時なので雅宗は何も抵抗もなく女子トイレに入った。
入ってすぐ念のため、用具入れや掃除道具などをドアの前に起き、開けられないようにした。
「俺が外を確認する……それまで……」
その時、雅宗の電話がなった。確認すると幸久からだった。すぐに電話に出た。
「も、もしもし‼︎幸久、大丈夫か⁉︎」
「俺の方は大丈夫だ‼︎ヘリが少し撃たれただけだ、それよりお前達全員大丈夫か⁉︎」
幸久達はヘリが撃たれた後、一時的に遠くの山の空で待機していた。この電話はスピーカーをオンにして、ヘリ内の全員が耳を揃えて聞いていた。
「俺も雪菜も大丈夫だ‼︎それに真沙美と里彦の救出成功だ‼︎‼︎」
「ほ、本当か⁉︎や、やったぜみんな‼︎」
ヘリの中では、幸久はもちろん由美や優佳、南先生、梨沙など女性陣は全員喜び、蒼一郎や西河先生もほっと胸を撫で下ろした。
「また無茶しやがって……」
「今回もアイツにいいとこ取られか……でも良かったぜ」
幸久は安心しきった風に言い、蒼一郎も悔しそうだが声からは嬉しさも混ざっていた。
この中で一番喜んでいたのは由美だった。一番の友達であり、いつも隣にいた真沙美がやっと戻って来る。その事で涙が流れていた。だが、顔は嬉しそうに微笑んでいた。
「幸久……電話変わって……」
「あぁ……」
由美の顔を見て、すぐに幸久は電話を貸した。手がブルブルと震えていたが幸久がそっと手を合わせくれた。
「雅宗……真沙美と変わっても大丈夫?」
「分かった。真沙美、由美からだ」
「うん‼︎」
電話を変わり、真沙美に静かに話しかけた。
「由美?」
「真沙美……」
「由美……やっと帰って……」
「それ以上はまだ言わないで……」
「えっ?」
戸惑う真沙美、そして由美は笑い、そして泣きじゃって言い放った。
「それ……言うのは……私達みんなの前で……言って‼︎」
「……うん……その言葉はみんな再び合流してから言う……絶対に‼︎だから、またみんなで……‼︎」
「うん‼︎」
そう言い残す真沙美と由美は携帯を雅宗と幸久に戻した。
「そうゆう事だ……幸久‼︎絶対にまた会おうぜ‼︎」
「分かった‼︎今からヘリでそっちに向かう‼︎」
「……俺達は別の仲間もいる‼︎綾音と伸二だ‼︎そいつらともう1人の元太っておっさんの軽トラックに乗って安全な場所に逃げてから載せてくれ‼︎」
元太の名を聞き、一瞬だけ何か感じた梨沙。だが、気のせいだとすぐに忘れた。
「分かった‼︎その時はまた連絡してくれ‼︎」
「あぁ‼︎じゃあ……またな‼︎」
そう言い電話を切り、次に元太達へと電話をした。
「雅宗君か⁉︎大丈夫⁉︎」
「俺達全員大丈夫だ、それに救出も完了だ‼︎伸二に伝えて下さい‼︎里彦を助けたって‼︎」
元太には里彦が誰なのか分からなかったが、大事な人だと分かり、すぐに伸二へと知らせた。
「伸二君‼︎雅宗君から伝言だ‼︎里彦って子が助けられたって」
「ほ、本当ですか⁉︎」
そう言うと元太はスマホを伸二へと渡した。おどおどする一方で、心の中で嬉しさが止まらない伸二であった。
「雅宗君⁉︎」
「伸二か⁉︎」
「ほ、本当に里彦を⁉︎」
「あぁ‼︎今は気絶中だが、怪我とは大丈夫だ‼︎今からそっちのトラックへと向かう‼︎だからいつでも発車出来るようにしとけよ‼︎」
「分かった‼︎」
そして今度こそ通話を切り、外へと出ようとする。
「よし、俺が外を出て安全を確認する。もし安全なら真沙美は雪菜と共に行ってくれ」
「うん」
「分かった」
雪菜に一旦里彦を預けて、窓から雅宗が外へ出た。そして周りを確認した。この窓の外は2mほどの草木が並んで駐車場側からは見えづらくなっている。そして安全を確認すると、雪菜から里彦を渡してもらい、雪菜と真沙美も出て来た。
「俺について来い……」
里彦を背負っている中、雅宗は率先して先頭に立ち病院の外にある別の駐車場に停めている元太のトラックへと向かって行く。
ここに呼ぶ手もあった。だが、それは感染者に追われる。それを避けるためであった。
草木から出て周りを厳重に確認しながら、駐車場を横断する。屋上にあるヘリのプロペラが回る音や先程の幸久達が乗っていたヘリの音などで、発生源である屋上へ目指すべく、付近の感染者達が玄関口にあふれていた。一見気を取られて行けそうに思った。だが、別の場所にいた感染者達も一気にこの病院周辺へと集まって来た。
「いっぱいいやがる……」
「どうするの……雅宗……」
不安に落ちる真沙美、これ以上辛い目に合わせなくない……そう思った雅宗は真沙美が手に持っていた拳銃を奪い里彦を下ろした。
「な、何する気だ⁉︎お前‼︎」
「雅宗‼︎」
2人が言うと雅宗は焦りの汗が出る中、ニヤリと笑っていた。
「やっぱり……助ける為にはこうしないとな……雪菜‼︎里彦を頼む‼︎」
「まさか……」
真沙美の不安は的中し、雅宗はそのまま草むらを飛び出て、拳銃を何発も空に打ち上げた。
「さぁ‼︎感染者供‼︎こっちだ‼︎」
この時、午前10時13分……