修学旅行9日目 午前9時35分
午前9時35分……
「こんな感染者がいる街の中で、あの総合病院へ行けって事⁉︎」
「はい……そこに大切な人がいるんです……」
元太はやはりここ数日間ずっと死ぬ思いで運転をしてきた。だが、今や感染カラスはいなくなったものの、感染者という生きる屍が大量に街を歩いている。簡単には行きたくないようだ。
だが雅宗は必死に頭を下げる。伸二や彩音、雪菜達も何も言わずに雅宗を見ていた。
「でもそこにいる確証はあるのか‼︎」
「……大切な人は自衛隊のヘリに乗ってここに来るって言っていたんです……それが今、あそこにいるんです……助けるなら今しかないんです……お願いします……」
「う〜ん……」
悩む元太、すると雪菜が前に出て来て雅宗に言い放った。
「なら、あたしも行く……お前と2人でな」
「え……」
「な、何言ってる雪菜ちゃん⁉︎」
流石の元太も驚きを隠せなかった。綾音や伸二もびっくりしていた。
「で、でも雪菜ちゃん、街中は危なくてもう少し……」
すると雪菜は雅宗の顔を見て言う。
「おい‼︎本当にあのヘリなんだろ」
「あぁ……いつ飛び立つかは分からない……」
「だとよ……じゃあ行くぞ」
この無理矢理な説得だが、元太はNOとは言えず、渋々雪菜に従うのだった。
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昨日の夜とは打って変わって静かな街、ゴーストタウンと化した街を元太の軽トラが静かに走る。感染者は街をうろつき、残っている人間達を探している。
雪で白く染まっているはずの地面が乾いた血で染まっていた。元太達は感染者のいない安全に降りれる場所を探している。
「車の移動はこの静かな街には不向きかもしれない……何とかして真沙美のいる病院に近づかないと……」
その事で元太が聞く。
「真沙美って子は女の子?」
「はい……」
真沙美の事を知った元太は少し考えた末、自分の頰を叩き、急にやる気が出した。
「その子を助ける為に……よし‼︎行くぞ」
車は総合病院付近の駐車場で止まった。別の建物が影となり、病院からはこちらが見えない為、何かが近づいてくるのが分かりづらくなっている。
到着したら雪菜が一足先に軽トラから降り、何も言わずにそそくさ人目がない角に隠れた。雅宗は心配そうに追いかけた。
「お、おい……勝手に1人で……」
角まで観に行くと、雪菜は上半身シャツ1枚で制服に着替えている最中だった。そこで雪菜と雅宗の目が合い、お互いに固まってしまった。
お互いに状況が分かった瞬間、こんな寒い日がなのに雪菜の身体から湯気が出て来て、雅宗の顔面を一発ぶん殴った。
「この変態野郎がぁぁぁ‼︎」
「ぐへぇ‼︎」
雅宗は赤く少し腫れた頰を抑えながら軽トラに戻る。伸二がその事を聞いてきた。
「雅宗君どうしたの?」
「いや……何でもない……」
そして雪菜は着替え終わった後、再び軽トラに戻り元太に命令した。
「もし助ける事に成功しても失敗して、あんたに電話する。その時はすぐに来てくれ」
「分かった……」
「それまではここで動かずにいろ。もし危なくなったら逃げろ……」
「おう……」
雅宗は元太に頭を深く下げて礼をした。
「絶対に戻って来ます……真沙美を助けてから……」
「おう‼︎大切な彼女を助けてやれよ‼︎」
雅宗はもう一度頭を下げてから雪菜と共に病院へと向かった。
一般道路には多くの感染者が徘徊しており、裏道からこそこそと向かう事となった。建物の陰で感染者の動きを確認している時に、雪菜は雅宗に聞いた。
「そんなに大事か、その女が……」
「とても大事さ、あいつ馬鹿だけどさ、更に馬鹿な俺にあいつなりに優しく分からない事を教えてくれた。あいつと喋っていると時間まで忘れてしまう……今の俺には真沙美が必要だ、だから絶対に助けてやる……」
「ふん……」
雪菜はそれ以上何も言わずに一般道路を見つめた。その後感染者を避けながら、病院の駐車場へとたどり着いた。2人は車の陰に隠れながら病院の入り口を眺める。
「この病院に真沙美はいる……多分病院内も感染者がいるだろう、気をつけながら行く
ぞ」
「あぁ、だが入り口はシャッターで閉じられている、それに感染者がうじゃうじゃといやがる……」
「どこか窓が開いてないか探すぞ……」
2人はこそこそとバレないように動き、病院の草が生い茂って感染者からは発見されづらい男子トイレの窓際へと到着した。窓を調べるが、やはりと言うか当然開いてはいなかった。
「くっ……やはり開いてないか、他を探すか……」
雅宗が次の窓を探そうとすると、雪菜が両手で大きな石を必死に持っていた。
「まさか割るつもりじゃ⁉︎」
「探している暇だってないだろ……なら割ってさっさと入るぞ」
「まっ、それの方が早いか」
2人は一緒に石を持ちあげ、同時に声を合わせて窓に向けて思いっきり投げた。
「いっせいのでっ‼︎」
窓ガラスは見事に石の形に割れ、雪菜が割れて尖った窓の中へ、臆する事なく手を突っ込み鍵を開けた。
そして窓を開け、そこから2人は病院へと侵入した。
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その頃、屋上から病院に入った皇と神咲は小銃を構えた兵士2人を前に、後ろに1人の兵士を従えた状態で病院内を歩いている。
病院内もかなり荒れており、椅子や物などは散乱しており、血が壁一面におびただしく付いている。それに感染者となった患者や看護師などが徘徊しており、それを一体一体撃ち殺しながら目的の場所へと向かっている。所々道が椅子や机などの壁で封鎖されており、苦戦しながら進んでいる。
4階の道中、相変わらずニコニコしている神咲は皇に尋ねた。
「部屋はどこでしたっけ皇さん?」
「医院長室と特別患者室にね……まずは患者室に」
「た、助けてくれぇ……」
兵士が椅子や机を退かしていると、廊下の角から怪我している男性医師が現れ、肩を抑えながらこちらに向かって来た。
男が怪我している事に気づいた皇は神咲に何も言わずに顔を軽く動かし指示をした。それを確認した神咲は懐から拳銃を持ち出し、ニコニコと隠しながらその男へと近づいた。
「どうかしましたか?」
「さ、先程感染者に噛まれまして……」
男は焦っているのか身体中から汗が流れ、膝をつきながら神咲にしがみつく。
だが神咲はニコニコしながら対応を続けた。
「1つお聞きしてもよろしいですか?特別患者室の鍵の場所を教えてはくれませんか?」
「そ、それなら3階の受付にあります‼︎だから助けて……」
場所を教えた男の頭へあるものが突きつけられた。
「ありがとうございます……では」
「えっ」
廊下に一発の銃声が響き渡り、男はその場に倒れ込み頭から血が流れた。すぐに神咲は皇の元へと戻った。
「鍵の場所は聞き出せました。3階の受付のようです」
「そうか……なら3階に向かうぞ……」
この時、午前9時42分……