修学旅行4日目 午後9時49分①
午後9時49分……
ゾンビに出会った幸久が部屋に戻って先生達へと報告しようとしていた時。
ホテル8階816号室──
幸久の騒ぎ声に教頭が気づいた。そしてネチネチとした言い方て怒り始める。
「今、生徒の声が廊下きら聞こえませんでしたか?生徒達に伝えましたよね?部屋からは出るなと。なんでこんな時まで怒らなくちゃ行けないんですか」
このままだと話が長くなると角刈りの体育教師、近藤光吉先生が手を挙げた。
「私が注意して来ますんでその辺で……」
「ふん」
教頭の機嫌をとったが、教頭はそっぽを向き、部屋の空気が一気に静まり返る。部屋にいる全員も口を閉じた。
光吉先生も内心ホッとし、部屋のドアを開け廊下を見る。その光景に一瞬だけ呆然とした。そこには幸久を襲撃した女子生徒のゾンビが809号室前をフラフラと歩いていた。
「だ、大丈夫か!?……先生方!!け、怪我人がいました!!」
だが光吉先生はゾンビだとは気づいておらず、怪我した生徒だと思い込んで部屋の先生達に呼びかける。
光吉先生の大声に816号室の先生3名や8階の部屋に待機するように言われた生徒達何名かも野次馬の如く出てきた。教頭もドアからその様子を伺っている。もちろんその声は雅宗達に電話を掛けようとしていた幸久にも聞こえた。
「まさか……さっきの声は光吉先生!!」
幸久はすぐさまドアへと向かい、軽くドアを開け廊下に全員に大声で叫んだ。
「みんな早く部屋へ戻るんだ!!そいつには近づいちゃダメだ!!」
その時には遅く光吉先生は生徒の目の前にいた。そして幸久の言葉に光吉先生は幸久の目を見て激怒する。
「こんな時に何を言っているんだ!怪我人だぞ──」
時すでに遅く、ゾンビは光吉先生の腕に噛み付いて来た。すごい力で右腕を噛みちぎり、右腕は無残にも地面に転がり落ちた。その光景に廊下からは何人もの悲鳴が上がり、光吉先生の腕からは血が噴水のように吹き出した。
光吉先生が叫び声を上げる
「う、腕がぁぁぁ‼︎‼︎」
そしてゾンビは光吉先生に飛び掛かり腹の肉に貪りついた。光吉先生は断末魔の叫びの如く周りの生徒や教師に助けを求める。
「助けてくれぇぇ‼︎痛い‼︎助けてぇぇぇ‼︎‼︎」
「早くみんな戻れ‼︎死ぬぞ‼︎」
幸久の鬼気迫る言い方。そして先生の無残な姿に生徒は怖気付きすぐさま部屋へと戻り、鍵を閉めた。
先生の声に誘き出されたのか、エレベーター方面から何体ものゾンビが走って来た。
「くっ……助けられなくてすみません光吉先生……」
幸久は吐きそうになり、手で口を押さえ悔しそうにドアを閉めた。
「う、うぐっ……」
部屋に入った途端、幸久は吐き気を催し、口を押さえてすぐにトイレで全て吐いた。
「はぁ……目の前で先生が……」
そして廊下にいる他の教師達も光吉先生を置いて行き部屋へと逃げようと816号室のドアノブを握り、捻る……だがドアは開かない鍵が掛かっている。
「開けてください!!」
するとドアの向こうから教頭の声が
「今開けたらこの部屋が巻き込まれる可能性があります。君達には悪いが」
「今なら間に合います!!早く!!」
「お願いです!教頭!!」
廊下の教師達は血眼になり、手から血が出てくる程強く叩いている。そして教頭は冷静に言う。
「生徒達の安全の為です。生徒を守る……それが我々教師です」
「そ、そん……」
その声を最後に廊下からは数人の大人の断末魔の叫びがこだました。教師達はホテル員のゾンビ達に襲われて彼らもまたゾンビとなるのだ。生徒達はその断末魔の声に恐怖を感じ、全員が耳を塞いだ。
もちろんその声は、下の女子生徒達の階にも響き渡る。
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ホテル7階704号室の真沙美達。上からの悲鳴が下の階まで聞こえて来た。断末魔の叫びが真沙美達を脅かす。
「今の悲鳴……上の階から?」
不安そうに由美が言う。
「……何があったんだろう……」
真沙美も不安そうに言う。すると由美のスマホから電話が鳴る。由美は慌てた様子で電話に出る。
「もしもし‼︎」
「……俺だ‼︎幸久だ‼︎」
「幸久⁉︎」
息が荒く、疲れているような声で幸久は話している。
「今の悲鳴は……」
「絶対に廊下へ出るな‼︎他の奴らにも伝えろ‼︎伝えられる奴ら全員に伝えろ‼︎」
由美の言葉に聞く耳を持たず話す幸久。
「それと真沙美に聞いてくれないか‼︎雅宗から連絡来てないか」
「えっ……うん……」
由美は真沙美の顔を見て聞く
「真沙美‼︎雅宗君から連絡とかは来てない‼︎」
「えっ……全然来てない……何回も送ってるのに……」
その声は幸久にも届いており、落胆する。雅宗の安否は未だ不明……そのことに苛立ちが募っていたが、由美達の前なので、冷静に話した。
「分かった……ありがとう。もう一度言うがどんなに悲鳴が聞こえてもドアは開けるな‼︎分かったな‼︎」
「うん……」
由美の怯えているような声に幸久は優しく言った。
「助かる方法が絶対にあるさ……」
そう言い残し幸久の電話は切れた。そしてテレビでは未だに暴動の事を報道している。
スタジオで、女性キャスターが暗い表情で淡々と言い始める。
ーー先程の鹿児島中央駅付近の暴動についての続報です。駅前に向かったとされる警察官や救急隊員などのほとんどから連絡が途絶えたとの事が判明しました。また先程の報道陣及び機動隊との連絡も途絶えたままの模様。そして中央駅付近の病院との連絡も途絶え……ましたーー
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鹿児島中央駅付近の病院……
電話ボックスは飛び散ったような血が付着している受話器がぶら下がっており、ロビーも血に塗れており、おびただしい程の食い荒らされた原型を留めていない死体が転がっている。頭がない死体、両腕がない死体、骨がむき出しの死体など、見るも無残な状態になっている。
病院の中にいるのは、ゾンビ達……だけ。
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鹿児島中央駅を西に1km程、西千石町の逆方向にある山を超えた町常盤町。鹿児島中央駅に続く道は、常盤町や同じく西にある原良町への山道やトンネルなど警察官が待機して柵などで封鎖してある。
常盤町のトンネルから出てすぐにあるガソリンスタンドでアルバイトと思わしき青年が外で退屈そうにあくびをして、目を擦る。
「ふぁ〜〜。なんで隣町で暴動が起きてる時までバイトしなくちゃいけねぇんだよ……」
すると警察官が待機しているトンネル方面から何発もの銃声と叫び声が聞こえた。
「な、なんだ今の音?」
青年はすぐにその音に気づきガソリンスタンドから出てトンネルを見るとパトカーのランプが点灯してる中、警察2人が倒れており、柵が倒されている。
「暴動がここまで来たのか……」
暴動がこの地域にも広がったと思い、ガソリンスタンドの中に避難しようと後ろを振り返った瞬間、そこにいた影は……駅前で最初にゾンビとなった作業服のゾンビだった。
「えっ……ぎゃぁぁぁ!!!!!」
一人の青年の叫びと共にトンネルから無数のゾンビ達が常盤町へと流れ込む……
この時間はまだ続く……