修学旅行9日目 午前8時40分
午前8時40分……
由美達と合流出来た幸久達。双方多くの犠牲を出したものだった。
「由美……大丈夫だったか……」
「うん……」
南先生や優佳も出て来た。優佳は隊員の血塗れ死体を見て絶句し、口に手を当て震え上がっている。
「……これ、幸久君達が……」
「みんなを守る為だった……すまないと思っている……」
龍樹は自分が着ている自衛隊の上着を脱ぎ、血塗れの死体に隠すように被せた。
すると龍樹がタックルで倒れて気絶していた隊員が薄っすらと目を開けた。目の前にいる幸久と由美の足を確認し、そっと手元に落ちている銃を拾った。
そしてすぐさま立ち上がり、幸久達に銃を向ける。
「貴様らぁ‼︎」
「……しまった‼︎」
引き金を引く瞬間、横から何かが隊員の頰に激しくぶつかり、脳を揺さぶり倒してそのまま気絶して倒れた。
「……靴?」
「サッカー部の俺がいて良かったな‼︎」
「蒼一郎⁉︎」
少し体が震えている蒼一郎が階段の隅付近にいた。その靴は蒼一郎の物で、銃を撃つ一瞬で靴を蹴りとばり、その靴が隊員の頰に直撃したのだ。
幸久は由美を引っ張り、全員に言い放つ。
「早く行こう‼︎下手に隊員に気づかれたら終わりだ‼︎」
幸久は気絶した隊員から服を剥ぎ取り、2階へと連れて行く。景仔とその信者達も静かに従い、2階に集まった。
それに林は1階から持ってきた小さな箱を持ってきた。
「これは皆さんの物です……隠しといて良かった……」
「ありがとうございます‼︎」
幸久が礼をし、林は剥ぎ取った隊員の服を着る。そして龍樹も別の隊員の上着を取って着る。
そして幸久は冷静に考えた。
「服はこの2着だけか……」
「何をする気なんだ?」
蒼一郎が聞くと幸久は何か閃き、龍樹と林を呼び出す。
「龍樹と林さんはちょっと来てくれ……」
「ふっ……何か考えがあるようだな」
「その通り……」
ニヤリと不敵に笑う幸久。その作戦とは
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待機しているヘリの操縦士は囚人を殺しにいった隊員達の帰りの遅さに疑問を抱いていた。
「来るのが遅くねぇか?」
「あぁ銃声も急に止んだしな……それに無線も連絡いれても来ないし……お?」
操縦士が他の隊員3名とぼやいていると収容所話の出入り口から帽子を深くかぶった自衛隊服を着た2人が早足でヘリに走ってヘリに入ってきた。
入って来た隊員達に別の隊員が不思議そうに聞いて来た。
「他の奴らは?」
その問いに隊員の1人林が震えながら答えた。
「ほ、他の方々はま、まだ残っているようです……」
「そうか……⁉︎」
すると林と一緒に来たもう1人の帽子を深くかぶった隊員が腰を掛けている隊員達に拳銃を向けた。
「な、何だ⁉︎」
「冗談のつもりか?」
何も疑いもなく、へらへらする隊員達だが、銃を向けた隊員が帽子を脱ぎ捨てるとそれは確信に変わった。
「貴様は……⁉︎」
帽子を脱いだのは囚人部屋にいたはずの龍樹で、躊躇いもない銃の構えでいつ撃ってもおかしくない状態だ。
それに対して隊員達は何かを察し、林を睨みつけ静かに両手を挙げた。
「くっ……林……裏切ったな」
「動いたら即撃つ」
そう言いつつ銃を構える。
「すぐに皇さんに……⁉︎」
操縦士が慌てて無線にて連絡しようとすると、突如頭に銃を突きつけられた。だがその手は震えていた。
「む、無線を繋いだら……撃ちます……」
「林……お前って奴は……」
そして林が操縦席の窓から収容所内に合図を送る。すぐさま中からヘリへと蒼一郎や優佳達が駆け寄ってくる。
だが宗教団体の景仔達は動こうとはせず、更に由美は景仔達を見てなんだか寂しげな表情で見ていた。夜中の出来事を知らない幸久はそんな由美を見て手を掴んでいく。
「由美も早く行こう」
「う、うん……」
「貴方達も早くヘリに乗りましょう‼︎」
幸久が景仔に大声で呼びかけるが、景仔や信者も動こうとはせずに幸久に言った。
「我々はあのような天を乱すものに乗らぬ……天は自らの手で行くものだ……」
「な、何言ってるんだ……」
すると幸久の後ろから梨沙が耳元で話しかけて来た。
「あいつらは変てこな宗教団体だ。構わない方が身の為さ……」
「えっ……あ、貴方は?」
「私は梨沙、君が幸久君でしょ」
「はい」
「とにかくヘリに急ごう」
「……分かりました」
由美は移動しようとする幸久の裾を強く握り、何か言いたげな表情だが、何も言わずに幸久について行った。
幸久達はヘリに乗り込み、幸久は龍樹が銃を向けている隊員達に言い放った。
「俺達はあんた達を殺すつもりない。だが……ここから降りろ」
「お、俺達は仲間はどうしたんだ‼︎」
「自分で収容所の中でも見てくればいいさ」
「……」
幸久と蒼一郎は両手を挙げ、観念した隊員達から武器を全て奪う。その間もずっと龍樹は銃を向けたままだった。拳銃やナイフなど様々な武器を奪う事に成功した。
そして武器を奪われた操縦士を除いた隊員達は、外へと追い出された。隊員はすぐさま幸久達に助けを求める。
「お、俺達は皇さんの命令で……」
「そ、そうだ‼︎あの人が悪かったんだ‼︎」
「そうか……」
言い訳をする隊員達に龍樹は無表情で銃を隊員達に向け、1発発砲した。
「ひっ‼︎」
隊員達は身体を小さく蹲ったが、弾は地面にあたり地面が多少凹んだ。そして林は銃を片手で持つ震える手で力強く操縦士に向けて言い放った。
「す、皇署長が向かう場所に向かって下さい‼︎そうしたら命は……」
「わ、分かったから撃つのはやめろ‼︎」
そうしてヘリのドアは閉められ、ヘリは上昇していった。その上がって行く最中、由美は窓からずっと地上にいる景仔達を見つめていた。やはり何処か寂しげな表情であった。
「……」
幸久は由美の肩に触れ、優しく言い放つ。
「由美……もうすぐで真沙美にも会えるからな……」
「……うん……」
由美は肩に置いた幸久の手の上に自分を手をそっと乗せた。
そしてヘリは皇と真沙美が向かっている香川県へと向かって行く。
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約1時間後の午前9時35分……香川県高松市。
この街も昨夜の感染カラスの襲撃により、多くの人々は感染者となり、街はまるで崩壊した世界のような荒れ具合だった。
いつもは朝の通勤ラッシュの道路では車は横転しており、賑わっている商店街では店のガラスは無残にも割れており、商品は殆ど盗られている。そして至る所に血や死体、肉片などが散乱しており、想像絶する状態になっていた。まるでゴーストタウンの状態だった。
そしてとある総合病院のヘリポート。数名のスーツ姿の男達が降りて来て、ヘリの中には真沙美が乗っていた。
降りて来たのは皇と神咲だった。皇はニコッと笑い、真沙美に優しく言った。
「真沙美ちゃんはヘリで待っててね」
「……うん」
そして小声で神咲に言う。
「もしもの為に兵士何名かをここに残しておけ……」
「分かりました」
そう言うと皇は銃を持った兵士達と神咲と共に病院内へと入って行った。
そのヘリを稲荷山から見ていた人物がいた。
「あのヘリは……まさか……」
トラックの荷台から病院へと向かってくるヘリを見つけたのは……雅宗だった。そして外で休んでいる綾音や伸二、雪菜や元太もいた。
「元太さん……ちょっとヘリが向かう場所に行くこと出来ますか?」
「あのヘリ?何かあるのかい?」
「あぁ……俺の大事な人が乗っている……」
この時午後9時35分……